「自分の土地なのに、自分ではどうにもできないんです」。実務をしていた当時、底地を持つ方から何度も聞いた言葉でした。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていた人間です。空き地や古い家を見つけては登記事項証明書を取り、所有者を訪ねて回る仕事をしていました。訪ねた先が地主さんで、話を聞いてみたら底地だった、ということが本当によくあったんですね。
底地とは、借地権が設定されている土地の所有権のことです。国税庁は相続税の評価で、これを「貸宅地」と呼んでいます。地面の名義は自分にあるのに、その上に他人の家が建っていて、動かせない。所有権と利用権が別々の人に分かれている状態が底地の正体になります。
そして、ここが誤解されやすいところなんです。底地は売れない土地ではありません。売り先が限られているだけで、取引そのものを禁じる法律はないんですね。
結論から言うと、底地売却で結果が変わるのは、値段の粘り方ではなく誰に売るかの選び方です。借地人、底地を専門に扱う買取業者、借地権とセットで買う第三者、地代収入をねらう投資家、そして仲介で探す一般の買主。この5つは、価格も期間もまるで違う相手になります。
さらに、売り先を選ぶ前に確かめておくものがあります。借地契約書と、その契約がいつ結ばれたのかという事実です。平成4年8月1日を境に適用される法律が変わるため、ここを飛ばすと話が噛み合いません。
この記事では、底地の前提、売却が止まりやすい理由、売る前の確認、5つの売り先、完全な所有権に戻す方法、価格の決まり方、借地人との線引き、相続した底地の扱い、税金、進め方の順にたどっていきます。法令と制度は、国税庁・e-Gov法令検索・裁判所・法務省・総務省・国土交通省で確認したものだけを載せました。2026年8月時点の内容としてお読みください。
底地は売却できるのか?まず押さえる3つの前提

底地は売却できます。所有権を他人へ譲ることを禁じる規定はありません。
ただし買い手の顔ぶれが限られるため、普通の土地と同じ売り方をすると止まるという性質を持っています。まず前提を3つ整理させてください。
前提1|底地とは「貸宅地」のことである
国税庁は、借地権など宅地の上に存する権利の目的となっている宅地を貸宅地と定義しています。底地という呼び名は不動産の現場で使われてきた言葉で、税務の世界では貸宅地という語が使われるわけです。
そして借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権を指します。建物を建てて持つために土地を借りる権利、と読み替えると分かりやすいですね。
畑を借りる、駐車場として借りる、といった契約はここに入りません。上に建物があるかどうかが分かれ目になるんです。
出典:国税庁「No.4613 貸宅地の評価」/国税庁「No.4611 借地権の評価」
前提2|借地権は登記がなくても第三者に対抗できる
底地を売っても、借地人は出ていきません。借地借家法は、借地権の登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有していれば、それをもって第三者に対抗できると定めています(第10条1項)。
つまり買主は、借地権が付いたままの土地を引き継ぐことになります。買主が手に入れるのは、地代を受け取る立場と、いつか土地が戻ってくるかもしれないという期待です。
ここを分かっていないと、査定額を見て「どうしてこんなに安いのか」という感想だけが残ります。安いのではなく、買主が買っているものが更地とは違うんですね。
前提3|売ること自体に借地人の承諾は要らない
底地の所有者が土地を第三者へ譲るとき、借地人の承諾を得なければならないという規定は借地借家法にありません。承諾が問題になるのは、逆方向、つまり借地人が借地上の建物を売って賃借権を移すときです(第19条1項)。
とはいえ、法律上は要らないというだけの話になります。黙って売って、あとから借地人と買主がこじれるのは、地主にとっても良い結末ではありません。
実務では、まず借地人に「買いませんか」と声をかけるところから始めるのが順番です。この打診が、結果として一番高い出口につながることも多いんですよ。
| 押さえること | 根拠 | 意味 |
|---|---|---|
| 底地=貸宅地(借地権の目的となっている宅地) | 国税庁 No.4613 | 税務上の呼び名は貸宅地 |
| 借地権は建物所有を目的とする地上権・賃借権 | 借地借家法2条1号 | 駐車場や畑の賃貸は別 |
| 建物の登記があれば借地権は第三者に対抗できる | 借地借家法10条1項 | 買主は借地人ごと引き継ぐ |
| 底地の譲渡に借地人の承諾は要らない | 借地借家法に規定なし | ただし打診は実務の作法 |
なぜ底地の売却は止まりやすいのか|4つの理由

