事故物件買取業者の選び方|告知義務の線引きと、査定を受ける前に整えておく4つのこと

事故物件買取業者の選び方|告知義務の線引きと、査定を受ける前に整えておく4つのこと

「この家、人が亡くなっているんですけど、売れますか」。実務をしていた当時、声を落としてこう切り出す方が何人もいたんです。

僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていました。空き家を見つけては登記事項証明書を取り、所有者を訪ねて回るという仕事です。その道中では、家の中で起きたことを人に言えないまま何年も抱えている方に出会いました。

事故物件という言葉に法律上の定義はありません。実務で線を引くときに使われているのは、国土交通省が令和3年10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。

そして、こうした物件を一般の買主に向けて売り出すのは簡単ではありません。だから事故物件買取業者に直接買ってもらう道が浮かびます。買主を探す期間がまるごと消える代わりに、価格は市場の水準より下がるという取引です。

結論から言うと、査定を申し込む前にやることが2つあります。ひとつは、起きたことが告知の対象になるのかをガイドラインの線で確かめること。もうひとつは、自分が知っている事実を書き出して、隠さずに渡せる状態にしておくことなんです。ここを飛ばすと、価格を叩かれるだけではなく、売った後に責任を追いかけられる形になります。

この記事では、事故物件買取業者と仲介の違いから、ガイドラインが引いた3つの線、告知が必要な期間、査定価格の決まり方、業者の選び方、隠した場合に起きること、特殊清掃の扱い、売ったときの税金まで順にたどります。法令と制度は、e-Gov法令検索・国土交通省・国税庁で確認したものだけを載せました。2026年8月時点の内容としてお読みください。

事故物件買取業者とは?仲介の不動産会社と何が違うのか

事故物件買取業者とは?仲介の不動産会社と何が違うのか

事故物件買取業者とは、人の死が起きた住宅を不動産会社が自社で直接買い取る形の取引をいいます。あなたの取引相手は、これから探してもらう誰かではなく、目の前にいる会社そのものです。

仲介はこれと立て付けが違います。不動産会社は買主を探してくる立場で、契約が成立して初めて仲介手数料という報酬を受け取る仕組みなんですね。

買取業者は買主、仲介の不動産会社は探す人

買取では、業者が自分の資金で土地と建物を買います。買ったあとに特殊清掃や内装工事をして貸すのか、更地にして売るのか、出口を自分で作るところまでが仕事になるわけです。

仲介の場合、不動産会社が負っているリスクはほぼ時間だけになります。買主が見つからなければ、動いた時間がそのまま持ち出しです。

同じ「不動産会社」という看板でも、収益の作り方がまったく違うため、あなたに向けてくる関心の向きも変わってきますよ。仲介の担当者は買ってくれる人を探しますが、買取業者はその物件で自分が利益を出せるかを見ています。

事故物件が仲介で止まりやすいのはなぜか

事故物件は、買主を探す段階でつまずきやすい物件になります。告げるべき事実を伝えたうえで検討してもらうことになるため、内見まで進む人の数がそもそも絞られます。

住宅ローンの審査でも不利になりやすい分野です。担保としての評価が下がると、金融機関が融資額を抑えるからなんですね。

さらに、仲介手数料は物件価格に連動します。説明の手間が重く、価格も低い物件ほど、時間あたりの採算が合わなくなるという関係が構造として先にあるわけです。

国土交通省もこの問題を制度の側から動かしました。令和6年7月1日以降、価格800万円以下の「低廉な空家等」については、依頼者の一方から受け取れる媒介報酬の上限を33万円(税込)まで引き上げています。手数料が少なすぎて誰も動かない状態を変えるための特例なんです。

ただし原則より高い手数料になり得るため、国土交通省は媒介契約を結ぶときにあらかじめ合意しておくことが大切だと明記しました。

出典:国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」

買取と仲介はどちらを先に当たるのがいいのか

どちらか一方を選び切る必要はありません。先に仲介で3か月ほど反応を見て、動かなければ買取へ切り替えるという順番が取れます。

この順番なら、市場に買主がいるかどうかを確かめてから判断できました。反応がなかった期間そのものが、価格を決めるための材料になるからです。

一方、時間に制限があるなら先に買取を当たったほうが楽になります。相続税の納付期限が近い、遠方で管理に通えない、近隣から連絡が来ている。こうした事情を抱えているなら、期間の短さがそのまま価値になりますね。

