身内に売るのだから、安い値段でいい。実家の始末で、いちばん多く聞いた考え方です。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていました。地主さんの資産や相続のご相談を受けていた当時、親子の間で相場より安く売った話が、あとから税務署の指摘につながったという話は珍しくありませんでした。
この、時価より著しく安い値段で財産を譲る取引を低廉譲渡といいます。税法は「いくらで売ったか」ではなく「時価との差がいくらあったか」を見にきます。
厄介なのは、その判定に使う時価が、相続税の計算で使う路線価ではないところです。ここを取り違えると、安く売って身内を助けたつもりが、贈与税の対象になります。
この記事では、低廉譲渡の仕組み、税目ごとに違う「著しく低い価額」の線引き、当事者の組み合わせ別の課税、そして空き家を親族へ安く売る前に確認したい落とし穴までを整理していきます。
低廉譲渡で税務署が見ているのは「差額」

売った値段そのものが問題になるわけではありません。焦点は別のところにあります。
低廉譲渡は時価より著しく低い対価での譲渡をいう
低廉譲渡とは、土地や建物などの財産を、時価より著しく低い対価で譲り渡す取引を指しますね。法律にこの言葉の定義があるわけではなく、税法上の扱いをまとめた呼び名です。
赤の他人同士の売買なら、双方が納得した金額が時価に近づきます。ところが親子や兄弟、同族会社との間では、金額を自由に決められてしまいますね。だから税法は、身内の取引に別のものさしを当てるわけです。
課税されるのは対価ではなく時価との差額
相続税法7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、その対価と時価との差額を、譲渡した人から贈与により取得したものとみなすと定めています。これがみなし贈与です。
条文にはただし書きもあります。譲り受ける人が資力を失って借金を返せない状況にあり、その返済に充てるために扶養義務者から譲り受けたときは、返済が困難な部分の金額については贈与とみなされません。生活に行き詰まった人を救う場面のための例外です。
時価は路線価ではなく通常の取引価額で見る
ここが低廉譲渡でいちばん誤解されている点になります。国税庁は、土地や借地権、家屋の時価は通常の取引価額、それ以外の財産は相続税評価額と整理しています。
さらに平成元年の通達が、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した土地や家屋は、取得時における通常の取引価額で評価すると定めました。相続税評価額と実際の取引価格の開きを使った税負担の回避に対応するための措置です。
つまり親子の売買では、路線価をもとにした相続税評価額を持ち出して「時価の8割で売った」と主張しても通りません。ものさしは市場で売れる値段のほうです。
| 場面 | 使う時価 |
|---|---|
| 相続や通常の贈与で土地を評価する | 相続税評価額(路線価方式・倍率方式) |
| 低廉譲渡でみなし贈与を判定する | 通常の取引価額(市場で売れる値段) |
| 不動産取得税・登録免許税を計算する | 固定資産税評価額 |
出典:国税庁「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」
出典:国税庁「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」
低廉譲渡の「著しく低い価額」は税目ごとに線引きが違う

同じ取引なのに、見る税金によって基準が変わりますね。ここを混ぜると判断を誤ります。
贈与税には2分の1のような数値基準がない
買った側の贈与税を判定するとき、相続税法7条には具体的な数値の基準が置かれていません。国税庁も、著しく低い価額の対価かどうかは個々の具体的な事案に基づいて判定すると説明しています。
世間では「時価の8割なら安全」という言い方が出回っていますね。ただし通達は、取引の事情や当事者間の関係を総合的に見て、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかで判定するとしています。割合だけで白黒が決まる仕組みにはなっていません。
譲渡所得には時価の2分の1未満という条文上の基準がある
一方、売った側の譲渡所得については、はっきりした数字があります。所得税法59条1項2号の「著しく低い価額の対価」は、施行令169条で譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額と決められていますね。
ただしこの規定が働くのは法人に対する譲渡に限られます。親から子へという個人同士の売買では、この「時価で売ったものとみなす」規定は動きません。売った側は、実際に受け取った金額をもとに譲渡所得を計算します。
2つの基準は別々に走る
ここを整理しておきましょう。国税庁は、贈与税の判定基準は、法人への譲渡で使う「時価の2分の1に満たない金額」という基準とは異なるものだと明記しています。
| 判定する税金 | 誰にかかるか | 基準 |
|---|---|---|
| 贈与税(相続税法7条) | 買った側 | 数値基準なし。事案ごとに判定 |
| 譲渡所得(所得税法59条1項2号) | 売った側 | 時価の2分の1未満(法人への譲渡のみ) |
時価の2分の1以上で売れば安心、という理解は成り立ちません。2分の1以上でも、差額が大きければ贈与税の側で拾われます。

