「隣のブロック塀が、うちの敷地に10センチ入っているんです」。実務をしていた当時、土地の相談でこの手の話が出てこない月はありませんでした。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていました。空き地や古い家を見つけては登記事項証明書を取り、所有者を訪ねて提案をする仕事です。そこで持ち出される悩みは、税金でも相続でもなく、隣との境目の話であることが本当に多かったんですね。
塀、フェンス、屋根の軒先、給排水の配管、木の枝。境界線をまたいでいる物は、思っているよりずっとたくさんあります。そして厄介なのは、はみ出しに気がつくのが「売ろうとしたとき」だという点なんです。
結論から言います。土地の境界線のはみ出しは、売却を止める理由になりません。越境があっても土地の売買を禁じる法律はなく、実際に買取という形で日々取引されています。
ただし、売り方は変わってくるんです。はみ出しがある土地は、普通の仲介と同じ手順を踏むと途中で止まりやすく、誰に売るかの選択肢を先に持っているかどうかで結果が分かれるんですね。
そしてもう一つ。動く前に確かめておくものがあります。公図と地積測量図、それに現地の境界標です。この3つを見ないまま隣に話を持っていくと、たいてい話がこじれます。
この記事では、境界の前提、買取に回る理由、売る前の確認、5つの売り先、はみ出しの解消方法、価格の下がり方、相続したときの影響、税金、進め方の順にたどります。法令と制度は、法務省・e-Gov法令検索・国土交通省・国税庁・日本土地家屋調査士会連合会で確認したものだけを載せました。2026年8月時点の内容としてお読みください。
土地の境界線のはみ出しがある土地は売れるのか|まず押さえる3つの前提

売れます。越境している土地の取引を禁じる規定は、どこにもありません。
ただし「境界」という言葉が2つの意味で使われているせいで、話が噛み合わなくなることが起きます。前提を3つ整理させてください。
前提1|「筆界」と「所有権界」は何が違うのか
法務省は、筆界を土地が登記されたときにその土地の範囲を区画するものとして定められた線と説明しています。不動産登記法123条1号にも、同じ定義が置かれているんですね。
ここが重要なところなんです。筆界は、隣同士の話し合いや合意では動かせません。登記されたときにすでに決まっている線だからです。
一方、日常語の「境界」は、所有権がどこまで及ぶかという線の意味でも使われます。法務省もこの2つを分けて説明していて、筆界と所有権の範囲は一致することが多いものの、一致しないこともあるとしているんですね。
はみ出しの相談で最初にすべきなのは、自分が悩んでいるのが登記上の線の話なのか、所有権の話なのかを分けることになります。
出典:法務省「筆界特定制度」/e-Gov法令検索「不動産登記法」
前提2|越境があっても土地の売買は禁じられていない
塀が出ている、軒が出ている、配管が通っている。こうした状態の土地でも、売買契約そのものは有効に結べます。
問題になるのは、買主に伝えたかどうかのほうです。宅地建物取引業法47条1項1号は、宅地建物取引業者が、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げなかったり、事実と違うことを告げたりする行為を禁じています。
売主が個人であっても、話は他人事になりません。民法562条1項は、引き渡された目的物が種類・品質・数量について契約の内容に適合しないとき、買主が修補などの追完を請求できると定めているからです。隠して売ると、引き渡した後に責任が戻ってきます。
出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」/e-Gov法令検索「民法」
前提3|隣の木の枝は、切ってよい場合と切れない場合がある
境界線は地面だけの話ではありません。地表の線から上にも下にも及びます。だから隣から伸びてきた枝も、越境として扱われるわけです。
民法233条1項は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるとき、その竹木の所有者に切除させることができると定めています。原則は「自分で切る」ではなく「切らせる」なんですね。
ただし同条3項は、①切除するよう催告したのに相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、または所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるときには、土地の所有者が自分でその枝を切り取ってよいとしています。
根の扱いは、これと逆になるんですね。同条4項により、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、そのまま切り取ることができます。枝と根で結論が逆になるのが、この条文の面白いところです。
| 対象 | 原則 | 自分で切れる場合 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 枝 | 竹木の所有者に切除させる | 催告して切除しない/所有者が不明・所在不明/急迫の事情 | 民法233条1項・3項 |
| 根 | 自分で切り取れる | 制限なし | 民法233条4項 |
| 隣地への立入り | 目的の範囲で使用できる | 枝の切取り・境界標の調査・境界の測量など | 民法209条1項 |
| 住家への立入り | 居住者の承諾が必要 | 承諾なしには入れない | 民法209条1項ただし書 |
なぜ土地の境界線のはみ出しがある土地は買取に回るのか|4つの理由