比べる項目事故物件買取業者に売る仲介で買主を探す
取引の相手不動産会社そのもの会社が探してきた個人・法人
価格市場の成約水準より下がる条件が合えば市場水準に近づく
かかる期間数週間から2か月ほど買主が見つかるまで読めない
告知の相手目の前の業者に伝える検討中の買主へ順に伝わる
近隣への広がり募集を出さない分は狭い広告・内見で人の出入りが増える

実務をしていた当時、グループ会社の売買部門と一緒に動く場面がありました。そこで見たのは、同じ会社でも担当者によって難しい物件への向き合い方が180度変わるという現実です。

「建築の案件につながるなら手伝うよ」と一緒に汗をかいてくれた人もいれば、話を聞いた時点で請け負わないと切った人もいました。

だから、会社名よりも「誰が担当につくか」を先に確かめる癖がついたんです。

そもそも事故物件とは?国のガイドラインが引いた3つの線

そもそも事故物件とは?国のガイドラインが引いた3つの線

事故物件という言葉は法律に出てきません。実務の判断のよりどころになっているのが、国土交通省が令和3年10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。

このガイドラインは、住宅として使われる不動産(居住用不動産)を対象にしています。宅地建物取引業者が告げなくてもよい場合を3つ示したうえで、それ以外は買主・借主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるなら告げなければならないという組み立てになっているんですね。

線1|自然死と日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてよい

老衰や持病による病死といったいわゆる自然死は、居住用不動産で起きることが当然に予想されるものだとガイドラインは述べています。統計でも、自宅での死因のうち老衰や病死が9割を占めると注記されました。

自宅の階段からの転落、入浴中の溺死や転倒、食事中の誤嚥といった日常生活の中での不慮の事故による死も同じ扱いです。売買・賃貸のどちらであっても、原則としてこれを告げなくてよいと整理されました。

ただし例外があります。ここが実務でいちばん誤解されている部分なんです。

線2|特殊清掃が入った時点で扱いが変わる

自然死や日常生活の中での不慮の死であっても、長期間にわたって人知れず放置されたことなどに伴い、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は扱いが変わります。ガイドラインはこの場合を「告げなくてよい」の枠から外しました。

ガイドラインは特殊清掃を、孤独死などが発生した住居で、原状回復のために消臭・消毒や清掃を行うサービスと定義しています。総務省行政評価局の調査結果報告書を引いた注記です。

つまり死因ではなく、そのあとに何が行われたかで線が動くという設計になっています。「病気で亡くなったから事故物件ではない」という理解は、この一段を見落としていますよ。

線3|隣の住戸と、通常使わない共用部分は原則として対象外

取引の対象そのものではない隣接住戸で死が起きた場合、あるいは買主・借主が日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分で起きた場合は、売買・賃貸のいずれも原則として告げなくてよいとされました。

一方、ベランダなどの専用使用が可能な部分や、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち日常生活で通常使用すると考えられる部分は、取引対象と同じ扱いになります。

事件性や周知性、社会に与えた影響が特に高い事案はこの限りではないと但し書きが付いている点も押さえておいてください。報道された事案などは、線の外側に置けません。

ガイドラインの区分売買での扱い賃貸での扱い
自然死・日常生活の中での不慮の死原則として告げなくてよい原則として告げなくてよい
上記のうち特殊清掃等が行われたもの告げる側の検討へ発覚から概ね3年で告げなくてよい
自然死・不慮の死以外の死期間の定めなし発覚から概ね3年で告げなくてよい
隣接住戸・通常使わない共用部分原則として告げなくてよい原則として告げなくてよい
買主・借主から問われた場合期間・死因を問わず告げる期間・死因を問わず告げる

出典:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」

このガイドラインが出るまで、現場の対応は会社ごとにばらばらでした。ガイドライン自身も、人の死に関する事案の全てを買主・借主に告げているケースがあり、負担が過大だと指摘されることもあると書いています。

裏を返すと、線が引かれた今でも、社内の運用が古いまま止まっている会社は残っているということですね。

同じ物件でも、当たる会社によって「扱えます」と「無理です」が分かれる理由の一つがここにあります。

事故物件の告知義務は何年で消えるのか|売買と賃貸で扱いが違う

事故物件の告知義務は何年で消えるのか|売買と賃貸で扱いが違う

ここが検索でいちばん多く聞かれる論点です。よく見かける「3年経てば告知しなくていい」という説明は、賃貸の話を売買に持ち込んでしまっています。

賃貸は発覚から概ね3年という目安が示された

賃貸借取引については、自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が起きた場合、または特殊清掃等が行われた場合、その発覚から概ね3年間を経過した後は原則として借主に告げなくてよいとガイドラインは示しました。