底地が動きにくいのには、はっきりした理由があります。値付けの問題ではなく、権利の構造から来るものなんですね。
理由1|買主が土地を使えないから
底地を買っても、その上に家を建てることはできません。土地を使う権利は借地人が持っているからです。
不動産を買う人の大半は、住むか、貸すか、建てるかのどれかを目的にしています。そのどれもできない土地は、買い手の母数が一気に減るわけです。
残るのは、地代という収入を目的に買う人と、いずれ完全な所有権にまとめられると見込んで買う人になります。この2種類しかいない、と考えておくと見通しが立ちますよ。
理由2|契約が長く続く前提で組まれているから
借地権の存続期間は30年と定められています(借地借家法3条)。契約を更新した場合の期間は、最初の更新で20年、その後は10年です(同4条)。
しかも、借地権者が更新を請求したときは、建物がある限り従前と同じ条件で更新したものとみなされます(同5条1項)。地主が異議を述べるには、双方が土地を使う必要性、これまでの経過、土地の利用状況、立退料の申し出などを考慮した正当の事由が要ると決められています(同6条)。
「期間が来たら返してもらえる」という前提では組み立てられません。買主もそれを知っているため、価格に織り込んできます。
理由3|地代が固定資産税に対して低いことがあるから
地代等が、土地に対する租税その他の公課の増減により、地価の上昇や下落その他の経済事情の変動により、または近くの似た土地の地代と比べて不相当になったときは、当事者は将来に向かって増減を請求できます(借地借家法11条1項)。
制度としては値上げを求められるんですね。ただし増額について協議が調わないときは、請求を受けた側は、増額を正当とする裁判が確定するまで相当と認める額を払えば足りるとされています(同2項)。
つまり、請求した翌月から自動で上がるわけではありません。この時間差があるために、地代が長く据え置かれたままの土地が残ります。
理由4|契約書と境界の記録が、なぜ残っていないのか
底地は代が替わりながら引き継がれていく資産なんです。親から子へ、子から孫へと渡るうちに、契約書が行方不明になっている土地が実際に残っています。
契約書がないと、契約の時期が分かりません。平成4年8月1日より前に設定された借地権は、更新に関しては旧借地法の例によると決められているため(借地借家法附則6条)、時期が分からないと適用される法律すら特定できないわけです。
境界標が見当たらない土地も多く残っています。これは価格の話にとどまらず、あとで触れる物納や国庫帰属の可否にも効いてくる情報なんです。
| 止まる理由 | 買主から見た読み方 |
|---|---|
| 土地を使えない | 住む・建てるという用途が消える |
| 契約が長く続く | 明け渡してもらえる前提で計算できない |
| 地代が低い | 利回りで買えるだけの収入がない |
| 記録がない | 判断できない部分をリスクとして価格から引く |

不動産会社の収益は仲介手数料になります。数百万円の底地を1件まとめるのに、契約書を探し、借地人と会い、境界を確かめる手間がかかる。その手間に対して入る手数料は、更地の売買と比べて小さくなります。
僕がグループの売買部門と一緒に動いていた当時も、手間のわりに実らない案件は後回しにされがちでした。担当者によって温度差が出るのはこのためなんです。冷たいと感じたら、相手の会社が悪いというより、構造がそうなっていると考えたほうが早いですよ。
底地売却の前に何を確かめるか|契約書と登記で調べる4つのこと