「いくらまでなら大丈夫ですか」。この質問を、当時よく受けました。
正直に言うと、線を引ける立場の人はどこにもいません。数字の基準がある部分とない部分が同居していて、しかも判定は取引の事情を含めて行われるからです。
だから僕がお伝えしていたのは、線を探すのではなく、根拠を残すという発想に切り替えてくださいということでした。査定書や近隣の成約事例を集めて、その値段にした理由を説明できる形にしておく。攻め方ではなく守り方の話です。
線を1円単位で当てにいく人ほど、あとで説明できずに困っていました。
低廉譲渡は誰から誰へ売るかで課税が変わる4つのパターン

当事者が個人か法人かで、動く税金がまるごと入れ替わります。組み合わせごとに見ていきましょう。
パターン1|個人から個人へ売った場合
親から子へ、というもっとも多い形です。売った側には実際に受け取った金額をもとにした譲渡所得税、買った側には時価との差額に対する贈与税がかかります。
売った側の計算では、取得したときの契約書が見つからないと苦しくなりますね。取得費が不明な場合は譲渡価額の5%を取得費とみなす扱いになるため、安く売ったのに利益が大きく出る形になります。
桁の感覚をつかむために、仕組みだけを数字に置いてみましょう。市場で3,000万円の土地を、親が1,000万円で子に売ったとします。
| 誰に | 何が起きるか | 対象になる金額 |
|---|---|---|
| 売った親 | 譲渡所得税(実際の対価で計算) | 1,000万円 − 取得費・譲渡費用 |
| 買った子 | みなし贈与として贈与税 | 3,000万円 − 1,000万円 = 2,000万円 |
差額の2,000万円は、その年に受けたほかの贈与と合算し、基礎控除110万円を引いたうえで贈与税の税率を当てはめる形になります。税額そのものは財産の内訳や関係性で変わるため、必ず税理士に確認してください。
出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
さらに、買った側は取得費と取得時期を親から引き継ぎます。この点はあとの章で詳しく説明しますね。
パターン2|個人から法人へ売った場合
同族会社に不動産を移すときの形です。時価の2分の1未満で売ると、所得税法59条1項2号により、時価で売ったものとみなして譲渡所得が計算されます。手元に入っていない金額に対して税金が出るわけです。
買った法人の側では、時価と支払った対価との差額が受贈益として法人税の課税対象になります。
パターン3|法人から個人へ売った場合
会社の資産を役員や従業員へ安く移す形です。法人側は時価で譲渡したものとして扱われ、差額は相手との関係に応じて寄附金や給与、賞与として処理されます。
受け取った個人の側は贈与税ではありません。役員や従業員なら給与所得や賞与、関係のない個人なら一時所得として所得税と住民税の対象になります。法人からの利益供与は贈与税の対象外だからです。
パターン4|法人から法人へ売った場合
グループ会社の間で資産を移すときの形になります。売った法人は時価で譲渡したものとして譲渡益を計上し、差額は買った法人への寄附金として扱われます。
寄附金は損金に算入できる限度額が厳しく制限されているため、税負担が重くなります。買った法人の側は差額を受贈益として計上し、法人税の対象になります。
| 当事者 | 売った側 | 買った側 |
|---|---|---|
| 個人 → 個人 | 譲渡所得税(実際の対価で計算) | 贈与税(時価との差額) |
| 個人 → 法人 | 譲渡所得税(時価で計算) | 法人税(受贈益) |
| 法人 → 個人 | 法人税(寄附金・給与等) | 所得税・住民税(給与や一時所得) |
| 法人 → 法人 | 法人税(寄附金) | 法人税(受贈益) |

実家の始末で関係してくるのは、ほぼパターン1です。
それでも4つ並べたのには理由があります。ネット上には法人向けの解説と個人向けの解説が混ざって流れていて、自分の取引に当てはまらない基準を読んで安心してしまう方がいるからです。
「時価の2分の1未満でなければ大丈夫」と書いてある記事を読んで、親子の売買で安心する。これがいちばん危ない読み違えなんです。その基準が当てはまるのは、法人が絡む取引だけですよ。
自分がどの箱にいるのかを先に確かめてから、数字の話に入ってください。
低廉譲渡と贈与、親族間で移すならどちらが軽いのか