これは過去の裁判例などを踏まえた目安です。事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案はこの限りではないと明記されている点は外せません。

売買に年数の定めは置かれていない

一方、売買について3年という期間は示されていないんですね。ガイドラインが年数を書いたのは賃貸借取引の項目だけなんです。

理由は、心理的な影響の残り方が事案の態様や周知性、物件の立地によって変わるためだと説明されています。時間の経過とともに希釈され、やがて消滅するとした裁判例があることにも触れながら、売買には一律の線を引きませんでした。

「売買でも3年で消える」と書いてある情報を見かけたら、いったん出典を確かめてください。ガイドラインの本文にその記述はありません。

買主から問われたら、経過期間や死因に関わらず告げる

原則の外側に、もう一段の定めがあります。買主・借主から事案の有無について問われた場合、または社会的影響の大きさから把握しておくべき特段の事情があると認識した場合は、発覚から経過した期間や死因に関わらず、調査を通じて判明した点を告げる必要があるとされました。

つまり期間の目安は「聞かれなかった場合」の話なんですね。買主が先に質問すれば、年数の議論は成立しません。

なお、告げる際に伝えるのは発生時期・場所・死因・特殊清掃の有無までです。亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に配慮し、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況を告げる必要はないと定められています。

ガイドラインが「対象にしていない」論点が3つある

ここは知っておくと判断を誤りません。ガイドラインは結びの部分で、現時点では対象としていない論点を自ら挙げています。

  • 人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱い
  • 搬送先の病院で死亡した場合の取扱い
  • 転落により死亡した場合における落下開始地点の取扱い

一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や取引実務の蓄積がない、というのが理由です。「解体して更地にすれば告知は不要になる」と言い切れる根拠は、少なくとも国のガイドラインには存在しないことになりますね。

「壊してしまえば分からないのでは」という質問を受けたことがあります。気持ちとしてはよく分かるんです。ただ、更地にしたところで近隣の記憶までは消えません。

実務をしていた当時、空き家を訪ねて隣の家の方に話を聞くと、その土地で何があったかを驚くほど詳しく覚えている方がいました。所有者が知らない話を近所が知っていた、という場面もあったんですね。

解体は費用の話であって、告知の話を消す手段にはならないと考えておくほうが安全です。

事故物件買取業者の査定価格はどこまで下がるのか

事故物件買取業者の査定価格はどこまで下がるのか

具体的な下落率を「何割」と書いている情報をよく見かけます。ただ、公的な統計としてまとまった数字は見当たりません。ここでは価格が決まる仕組みのほうを整理します。

買取価格は業者の出口から逆算される

買取業者が提示する金額は、その物件をどう再生して、いくらで次に手渡せるかという想定から逆算されたものです。想定した再販価格から、工事費・保有中の税金・販売の経費・利益を引いた残りが提示額になります。

事故物件の場合、この引き算に特殊清掃や内装の入れ替えが加わります。再販するときに告げる必要が残るなら、次の買主に対する価格も下げざるを得ないため、その分がさらに引かれる形です。

だから、業者にとっての出口が見えている物件ほど価格は落ちません。逆に出口が読めない物件は、読めないリスクの分だけ低く見積もられます。

下げ幅を動かす4つの要素

同じ「事故物件」でも、価格の落ち方は物件ごとに大きく違うんですね。実務で効いてくるのは次の4つです。

  • 周知性:報道された、ネット上に情報が残っているなど、近隣や検討者に知られている度合い
  • 経過期間:発覚からどれだけ時間が経ったか
  • 物件の種別:戸建てか、集合住宅の一室か。集合住宅は住人の記憶が近い距離に残る
  • 立地の需要:賃貸として貸し出したときに、条件次第で借り手が付く場所かどうか

このうち、あなたが今から動かせるのは経過期間だけではありません。周知性がどこまで広がっているかを把握しておくと、査定の場で説明できる材料になります。

「相場より高く買います」という言葉をどう聞くか

買取は、長引かない代わりに「いかに安く買うか」を最初から狙われる取引になります。売る側が相場観を持たないまま交渉のテーブルに着くと、根拠のない数字を出されても比べようがありません。