査定を頼む前に手元でそろえておくものがあります。ここが埋まっているかどうかで、出てくる金額の精度が変わるんです。
確認1|借地契約書はいつ結ばれたものか
まず借地契約書を探してください。地代の額、契約期間、更新の履歴、建物の増改築に関する定めが書かれているはずです。
そして日付を見ます。平成4年(1992年)8月1日より前か後かが分かれ目になります。裁判所も、更新後の建物再築許可の申立ては平成4年8月1日以後に設定された借地権にのみ適用されると案内しています。
契約書が見つからないときは、地代の振込記録、固定資産税の納税通知書、法務局で取れる建物の登記事項証明書から時期をたどることになります。
確認2|登記事項証明書で建物の名義をどう確かめるか
借地権の対抗力は、借地上の建物が誰の名義で登記されているかにかかっています(借地借家法10条1項)。ここを確認しておくと、話が早く進みます。
建物の名義が、契約書に書かれた借地人と違っていることもあるんです。相続が起きたのに登記されていない、あるいは家族の別の人の名義になっている、といった形ですね。
登記事項証明書は法務局で誰でも取得できます。自分の土地の上に建っている建物なのに、名義を確かめたことがない地主さんは驚くほど多いんです。
確認3|地代と固定資産税をどう並べるか
現在の年間地代と、その土地の固定資産税・都市計画税を並べて書き出してください。この2つの差額が、底地から生まれている実質的な収入になります。
固定資産税の標準税率は1.4%、都市計画税の税率は0.3%を超えられないと定められています。住宅用地には課税標準を下げる特例があり、200平方メートル以下の部分は価格の6分の1、それを超える部分は3分の1です。
借地人が住宅として使っている土地なら、この特例が効いています。負担が軽くなっている分、地代が低いままでも収支が成り立ってしまうという面もあるんですね。土地の固定資産税そのものの計算方法は、土地の固定資産税の計算方法とは?放置で税金6倍の罠と抜け出すための解決策にまとめていますよ。
出典:総務省「地方税制度|固定資産税の概要」/e-Gov法令検索「地方税法」
確認4|境界はどこまで確定しているか
境界標が現地にあるか、公図と現況が合っているかを見ます。塀や樹木が隣地にまたがっていないかも一緒に確かめてください。
僕は担当していた現場で、埋まっていた境界杭を掘って探したことがあります。測量の立ち会いに何度も足を運びました。境界は、時間が経つほど分からなくなる情報なんですよ。
境界が明らかでない土地は、相続税の物納では管理処分不適格財産に当たります。売却の話だけではなく、あとの選択肢まで狭めてしまうわけです。
| そろえるもの | 取得先 | これで分かること |
|---|---|---|
| 借地契約書 | 手元・親族・貸金庫 | 地代・期間・特約・旧法か新法か |
| 建物の登記事項証明書 | 法務局 | 借地権の対抗力・実際の名義 |
| 固定資産税の納税通知書 | 手元(毎年4〜6月に届く) | 評価額・課税標準・住宅用地特例の有無 |
| 公図・地積測量図 | 法務局 | 形状・境界・実測の有無 |

僕が空き家を探して回っていた当時、まず取っていたのが登記事項証明書でした。名義を追いかけると、そこに何が起きたのかが読めるからです。
底地でも同じことが言えます。建物の名義が20年前に亡くなった方のままだった、という土地に何度も当たりました。この状態のまま売ろうとすると、買主は必ず止まります。売る前に分かっていれば、対処の順番を組めるんです。
底地売却の相手は誰か|5つの売り先