安く売るという選択は、実は売買と贈与のあいだにあります。それなら最初から贈与を選ぶ道も比べておきましょう。
暦年課税は年110万円の基礎控除で少しずつ移す形
贈与税の原則的な計算方法が暦年課税です。1年間に受けた贈与を合計し、そこから基礎控除110万円を差し引いた金額に税率をかけます。
不動産をこの枠で移そうとすると、持分を毎年少しずつ贈与していく形になります。登記の費用が毎回かかるうえ、共有持分が増えて権利関係が複雑になるため、実家の始末という目的には向きません。
相続時精算課税は2,500万円までの特別控除がある
60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与では、相続時精算課税を選べます。届出をした年以降、累計2,500万円までの特別控除が使え、それを超えた部分に一律20%の贈与税がかかる仕組みです。
令和6年からは、この制度にも年110万円の基礎控除が加わりました。基礎控除の範囲内なら申告も不要になります。
ただし名前のとおり、贈与した財産は相続のときに相続財産へ足し戻して精算されます。税金が消えるのではなく、払うタイミングが移る制度です。いったん選ぶと暦年課税へは戻せません。
低廉譲渡は売買と贈与が同時に起きる形になる
低廉譲渡を選ぶと、売った側には譲渡所得税が、買った側には差額分の贈与税がかかります。売買の税金と贈与の税金を、両方とも走らせている状態です。
対価をいくらか受け取りたい事情があるなら合理的な選択になります。一方で、対価を受け取る必要がないなら、最初から贈与として設計したほうが手続きも判定もはっきりしますね。
| 移し方 | 売った側 | 受け取った側 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 通常の売買(時価) | 譲渡所得税 | なし | 市場価格で現金化したいとき |
| 低廉譲渡 | 譲渡所得税 | 差額に贈与税 | 対価も受け取りたいとき |
| 暦年課税の贈与 | なし | 贈与税(110万円控除後) | 少額を長期で移すとき |
| 相続時精算課税 | なし | 2,500万円まで控除・相続時に精算 | まとまった財産を先に移すとき |

当時いちばん多かった相談の入り方が「安く売れば贈与税を避けられますよね」でした。
順序が逆なんです。安く売る行為そのものが、贈与税の入口になっています。避けるための手段が、避けたいものを呼び込んでいる構図ですね。
もし目的が「子に負担をかけずに渡すこと」なら、比べるべき相手は通常の売買ではなく贈与の制度です。相続時精算課税を使えば、2,500万円までは贈与税を出さずに移せます。
手段を先に決めてから理由を探すと、こういう遠回りになります。目的から選び直すだけで、選択肢はもう少し広がりますよ。
空き家の低廉譲渡で確認したい6つの落とし穴

ここからは、実家の空き家を身内に安く譲ろうとしている方に向けた話になります。
落とし穴1|空き家の3,000万円特別控除が使えなくなる
相続した実家を売るとき、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。相続人が3人以上の場合は2,000万円までです。
この特例には、親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないことという要件があります。生計を一にする親族、売ったあとにその家で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人も含まれますね。
つまり子どもや兄弟へ売った時点で、この控除は使えません。節税のつもりの安い売買が、3,000万円の控除枠を捨てる行為になっているわけです。適用期限は令和9年12月31日までの譲渡とされています。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
落とし穴2|マイホームを売ったときの3,000万円控除も同じ
自分が住んでいた家を売る場合の3,000万円特別控除にも、同じ「特別の関係がある人」への譲渡を除く要件が置かれていますね。
親が住んでいた家を子が買い取る形にすると、親の側でこの控除が使えません。住み替えのつもりで身内に売った結果、税負担だけが増えるという形になります。
出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
落とし穴3|買った側は親の取得費と取得時期を引き継ぐ
個人の間で時価の2分の1未満の対価で譲り受けた場合、所得税法60条により、買った側はその資産を引き続き所有していたものとみなされます。
これは、あとで売るときに効いてきます。安く買ったつもりでも、取得費は自分が払った金額ではなく親が取得したときの金額を引き継ぎますね。将来売却したときの譲渡益が、そのぶん膨らむ構造です。
所有期間も引き継ぐため、長期譲渡所得の判定では有利に働きます。ただし取得費の引き継ぎによる増税分のほうが大きくなるのが通常です。
落とし穴4|安く売って出た損失はなかったものとみなされる
売った側にも同じ規定が用意されています。所得税法59条2項により、個人へ時価の2分の1未満で売って取得費と譲渡費用の合計を下回る対価しか受け取らなかった場合、その不足額はなかったものとみなされます。
損失を出して他の所得と相殺する、という使い方はできません。安く売れば損が出て有利になるという発想は、この条文で塞がれています。
落とし穴5|不動産取得税と登録免許税は安く売っても下がらない
売買代金を下げれば流通税も下がる、と考える方がいますね。実際は連動しません。
不動産取得税の課税標準は、地方税法73条の13で不動産を取得した時における不動産の価格と定められています。売買代金ではありません。登録免許税も、課税標準は登記の時における不動産の価額とされ、当分の間は固定資産課税台帳に登録された価格を基礎とする扱いです。
代金を1円にしても、この2つの税金は固定資産税評価額をもとに課されます。この評価額がどのくらいの水準になるのかは【2026年最新】土地の固定資産税の計算方法とは?放置で税金6倍の罠と抜け出すための解決策で確認できます。
落とし穴6|住宅ローン控除が使えず、親からの借入金も対象外になる
買った側が住宅ローン控除を当てにしている場合は、ここも確認しておきましょう。国税庁は適用要件として、取得時および取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないことを挙げています。
さらに借入先にも制限がありますね。親族や知人からの借入金は、すべて控除の対象となる借入金に該当しません。親から代金を借りて分割で返す形にしても、その借入金では控除を受けられないわけです。
出典:国税庁「No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」