比較の基準は自分で作れます。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産の取引価格情報や地価公示、都道府県地価調査を誰でも確認できるんです。

まず近隣の普通の物件がいくらで取引されているかを押さえ、そこからいくら引かれているのかという聞き方に変えてください。「高く買います」という言葉そのものには、比べる相手がいません。

出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」

実務をしていた当時、価格の話でいちばん強かったのは、数字を持っている所有者でした。近隣の取引事例を印刷して持ってきた方がいて、そこからの交渉はまったく別物になったんですね。

こちらが「この立地なら厳しいですよ」と言っても、「では隣の通りのこの事例はどう説明するんですか」と返ってくる。感情ではなく資料で聞かれると、営業側はごまかせません。

根拠を持っている人は、買い叩かれにくいというのが率直な実感です。

事故物件買取業者を選ぶときに先に見る5つのこと

事故物件買取業者を選ぶときに先に見る5つのこと

ここからは業者選びの話です。事故物件は扱える会社が限られる分、比較の目を持たないまま1社に流れやすい分野になります。

確認1|宅地建物取引業の免許を番号まで見る

不動産の売買を業として行うには、国土交通大臣または都道府県知事の免許が必要です。宅地建物取引業法第3条がこれを定めています。

同条第2項により、免許の有効期間は5年と決められました。免許番号の括弧内の数字は更新の回数を示すため、事業を続けてきた年数の目安にもなります。

免許を持たない会社が「買います」と名乗って回ることは、この法律の枠の外に出る行為です。会社名と免許番号が一致するかを、先に確かめておいてください。

出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」

確認2|行政処分の履歴を検索システムで調べる

宅地建物取引業者名簿には、免許証番号や免許年月日に加えて、監督処分を受けたことがある場合はその年月日と内容が登載されます。同法第8条第2項の定めです。

そして第10条により、この名簿は一般の閲覧に供しなければならないとされました。処分歴は誰でも確認できる公開情報なんですね。

国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムを使えば、会社名から免許の状況をたどれます。相談する前の数分で終わる作業です。

出典:国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」

確認3|買い取ったあと、どう再生して誰に渡すのかを聞く

これは事故物件ならではの質問になります。買い取った物件を賃貸で回すのか、更地にして売るのか、投資家向けに再販するのか。出口によって、あなたに求められる条件も変わってくるからです。

賃貸で回す前提なら、特殊清掃と内装の工事費が価格から引かれます。更地にする前提なら解体費が引かれるかわりに、建物の状態はあまり問われません。

出口を具体的に説明できる会社は、その物件を実際に扱った経験を持っている可能性が高いと考えられます。逆に「とりあえず買い取ります」から先が出てこない場合、査定額の根拠も薄くなりがちです。

確認4|査定額の根拠を数字で説明してもらう

査定額そのものより、その額に至った引き算を見せてもらうほうが判断できます。想定の再販価格はいくらか、工事費をいくら見込んでいるか、保有期間をどれくらいと考えているか。

この説明ができない会社は、単に安く仕入れたいだけということもあり得ます。金額を1つだけ告げて理由を語らない査定は、比較の材料になりません。

複数社に当たると、この差ははっきり出ますよ。同じ資料を渡したのに引き算の中身が違うなら、どこの見方が現実的かを自分で判断できます。

確認5|告知の扱いを書面でどう書くかを確かめる

あなたが伝えた内容が、契約書や覚書のどこに、どんな言葉で残るのか。ここを口頭で済ませる会社は避けたほうが安全です。

ガイドラインは、買主・借主に事案の存在を告げる際、後日のトラブル防止の観点から書面の交付等によることが望ましいと述べています。書面に残す文化があるかどうかは、その会社の姿勢が出る部分なんですね。

「言った・言わない」を残さない形にしておくことは、あなた自身を守る作業でもあります。伝えた事実が書面にあれば、後から隠したと言われる余地が消えるからです。

もう少し広く業者選びを見たい場合は、訳あり物件買取業者の選び方|元コンサルが先に見る5つのポイントと契約前の確認事項も併せて読んでみてください。

免許番号と処分歴の確認は、慣れれば5分で終わります。それでも多くの方がやらないまま話を進めてしまうんですね。

実務をしていた当時、所有者を追いかけて登記事項証明書を取ることが日常でした。公的な記録に当たれば分かることを、当たらないまま判断するのがいちばんもったいないと感じています。