はみ出しがあるだけで、なぜ普通の売り方が止まるのか。理由は感情ではなく、手続きの構造にあります。
理由1|買主が境界の確定を求めてくるから
仲介で一般の買主に売る場合、契約書に「境界を明示して引き渡す」という趣旨の条項が入るのが通例です。ここでいう明示は、口頭の説明ではなく現地の境界標で示すことを指します。
境界標が現地になければ、測量して復元する作業が必要になります。そして復元には、隣の土地の所有者の立会いが要るんです。
隣が協力しない、遠方にいる、亡くなっていて相続人がわからない。このどれかに当たると、そこで日程が止まります。買主には転居や融資の予定があるので、止まった時点で話が流れることが起きるわけですね。
理由2|買主の資金計画に影響が出るから
買主が金融機関から借り入れをして買うとき、対象の土地は担保として評価されます。境界が確定していない土地や越境がある土地は、この評価の場面で扱いが慎重になります。
「必ず断られる」という話ではありません。金融機関ごとに判断は違いますし、越境の内容によっても変わります。ただ、確定した土地に比べて手続きが増えるのは確かで、その分だけ買主の選択肢から外れやすくなるわけです。
一方、買取業者は自社の資金で買います。ここが仲介との決定的な違いになります。
理由3|売主に説明の責任が残るから
前提2で触れたとおり、越境を伝えずに売ると、引き渡した後に責任が戻ってきます。民法566条は、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ請求できないと定めていますが、売主が引渡しのときにその不適合を知っていた場合には、この期間の制限が働きません。
つまり、知っていて黙っていた売主は、1年という区切りに守ってもらえないんです。ここを知らずに「言わなければ売れる」と考えるのは、いちばん高くつく選択になります。
先に開示して価格に織り込む。これが越境のある土地でいちばん安全な進め方になります。
理由4|そもそも境界が確定していない土地が半分近くあるから
自分の土地だけの特殊事情だと思い込む必要はありません。国土交通省は、土地の境界や面積を明確にする地籍調査について、令和7年度末時点の進捗率が全国の地籍調査対象地域で53パーセントだと公表しています。
裏返せば、対象地域の半分近くは調査が終わっていないことになります。古い分譲地や農地からの転用地で境界標が見当たらないのは、珍しい話ではないわけです。
はみ出しは、個人の落ち度というより時代の産物である場合が多い。この理解があると、隣との話し合いも進めやすくなりますよ。
出典:国土交通省「「土地の戸籍」に関する最新の調査実施状況を公表します」

解体や建替えの現場で揉める原因の第一位は、僕が担当していた当時から境界でした。塀は誰の物か、埋まっている杭はどこか。掘ってみて初めて境界杭が出てきた現場もあります。
測量の立会いは、平日の日中に隣の方に時間を作ってもらう作業です。だからこそ、関係が良いうちに動くほうが早い。関係がこじれてからでは、同じ作業が何倍もの時間になります。
買取を頼む前に何を確かめるか|図面と現地で調べる4つのこと