売れない実家を子どもに1円で譲る、という相談を受けたことがあります。
気持ちはわかりますね。管理の手間も固定資産税も、自分の代で終わらせたい。ただ、そのやり方だと空き家の3,000万円控除という最大級の枠を自分から手放すことになります。
しかも譲られた側は、固定資産税を払い続ける立場に変わるだけです。使う予定のない家を身内へ動かしても、負担の置き場所が変わるだけで問題は残ります。
このあたりの費用の全体像はいらない負動産を絶対に放置してはいけない理由とは?プロが教える最強の手放し方6選!にまとめました。身内で押し付け合う前に、そのまま買い取ってくれる業者に査定を出して、外に出せる値段があるかどうかを先に確かめてください。
低廉譲渡でみなし贈与を指摘されないための5つの手順

低廉譲渡を避けるのではなく、指摘されない形に整える。実務の順番で整理します。
手順1|先に時価の根拠を作る
売買の金額を決める前に、その土地や建物が市場でいくらで売れるのかを確かめますね。複数の不動産会社から査定を取り、書面で残してください。
金額が大きい場合や関係者が多い場合は、不動産鑑定士による鑑定評価書という選択肢もあります。費用は物件によりますが数十万円規模になるため、動く金額と見比べて判断することになります。
手順2|対価と資金の動きを実態に合わせる
契約書に書いた金額が、実際に動いていないケースがあります。売買契約書があっても、代金が振り込まれていなければ、外形上は贈与と区別がつきません。
代金は銀行振込で払い、通帳に記録を残してください。分割払いにするなら返済の条件も契約書に落とし、そのとおりに実行します。
手順3|ほかの相続人との公平を先に設計する
税金の話が片づいても、家族の話が残りますね。特定の子だけが実家を安く譲り受けた事実は、将来の遺産分割で必ず持ち出されます。
生前の贈与とみなされる部分は、相続のときに特別受益として問題になり得ます。安く譲るなら、ほかの相続人に相当する現金を残すなど、全体で釣り合う形を先に決めておいてください。
すでに意見が割れているなら、ここから先には線が引かれていると考えてほしいんです。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。まず弁護士に相談してください。
手順4|申告の期限を先にカレンダーに入れる
差額が贈与とみなされた場合、申告するのは受け取った側です。贈与税の申告と納税は、もらった年の翌年2月1日から3月15日までに行います。
売った側の譲渡所得の申告も、譲渡した年の翌年です。申告しなかったり少ない額で申告したりすると加算税が、納税が遅れると延滞税がかかります。取引の日ではなく、翌年の期限から逆算して動いてください。
手順5|そもそも身内で動かすべきかを問い直す
最後にもう一段、戻って考えてほしい部分があります。その不動産を、本当に身内で移す必要があるのかという問いです。
誰も住まない、貸す当てもない。それなら市場に出して現金にしたほうが、控除も使えて分けやすくなります。身内で名義を移すと、権利者が増えて次の世代でさらに動かしにくくなりますね。
判断の分かれ目は、その物件に借り手や買い手がつく見込みがあるかどうかです。名義を移す話は、その答えが出たあとで構いません。

現場で聞いていたのは、たいてい悪意のない話でした。
長男に家を継いでほしい。介護をしてくれた子に報いたいから安く売る。動機は情なのに、結果は税金と兄弟のわだかまりとして残ります。
僕自身は、揉めるくらいなら売って現金で分けたほうがいいと考えています。親御さんが、自分の家のせいで子どもたちが争うことを望んでいるとは思えません。
低廉譲渡そのものが悪いわけではありませんね。ただ、身内で動かす前に「外に売ったらいくらか」を一度は確かめてください。その数字がないまま決めた金額は、税務署にもご兄弟にも説明できないんです。
低廉譲渡に関して、よくある質問