会社の看板より、公開されている記録のほうが正直です。

事故物件買取業者に知っていることを隠すとどうなるのか

事故物件買取業者に知っていることを隠すとどうなるのか

ここは価格より大事な話になります。買取だから業者が全部引き受けてくれる、という理解のまま契約すると危ない場面があります。

免責の特約があっても「知りながら告げなかった事実」は残る

買取では、契約不適合責任を売主が負わないという特約が置かれることがよくあるんです。個人が売主で業者が買主という組み合わせだと、この特約は買取のメリットとして説明されるんですね。

ところが民法第572条は、担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については責任を免れることができないと定めています。

つまり、免責の一文があなたを守るのは、あなたが知らなかったことについてだけです。知っていて黙っていた事実は、その一文の外側に置かれます。

出典:e-Gov法令検索「民法」

買主が不適合を知ってから1年という時計がある

民法第566条は、種類または品質に関する契約不適合について、買主がその不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約の解除ができなくなると定めました。

見落とされやすいのは、この条文にただし書きがあることです。売主が引渡しの時にその不適合を知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合は、この期間制限が適用されません。

引き渡してから年数が経っても、隠していた事実については追いかけられる形になります。時間が守ってくれるという前提は置かないでください。

業者に対して不実を告げることも法律で禁じられている

告知は買主だけの問題ではありません。宅地建物取引業法第47条第1号は、宅地建物取引業者が「相手方等」に対し、判断に重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。

買取では、あなたが売主でその業者が買主です。あなたはその業者にとっての「相手方」にあたるため、業者の側もあなたに不実を告げてはならないという関係になります。

一方、ガイドラインは媒介を行う業者に対して、売主に告知書等への適切な記載を求めるよう促し、故意に告知しなかった場合には民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましいとしました。売主の側にも責任の入口があるということですね。

なお、個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。すでに揉めている、あるいは相手方から請求が来ているという段階なら、弁護士に相談してください。

隠したい気持ちは、責めるようなものではないと思っています。近所の目もありますし、家族の話でもありますから。

ただ、実務をしていた当時に見てきた限り、後から出てきた事実ほど大きな問題になりました。先に出せば価格の話で済んだことが、後から出ると信頼と責任の話に変わってしまうんです。

言いにくいことこそ、査定の最初に出しておくほうが結果的に安く済みます。

事故物件買取業者に出す前に、特殊清掃と片付けはどこまでやるのか

事故物件買取業者に出す前に、特殊清掃と片付けはどこまでやるのか

「きれいにしてからでないと相談できない」と考えて、動けなくなっている方がいます。ここは順番を間違えると費用だけが出ていく部分です。

先に工事をすると、その分が価格に乗るとは限らない

買取業者は、買ったあとに自分たちの基準で工事をやり直すことがあります。あなたが先に入れた工事が、その基準と合っていなければ、かけた費用はそのまま戻ってきません。

特に内装の入れ替えは判断が分かれます。業者が想定している出口と違う仕様に直してしまうと、費用をかけたのに評価されないという結果になりやすいんですね。

先に動くなら、まず査定を取ってから相談するほうが安全です。何をどこまでやると価格が動くのかは、買う側に聞いたほうが早くなります。

現状のまま引き受けられるかを、最初に聞く

家財や遺品が残ったままでも引き受けられる会社は実在しますよ。実務をしていた当時から、現状渡しに対応する不動産会社や整理業者はありました。

大事なものだけを抜き取って、あとは任せるという進め方も選べます。「片付いていないから相談できない」という思い込みが、いちばん時間を奪うというのが正直なところです。

臭気が残っている、室内に立ち入りにくいといった状態でも、先に電話で状況を伝えてください。そのうえで受けられるかどうかを判断してもらう順番になります。

残すものと渡すものを、目録にして契約に落とす

現状のまま渡す場合に必ずやっておきたいのが、書き出しです。残しておいてほしいもの、処分してよいものを一覧にして、契約書か覚書に付けておきます。

口頭の「これは残して」は、後から確かめようがありません。目録という形で残しておけば、言った・言わないの争いが起きる余地が消えます。

放置されてきた家は、中に何があるか所有者本人も分からないことがあります。価値のあるものが出てきたときにどう扱うかを先に決めておくと、あとで悩まずに済みますよ。

残置物の扱いをもう少し詳しく知りたい場合は、再建築不可物件の買取はどこまで下がる?価格の決まり方と、売る前に確かめる4つの可能性でも近い論点を扱っています。

遺品整理と買取をセットで請け負う業者は、便利な反面、費用が上乗せされることもあり得ると考えているんです。実例を見聞きしたわけではありません。ただ、中身が分からない家を丸ごと任せる以上、構造としてその可能性は残ります。