はみ出しの相談は、資料を持たずに始めると空回りするんです。順番に集めましょう。
確認1|公図と地積測量図を法務局でどう取るか
まず法務局で、対象の土地の登記事項証明書・公図・地積測量図を取ってください。窓口でも郵送でも請求でき、管轄は法務局のホームページで確認できます。
このうち地積測量図は、すべての土地にあるわけではありません。分筆や地積更正の登記をしたことがある土地にしか備え付けられていないからです。
図面がない場合、境界の手がかりは現地の境界標と過去の測量図に絞られます。ないという事実がわかること自体が、ひとつの前進になります。
出典:法務局「管轄のご案内」
確認2|現地の境界標をどう見るか
図面を持って現地に立ち、角にあたる位置を見てください。コンクリートの杭、金属の鋲、プラスチックの杭。刻印された矢印や十字が、線の向きを示しています。
見つからないときは、土やアスファルトの下に埋まっていることもあるんです。素人が勝手に掘り返すのは避けてください。動かしてしまうと、そこから話がややこしくなるからです。
民法229条は、境界線上に設けた境界標・囲障・障壁・溝・堀は相隣者の共有に属するものと推定すると定めています。塀が「うちの物」だと思い込んでいるケースは、実際にはかなり多いんですね。
確認3|はみ出しているのはどちらの物かを分ける
越境には2つの向きがあります。自分の物が隣に出ている場合と、隣の物が自分の側に入っている場合です。
出ている物についても、種類を書き出してください。塀、フェンス、擁壁、建物の軒や庇、雨樋、給排水管、電線、樹木の枝や根。地上だけを見て終わらせると、配管の越境を見落とします。
向きと種類が整理できると、次の一手が決まります。自分の物が出ているなら撤去や覚書、隣の物が入っているなら催告や覚書が入口になるわけです。
| はみ出しの向き | 典型例 | 最初の一手 |
|---|---|---|
| 自分の物が隣へ | 塀・軒・雨樋・配管 | 現状の確認と覚書の打診 |
| 隣の物が自分へ | 塀・室外機・樹木の枝 | 状況の記録と隣への相談 |
| 双方が出ている | 古い分譲地に多い | 相互の覚書でまとめて整理 |
| 位置が不明 | 境界標がない | 土地家屋調査士へ相談 |
確認4|隣地の所有者が誰かをどう調べるか
隣の土地の登記事項証明書は、他人の土地でも取得できます。所有者として登記されている人の氏名と住所が載っているので、まずここを見てください。
登記の名義が何十年も前のままで、その方がすでに亡くなっている。この状態が、越境の解決を止めるいちばん多い原因になります。相続登記が済んでいないと、立会いを誰に頼めばよいのかが決まらないからです。
僕も実務をしていた当時、空き家を見つけては登記事項証明書を取り、所有者を追いかけていました。書面から始めるのは、遠回りに見えていちばん確実な道になります。

資料を持たずに隣のインターホンを押すのは、いちばん危険な進め方だと思っています。記憶と記憶をぶつけると、話は必ず平行線になるからです。
公図と地積測量図をコピーして、「この図面で合っているか一緒に見てほしい」と持っていく。この形にすると、相手も敵ではなく確認の相手として向き合ってくれます。順番を変えるだけで結果が変わる部分ですよ。
土地の境界線のはみ出しがある土地の売り先|5つの出口

ここからが本題になります。越境がある土地は、売り先ごとに価格も期間もまるで違います。
売り先1|隣地の所有者に買ってもらう
いちばん高く売れる可能性があるのは、隣の方になります。理由は単純で、隣の人にとってその土地は自分の敷地を広げる唯一の土地だからです。
越境という問題も、同じ人の所有になれば消えます。塀の位置を争う相手がいなくなるからですね。
ただし、隣に買う資力と意欲があることが前提になります。打診して断られたら次へ進む、という順番で構いません。
売り先2|訳あり物件を専門に扱う買取業者に売る
越境や境界未確定を織り込んで買う会社があります。自社で買い取ったうえで、覚書の取り交わしや測量を自分たちで進める前提の値付けをしてくるんですね。
価格は仲介より下がります。その代わり、隣との交渉と測量の手間を売主が背負わずに済むのが対価になるわけです。
業者を選ぶときは、越境の解消をどこまで自社でやるつもりなのかを聞いてください。詳しい見方は訳あり物件買取業者の選び方にまとめています。
売り先3|隣地と足並みをそろえて同時に売る
自分の土地と隣の土地を、同じ時期に同じ買主へ売る形です。2筆がまとまることで敷地の形が整い、それぞれを単独で売るより高い評価がつくことがあります。
越境の処理も、まとめて所有者が変わるので論点から外れます。境界の位置だけを新しい買主に引き継げばよくなるからです。
隣も手放したいと考えている場合に限られますが、可能性があるなら打診の価値は高いですよ。
売り先4|はみ出しを解消してから仲介で売る
覚書や撤去で状態を整え、確定測量まで済ませてから一般の買主に売る道です。手取りがいちばん大きくなりやすいのはこの形になります。
その代わり時間がかかります。隣の立会い、測量、書面の取り交わし。相手の都合次第では、数か月単位で伸びることもあるわけです。
急いでいないなら、まずこの道を検討してください。急いでいるなら、次の売り先2との比較になります。
売り先5|はみ出している部分だけを分筆して整理する
塀や建物が出ている部分の面積が小さいとき、その部分だけを分筆して売買したり交換したりして、線を実態に合わせる方法があります。
分筆には測量と登記が必要になるため、費用と時間がかかるんです。それでも、代々続く越境をここで終わらせられるのが利点になります。
隣も同じように出ている場合は、相互に分筆して交換する形も取れます。土地家屋調査士に図面を引いてもらったうえで検討する形になります。
| 売り先 | 価格の目安 | 期間 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 隣地の所有者 | いちばん高くなり得る | 相手次第 | 隣と話ができる人 |
| 訳あり専門の買取業者 | 仲介より下がる | 短い | 手間と時間を避けたい人 |
| 隣地と同時売却 | 単独より上がることがある | 中くらい | 隣も手放したい場合 |
| 解消してから仲介 | いちばん高くなりやすい | 長い | 急いでいない人 |
| 分筆して整理 | 整理後の評価による | 長い | 代々の越境を終わらせたい人 |