低廉譲渡とはどのくらい安く売ることをいいますか?
贈与税の側には数値の基準がありません。国税庁は個々の具体的な事案に基づいて判定すると説明しています。
譲渡所得の側には時価の2分の1未満という基準がありますが、これは法人への譲渡に適用されるものです。個人同士の売買にそのまま当てはめることはできません。
親子間で時価の8割で売れば贈与税はかかりませんか?
8割なら安全という基準は、法令にも通達にもありませんね。判定は取引の事情や当事者間の関係を総合的に見て、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかで行われます。
割合を当てにいくより、その金額にした根拠を書面で残すほうが確実です。判断は税理士に確認してください。
兄弟の1人だけに安く売ると相続のときに問題になりますか?
税務と家族の問題は別に走ります。税務上の整理がついても、遺産分割の場面では特別受益として持ち出されることがありますね。
すでに意見が割れている場合、個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。弁護士に相談して、取り得る選択肢を整理してもらってください。
使っていない空き家を子どもにタダ同然で譲るのは低廉譲渡ですか?
対価がまったくなければ贈与そのものです。わずかな対価をつけた場合は低廉譲渡として扱われ、時価との差額が贈与とみなされます。
どちらの形でも、空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。譲る前に、市場で売れる値段があるかどうかを確かめてください。
親族間売買だと住宅ローンは組めませんか?
金融機関ごとに扱いが違うため、借りる予定の窓口へ直接確認してくださいね。ここで確実に言えるのは税制のほうです。
住宅ローン控除は、生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得では適用されません。親族や知人からの借入金も、控除の対象となる借入金には含まれません。
低廉譲渡をしたあとに税務署から連絡が来たらどうすればいいですか?
自分で回答する前に、税理士へ相談してください。価格の根拠となる資料が手元にあるかどうかで、その後の展開が変わります。
査定書、近隣の成約事例、代金の振込記録、契約書。この4点を揃えて相談すると、話が早く進みます。

質問を並べてみて、共通しているものがありますね。どれも「いくらなら安全か」を知りたがっている点です。
売買の部門と一緒に仕事をしていた当時、正直に感じていたことがあります。金額の小さい土地や権利に問題のある土地は、担当者から見ると手間の割に実入りの薄い案件になります。だから最初から安い数字を出して、早く終わらせようという力が働きやすい構造なんです。
身内に売るときの価格を、その1社の査定だけで決めてしまうと二重に危ない。安すぎれば税務署に、高すぎれば買った側の資金計画に跳ね返ります。
査定は必ず複数社から取ってください。相場を知らずに金額を決めるのが、低廉譲渡でいちばん多い失敗の入口です。
まとめ

低廉譲渡は、時価より著しく低い対価で財産を譲る取引でした。問題になるのは売った金額ではなく、時価との差額です。
要点を整理します。
- みなし贈与の判定に使う時価は、路線価ではなく通常の取引価額
- 贈与税の側に数値基準はない。時価の2分の1未満は法人への譲渡に使う基準
- 個人から個人なら、売った側に譲渡所得税、買った側に贈与税
- 対価が要らないなら、相続時精算課税なら2,500万円まで贈与税を出さずに移せる
- 空き家の3,000万円控除もマイホームの3,000万円控除も、親族へ売ると使えない
- 買った側は取得費と取得時期を引き継ぐ。将来売るときに譲渡益が膨らむ
- 住宅ローン控除も対象外。親族からの借入金は控除の対象になる借入金に含まれない
- 不動産取得税と登録免許税は、代金を下げても固定資産税評価額をもとに課される
守り方はひとつです。金額を決める前に、複数社の査定でその不動産の市場価格を確かめて、書面で残しておきましょう。
あわせて読みたい








僕が現場にいた当時、いちばんもったいないと感じたのがこの一点でした。
相続税の話を勉強した方ほど、路線価を時価だと思い込みます。実際、相続で土地を評価するときはそれで合っているんです。ところが身内に売る場面に持ち込むと、同じ数字が通用しません。
制度を知らないまま動くと、その差はそのまま税金として返ってきます。売る前に調べれば無料で済んだ話が、売ったあとでは取り返せない。不動産の世界では、この順番の差が金額の差になります。
先に確認する。それだけで防げる損が、ここには残っています。