だからこそ、目録と議事録なんですね。書いて残す手間を惜しまなければ、便利さと安全は両立できます。

疑って進めるのではなく、記録を取りながら進めるという意味です。

事故物件買取業者に売ったときの税金|使える2つの制度

事故物件買取業者に売ったときの税金|使える2つの制度

売却して利益が出た場合、譲渡所得として所得税と住民税がかかります。ここでは相続した家を売る場面で効いてくる制度を2つに絞って整理しますね。

土地建物の譲渡所得は分離課税で、収入金額から取得費と譲渡費用、特別控除額を引いて計算します。所有期間は譲渡した年の1月1日時点で判定し、5年超なら長期です。相続で取得したものは被相続人の取得日から通算するため、親の代から持っている家は基本的に長期になります。

出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」

制度1|相続した空き家なら3,000万円の特別控除

相続または遺贈により取得した被相続人の居住用家屋とその敷地を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売った場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。

主な要件は次のとおりです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと
  • 相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
  • 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下であること

家屋を残して売る場合は、譲渡の時から翌年2月15日までの間に一定の耐震基準を満たすか、家屋の全部を取り壊すことが求められます。令和6年1月1日以後の譲渡で、相続人の数が3人以上のときは控除額が2,000万円になる点も押さえておいてください。

出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

なお、この控除を兄弟で分けて使う条件は空き家を兄弟で相続したら?揉めない分け方と3,000万円控除を人数分使う条件にまとめてあります。

制度2|相続税を払っているなら取得費加算

相続や遺贈で財産を取得して、その人に相続税が課税されている場合、一定期間内に売れば納めた相続税の一部を取得費に加算できるんです。加算できる額には、特例を適用しないで計算した譲渡益という上限が置かれました。

期限は、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。相続税の申告期限が10か月であることから、実質的に相続開始から3年10か月と説明されます。