買取の査定を受けるときは、金額そのものより「その金額になった理由」を聞いてください。越境の解消にいくらを見ているのか、測量費をどちらが持つ前提なのか。
根拠を説明できない会社は、根拠なく下げることもできる会社です。同じ資料を渡して2社以上に聞くと、下げ幅の理屈が比べられるようになりますよ。
はみ出しを解消する方法|4つの選択肢

売る前でも売った後でも、越境そのものを整理する手段は用意されています。負担の軽い順に並べていきますね。
方法1|越境の覚書を交わす
いま出ている物をお互いに認め、将来どうするかを書面にしておく方法です。物理的には何も動かさないので、費用がほとんどかかりません。
書き込む内容は、越境している物の特定、現状のままとすること、建替えや修繕のときに撤去すること、そして所有者が変わったときにこの約束を引き継がせること。この4点が柱になります。
覚書があるだけで、買主から見たリスクの見え方が変わります。「いつか揉める土地」から「処理の道筋が決まっている土地」に変わるからです。
方法2|物理的に撤去する
塀や室外機のように動かせる物なら、撤去して線の中に収めるのがいちばんはっきりします。費用はかかりますが、話はそこで終わるんです。
建物の基礎や擁壁になると、撤去は現実的ではなくなります。構造に関わる物は無理に動かさず、覚書で処理するほうが安全です。
隣の敷地に立ち入る必要があるときは、民法209条1項が使えます。境界付近の工作物の築造・収去・修繕や、境界標の調査、境界の測量が目的なら、必要な範囲で隣地を使用できると定められているからです。住家に入るには居住者の承諾が要る点だけ注意してください。
方法3|筆界特定制度を使う
隣と線の位置で見解が食い違うとき、法務局の筆界特定制度が使えます。土地の所有者として登記されている人などの申請に基づき、筆界特定登記官が外部専門家の筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における筆界の位置を特定する制度です。
法務省は、この制度を活用すれば隣人同士で裁判をしなくても筆界をめぐる問題の解決を図れると説明しています。裁判より迅速で、費用の負担も少なくて済むとされているんですね。
手数料は土地の価格で決まります。法務省の例では、申請人の土地と隣の土地の価格の合計が4,000万円の場合、申請手数料は8,000円です。ただし手続きの中で測量が必要になったときは、その測量費用は別に負担することになります。
押さえておきたい限界も2つあります。ひとつは、筆界特定は所有権がどこまであるのかを特定する制度ではないこと。もうひとつは、結果に納得できないときは後から裁判で争えることです。
出典:法務省「筆界特定制度」
方法4|第三者を入れた話し合いか、裁判に進む
感情がこじれている場合は、間に人を入れる形があります。土地家屋調査士会が運営するADR境界問題相談センターでは、土地家屋調査士と弁護士が調停人となって当事者間の話し合いを手伝い、合意した内容に基づいて境界標の埋設や登記手続きまで行うと案内されているんですね。
それでもまとまらなければ、筆界確定訴訟などの裁判手続きが残るわけです。ここから先は法律上の争いになるため、個別の主張が通るかどうかについては、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。相談先は弁護士になります。
| 方法 | 費用 | 期間 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 越境の覚書 | 小さい | 短い | 関係が悪くない/構造物が動かせない |
| 物理的な撤去 | 中〜大 | 中くらい | 塀や室外機など動かせる物 |
| 筆界特定制度 | 手数料+測量費 | 中くらい | 線の位置で見解が割れている |
| ADR・裁判 | 大きい | 長い | 話し合いが成立しない |
出典:日本土地家屋調査士会連合会「ADR境界問題相談センター」

境界の話をこじらせる原因は、金額ではなく順番だと感じています。いきなり「どけてください」から入ると、相手は身構えるからです。
先に「うちの物がそちらに出ているようです」と、自分の側から切り出す。これができると、相手も自分の側の話を出しやすくなります。解体前に所有者本人が挨拶に行くと近隣の納得が段違いに上がったのと、同じ理屈になります。
土地の境界線のはみ出しは買取価格をどれだけ下げるのか|3つの見方

いくら下がるのかは、はみ出した面積では決まりません。見るべき軸は別のところにあるんです。
見方1|減る面積より「使えなくなる部分」で引かれる
10センチの越境でも、その位置が建物を建てられる範囲を削るなら、価格への影響は大きくなります。逆に、敷地の奥で使い道のない部分の越境なら、影響は小さいわけです。
判断の材料は、その土地に何を建てられるかになります。建ぺい率や容積率の計算の土台が削られるかどうかが分かれ目なんですね。
面積だけを見て「たいしたことはない」と考えるのは早い。位置と用途をセットで見るのが、査定する側の目線になります。
見方2|解消にかかる費用と時間が価格に乗る
買取業者は、自分たちが後で行う作業の費用を先に引きます。確定測量、覚書の取り交わし、場合によっては撤去工事。これらの見積もりが、そのまま価格の差になって出てくるわけです。
見落とされやすいのが時間になります。隣の立会いに何か月かかるかは相手次第なので、業者は不確実性の分も上乗せして引いてきます。
だから、売主側で覚書まで整えてから査定に出すと、引かれ幅が縮むことがあります。手間はかかりますが、その手間に値段がついている構造なんです。
見方3|買取と仲介では、引かれ方の理屈が違う
仲介では、買主が個人なので「不安の分だけ安く」という感覚的な値引きが起きます。金額の根拠は交渉次第になりがちです。
買取では、業者が自分の工程表と見積もりから逆算します。根拠がはっきりしている代わりに、その根拠を売主が確かめないと言い値になるわけですね。
どちらが得かは、越境の内容と急ぎ具合で変わります。同じ資料を渡して両方に当ててみるのが、いちばん確実な比べ方になりますよ。

土地を持ち続けるか手放すかの判断は、感情ではなく回収の計算で決めるのが本筋だと考えています。越境の解消に何十万円かけて、その後いくらで売れるのか。
かけた費用より売値の上がり幅が小さいなら、現況のまま買取に出すほうが手元に残ります。逆に上がり幅が大きいなら、時間をかける価値がある。この比較を先にやってください。
土地の境界線のはみ出しを放置したまま相続するとどうなるか|4つの影響

越境は、時間が経つほど解きにくくなります。相続をまたぐと、それが目に見える形で表れるんです。
影響1|相続登記の申請には3年という期限がある
相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。不動産登記法76条の2第1項です。
正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料の適用対象になります。同法164条1項に定めがあります。
この義務化の施行日は令和6年4月1日ですが、施行日より前に始まった相続も対象です。まだ相続登記をしていない場合は、令和9年3月31日までに申請する必要があります。
影響2|国に引き取ってもらう道も、境界が不明だと閉じる
相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度があります。この制度には却下の事由があり、境界が明らかでない土地はそのひとつとされているんですね。
法務省が公表している統計を見ると、この事由の重さがわかります。令和8年7月31日現在で却下は85件、そのうち「境界が明らかでない土地」に該当したものが23件あり、却下理由のなかで件数がいちばん多い項目になっているんですね。
つまり越境や境界未確定は、売るときだけではなく手放すときの最後の出口まで塞ぐわけです。数字が示しているのは、そういう構造なんですね。
影響3|代を経るほど立会いの相手が増える
境界を確定するには、隣の土地の所有者全員の立会いと承諾が必要になります。隣が相続登記をしないまま代を重ねると、相続人が2人、5人、10人と増えていくわけです。
全員と連絡を取り、全員に署名をもらう。これを他人が代わりにやってくれる仕組みはありません。
自分の土地が共有になっている場合も同じ話になります。同意の集め方は共有名義の土地売却は何から始めるかで整理しました。
影響4|長く続いた占有には時効取得の主張が出ることがある
民法162条1項は、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得すると定めています。同条2項では、占有の開始の時に善意で過失がなかったときは10年になるとされているんですね。
塀の位置が何十年も動いていない土地では、隣からこの主張が出ることがあります。実際に認められるかどうかは、占有の態様や当事者の認識によって個別に判断される話になります。
ここは争いの領域なので、主張が通るかどうかについては弁護士に確認してください。争いになる前に覚書で状態を確認しておくことが、いちばん安いリスク対策になります。