この取得費加算と、先ほどの空き家3,000万円控除は併用できません。どちらが有利になるかは金額次第なので、適用の可否と計算は税理士に確認してください。

出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

実務をしていた当時、制度を知らないまま話を進めて損をする方を何人も見てきました。売った後に「その特例、使えたはずですよ」と言われても、もう戻せません。

税金の話は、動く前に知っているかどうかが全てなんです。査定を取る段階で、自分がどの特例の射程に入るのかだけでも確かめておいてください。

判断そのものは専門家の仕事です。ただ、射程に入るかどうかを知っておくだけで、聞くべきことが決まります。

事故物件買取業者への相談は何から始めるか|4つのステップ

事故物件買取業者への相談は何から始めるか|4つのステップ

最後に、実際に動くときの順番を整理しますね。ここを外さなければ、価格の話は自然と具体的になっていきます。

ステップ1|起きたことを時系列で書き出す

いつ、どこで、どういう死因だったのか。発覚した時期はいつか。特殊清掃や大規模なリフォームを行ったか。この4点を紙に書き出してください。

ガイドラインが告げる内容として挙げているのも、発生時期・場所・死因・特殊清掃の有無です。そのまま伝えられる形にしておけば、業者ごとに説明がぶれません。

分からないことは「不明」と書いて構いません。ガイドラインも、不明と回答された場合はその旨を告げれば足りるとしています。

ステップ2|名義と権利関係を確認する

登記事項証明書を取って、現在の名義人が誰になっているかを確かめてください。相続が発生したまま名義が親や祖父母のままなら、売却の前に相続登記が必要です。

共有になっている場合は、共有者全員の合意がないと売れません。名義の整理を後回しにしたまま査定だけ進めると、話がまとまった段階で止まります。

登記の手続きそのものは司法書士に相談してください。ここは時間がかかる部分なので、査定と並行して動かすほうが早く進みます。

ステップ3|同じ資料を渡して複数社に当たる

査定は1社では比べようがありません。ステップ1で作った書き出しと、登記事項証明書、間取りが分かる資料を同じ内容で複数社に渡します。

渡す情報を揃えることが大事です。会社ごとに伝える内容が違うと、返ってきた金額の差が何によるものか分からなくなります。

3社くらいに当たると、引き算の考え方の違いが見えてきますよ。金額の高低より、説明の中身を見比べてください。

ステップ4|価格以外の条件を並べて比べる

比べる項目は金額だけではありません。引き渡しの時期、残置物をどう扱うか、契約不適合責任の特約をどう書くか、告知の扱いをどこに残すか。

いちばん高い金額を出した会社が、条件面でもいちばんとは限らないというのが現実です。表にして並べると、判断がしやすくなります。

そのうえで決めきれないなら、それぞれの会社に他社の条件を伝えて聞き直しても構いません。売る側が比べていると分かった時点で、説明は丁寧になります。

実務をしていた当時に感じていたのは、資産を守れる方には共通点があるということです。物件の状況を自分で把握していて、こちらの提案に自分の意見を返してくる方でした。

当時は正直、意見を言うお客さんを面倒だと思ったこともあります。それでも今振り返ると、そういう方の物件がいちばん良い状態で残っていました。

丸投げしないという姿勢が、いちばんの防御になるんですね。

事故物件買取業者に関してのよくある質問

事故物件買取業者に関してのよくある質問

事故物件買取業者に売るとき、クーリングオフは使えますか?

使えません。宅地建物取引業法第37条の2のクーリングオフは、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約について、買主を保護するための制度だからです。

買取では、あなたが売主で業者が買主という逆の関係になります。契約書に署名する前の段階で条件を固め切っておく必要があるのは、この制度が働かないためですね。

病気で亡くなった家は事故物件になりませんか?

老衰や持病による病死は、ガイドライン上、原則として告げなくてよい事案に整理されています。ただし、ここには例外があるんです。

長期間にわたって人知れず放置されたことなどに伴って特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は、扱いが変わりました。死因だけで判断せず、そのあとに何が行われたかを確認してください。

買取業者に断られたら、もう手放せませんか?

そんなことはありません。事故物件を扱える会社は限られているため、1社や2社の回答で結論を出すのは早すぎます。

断られた理由を必ず聞いておいてください。出口を作れる会社が地域に限られているだけで、物件そのものに値段が付かないわけではないことも多いからです。

まとめ

まとめ

長くなったので、要点を整理しますね。

  • 事故物件に法律上の定義はない。実務の線は国土交通省のガイドライン(令和3年10月)が引いている
  • 自然死・日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてよい。ただし特殊清掃等が行われた場合は扱いが変わる
  • 「概ね3年」は賃貸借取引の目安。売買に年数の定めは置かれていない
  • 買主から問われた場合は、経過期間や死因に関わらず告げる必要がある
  • 建物を取り壊した後の土地取引は、ガイドラインが対象としていない論点。解体で告知が消えるとは言い切れない
  • 買取価格は業者の出口からの逆算。周知性・経過期間・物件種別・立地の需要で下げ幅が動く
  • 業者選びは免許番号と行政処分歴の確認から。どちらも公開情報で数分で調べられる
  • 免責特約があっても、民法第572条により「知りながら告げなかった事実」の責任は残る
  • 相続した空き家なら3,000万円の特別控除、相続税を払っているなら取得費加算。両者は併用できない

実務をしていた当時から、この分野でつまずく理由はほとんど変わっていません。物件が悪いのではなく、言いにくいことを最後まで言わずに進めてしまうことなんです。

今日できる一歩は、業者に電話することではありません。いつ・どこで・どういう死因で・特殊清掃をしたかどうかを、紙に4行書き出す。それだけで、査定の場で交わす会話がまったく別のものになりますよ。

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高槻 翔太
元・土地活用コンサルタント。宅地建物取引士(試験合格) ・FP2級保有 。 2016年より、大手不動産・建築会社で、土地有効活用のコンサルティング営業を6年間しており、地主様の資産運用・相続税対策を支援 。 現在は不動産特化の専門家として、SUUMOや朝日新聞社「相続会議」など大手メディアを中心に累計1,500記事以上を執筆・監修 。 現場で見てきた「放置空き家の悲劇」や「兄弟間の相続トラブル」を防ぐため、綺麗事抜きで「1円でも多くお金を残し、ご縁を守る」ための本音のノウハウを発信中。 >> 詳しいプロフィールと当サイトの理念はこちら