登記の名義が祖父のままだった、という土地に実務で何度も当たりました。追いかけると相続人が全国に散っていて、連絡がついた頃には次の相続が始まっている。
越境は、放っておくと自然に消えるものではなく、関係者が増えて解きにくくなる問題です。いま話ができる相手がいるうちに書面にしておく。これが結果として、次の世代にお金と時間を残す方法になります。
土地の境界線のはみ出しがある土地を売るときの税金|4つの論点

売却が決まったら、手取りの計算に移ります。越境がある土地でも、課税の仕組みは普通の土地と変わりません。
論点1|長期か短期かで税率が大きく変わる
土地建物の譲渡所得は、他の所得と分けて計算する分離課税です。譲渡した年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えていれば長期、5年以下なら短期に区分されます。
長期の税率は所得税15パーセント・住民税5パーセント、短期は所得税30パーセント・住民税9パーセントです。これに復興特別所得税として基準所得税額の2.1パーセントが加わります。
相続や贈与で取得した土地は、原則として被相続人や贈与者が取得した日から所有期間を数えることになるんですね。親の代から続いている土地なら、基本的には長期に入るわけです。
出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」/国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」/国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
論点2|測量費は譲渡費用に入る
越境の解消のために測量を行うと、まとまった費用がかかります。この点で押さえておきたいのが、国税庁が譲渡費用の例として仲介手数料・測量費・売買契約書の印紙代・立退料・取壊し費用を挙げていることです。
譲渡所得は、売った金額から取得費と譲渡費用を引いて計算します。売るために直接かかった測量費は、そこから引ける費用として扱われるわけですね。
一方で、修繕費や固定資産税のように資産の維持や管理のためにかかった費用は譲渡費用になりません。領収書は種類ごとに分けて保管してください。
出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」/国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」
論点3|取得費が分からないときは譲渡価額の5パーセント
先祖代々の土地で、いくらで買ったのかがわからない。この状況は珍しくありません。
取得費が分からないとき、または実際の取得費が譲渡価額の5パーセントより少ないときは、譲渡価額の5パーセントを取得費とすることができます。3,000万円で売ったなら150万円が取得費になる計算です。
裏を返すと、残りの95パーセントに課税されることになります。古い売買契約書が出てくるかどうかで手取りが変わるので、探す価値はありますよ。
論点4|相続した土地なら使える特例がある
相続で取得した空き家とその敷地を売る場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から特別控除を受けられる制度があります。被相続人の居住用財産、いわゆる空き家の3,000万円特別控除です。
また、相続税を払っている人が相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ったときは、相続税額の一部を取得費に加算できる特例もあります。
どちらも要件が細かく、併用できない組み合わせもあるんです。個別の税額計算については税理士か税務署に確認してください。この記事では制度の存在と入口だけをお伝えします。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」/国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

制度を知らないまま売って、後から損に気がつく。実務をしていた当時、この場面を何度も見てきました。特例には期限があるので、知った時点ではもう使えないことがあるんです。
売る前に、使えそうな特例の名前だけでも控えておいてください。名前がわかっていれば、税務署でも税理士でも話が早く進みます。放置している土地の税負担については土地の固定資産税の計算方法にもまとめています。
土地の境界線のはみ出しがある土地の買取はどう進めるか|5つのステップ

最後に順番を整理します。この順に動くと、手戻りが出にくくなるはずですよ。
ステップ1|法務局で書面をそろえる
登記事項証明書、公図、地積測量図。この3点を自分の土地と隣の土地の両方について取ります。
隣の分も取るのは、所有者が誰なのかを確かめるためです。名義が古いままなら、そこが交渉の最初の壁になるとわかります。
ステップ2|現地で越境の状態を記録する
図面を持って現地に立ち、境界標の有無を確かめるのがこの段階の入口になります。はみ出している物を写真に撮り、向きと種類をメモしてください。
メジャーで測れる範囲は数字も残します。「なんとなく出ている」を「どこに何センチ出ている」に変えるのが、この段階の仕事になります。
ステップ3|土地家屋調査士に相談する
図面と写真がそろったら、土地家屋調査士に見てもらいます。測量が必要な状態なのか、覚書で足りる状態なのかを判断できる専門家です。
このとき、確定測量まで進めた場合の費用と期間の見込みを聞いてください。この2つの数字が、あとの判断すべての土台になります。
ステップ4|隣に打診する
自分の物が出ているなら、そこから切り出します。買ってもらえる可能性があるなら、その話も同じ場でしてください。
隣が買う、隣も売る、覚書で終える。この打診ひとつで、出口が3つに枝分かれします。
ステップ5|同じ資料で複数社に当てる
隣で決まらなければ、訳あり物件を扱う買取業者と仲介の両方に声をかけます。渡す資料は、ステップ1から3でそろえたものを同じ形で。
前提が違う査定は比べられません。相談先の会社は、宅地建物取引業の免許番号まで確認しておくと安心です。

相談先を選ぶとき、地元との距離感は見ておいたほうがいいと考えています。地域に深く根を張った会社は、隣の方とも付き合いがあることがあるからです。
双方と関係のない第三者の会社を1社は入れておく。これは実例に基づく話ではなく、構造として起こり得ると僕が考えていることになります。それでも、比較の相手を持っておく意味は小さくありませんよ。
土地の境界線のはみ出しと買取に関してのよくある質問

隣の塀がうちの土地にはみ出しています。勝手に壊してもいいですか?
壊してはいけません。塀は隣の方の所有物なので、勝手に壊すと損害賠償の問題に発展します。しかも民法229条により、境界線上にある塀は相隣者の共有と推定されるため、そもそも誰の物かの確認から必要になります。まずは書面と写真で状態を記録し、話し合いか筆界特定制度へ進んでください。
越境の覚書があれば、そのまま売れますか?
売りやすくはなります。覚書で現状と将来の扱いが決まっていれば、買主は先の予定を立てられるからです。ただし覚書には所有者が変わったときに約束を引き継がせる条項を入れておくことが大切になります。この一文がないと、買主に引き継がれず、同じ話を最初からやり直すことになりますよ。
筆界特定をすれば、隣との争いは終わりますか?
終わるとは限りません。法務省は、筆界特定制度は土地の所有権がどこまであるのかを特定するものではないとはっきり書いています。さらに、結果に納得できないときは後から裁判で争うこともできるとされているんです。線の位置を公的に明らかにする制度であって、所有権の争いに決着をつける制度ではないと理解してください。
まとめ

土地の境界線のはみ出しは、売却を止める理由になりません。止まるのは、確かめる順番を飛ばしたときなんですね。
- 筆界は登記されたときに決まった線で、話し合いでは動かせない。日常語の「境界」とは別のもの
- 越境があっても売買は禁じられていない。危ないのは黙って売ることで、知っていて隠すと1年の期間制限にも守られない
- 枝は原則として切らせる、根は切り取れる。催告しても動かない場合などは自分で枝を切れる
- 動く前に、登記事項証明書・公図・地積測量図・現地の境界標の4つを確かめる
- 売り先は、隣地・訳あり専門の買取業者・同時売却・解消してから仲介・分筆して整理の5つ
- 解消の手段は、覚書・撤去・筆界特定制度・ADRや裁判の4段階。覚書がいちばん軽い
- 相続をまたぐと、立会いの相手が増え、国庫帰属の却下理由の第1位が境界不明という壁にも当たる
- 税金では、測量費が譲渡費用になることと、取得費不明なら譲渡価額の5パーセントになることを押さえる
まず今日できることは、法務局で自分の土地と隣の土地の登記事項証明書を1通ずつ取ることです。名義が誰になっているかがわかるだけで、次に誰と話せばよいかが決まります。








僕が現場にいた当時、越境の相談でいちばん多かったのは「隣が何もしてくれない」という声でした。空き家の隣に住む方から、伸びた枝や蔓の被害を直接聞く機会も何度もあったんです。
当時は、越境した枝でも他人の物だから勝手には切れない、という説明をしていました。いまは民法233条3項があるので、催告しても動いてもらえない場合には、自分で切り取る道が開いています。ここは知識を更新しておく価値のある部分になります。