ここからが本題になります。同じ土地でも、渡す相手によって金額の桁が変わります。底地売却で差がつくのは、値引き交渉ではなくこの一点なんです。
売り先1|借地人に売る
いちばん高くなりやすい相手が借地人になります。理由ははっきりしていて、借地人が底地を買うと、借地権と所有権が同じ人にまとまって完全な所有権になるからなんですね。
完全な所有権になった土地は、建て替えも、担保に入れることも、普通に売ることもできます。買った瞬間に価値が跳ね上がる相手は、この人しかいません。
ただし借地人にも事情があります。手元の資金、年齢、相続人がいるかどうか。買う気があっても、いま買えるとは限らないため、断られること自体は珍しくないんです。
売り先2|底地を専門に扱う買取業者に売る
底地の買取を専門にしている会社があります。地代の回収、借地人との交渉、将来の権利調整をまとめて引き受けることを事業にしている会社ですね。
強みは早さです。借地人と話がつかない状態でも、そのまま買い取ってくれることがあります。そのかわり、価格は借地人に売る場合より下がるのが通常になります。
査定を受けるときは、金額そのものより根拠を聞いてください。地代の利回りで計算しているのか、将来の権利調整を織り込んでいるのか。この説明ができない相手は避けたほうが安全ですよ。買取業者そのものの見極め方は、訳あり物件買取業者の選び方|元コンサルが先に見る5つのポイントと契約前の確認事項で詳しく書きました。
売り先3|借地権者と足並みをそろえて同時に売る
借地権と底地を同じタイミングで第三者に売る方法があります。買主から見れば完全な所有権の土地を買うことになるため、合計額は、それぞれをバラバラに売るより大きくなりやすいんです。
課題は、その合計額をどう分けるかになります。借地権割合を目安にするのが一般的ですが、これは話し合いで決めるものであって、自動的に決まる数字ではありません。
借地人との関係が良好で、双方に売る意思があるときにだけ成り立つ選択肢です。関係がこじれている場合は、先に他の道を考えたほうが早いことが多いですね。
売り先4|地代収入の物件として投資家に売る
地代が入る土地を、収益物件として買う投資家がいます。空室が出ない、建物の修繕費がかからない、という点を評価する買い方になります。
この場合の価格は、年間の地代から固定資産税などを引いた手取りを、期待利回りで割り戻して組み立てられます。地代が低い土地では、この計算だと金額が伸びません。
逆に言えば、地代を適正な水準に戻す話が先にできていれば、この出口は現実的になります。順番の問題なんです。
売り先5|仲介で一般の買主を探す
不動産会社に仲介を依頼して、買主を探してもらう道もあります。時間はかかりますが、専門業者の買取より高く決まることもあるんですよ。
注意しておきたいのは、扱いに慣れた会社かどうかです。底地は借地借家法の知識と、借地人との調整力が要る取引になります。
なお、物件価格が800万円以下の宅地建物については、依頼者の一方から受け取れる仲介手数料の上限が30万円に消費税を加えた額まで引き上げられています(令和6年7月1日以降)。低い価格の底地では、この特例が適用される可能性があるため、媒介契約を結ぶときに手数料をあらかじめ確認しておいてください。
| 売り先 | 価格の傾向 | 期間 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 借地人 | 高くなりやすい | 相手次第 | 関係が良く、相手に資力がある |
| 底地の買取業者 | 下がりやすい | 短い | 早く現金化したい・話がつかない |
| 同時売却 | 合計は伸びやすい | 長い | 双方に売る意思がある |
| 投資家 | 地代次第 | 中程度 | 地代が適正な水準にある |
| 仲介で一般の買主 | 中程度 | 長い | 時間をかけられる |

底地の相談先について、僕が考えていることがあります。地元で長くやっている不動産会社は、地主とも借地人とも顔見知りであることが多いんですね。
これは悪いことばかりではありません。話が早い場面もあるんです。ただ、利害が対立する交渉になったときには、どちらかに寄った動きになりかねないとも考えています。実例を見たわけではなく構造から考えていることですが、双方と関係のない第三者を挟むほうが、話は素直に進むのではないかと思うんですよ。
底地を完全な所有権に戻してから売る道|3つの方法

底地のまま売るのではなく、借地権を解消してから売る、という考え方もあります。手間はかかりますが、金額の伸びが大きい道になります。
方法1|借地権を買い取る
借地人から借地権を買い取れば、土地は完全な所有権に戻ります。そのうえで更地または中古住宅として売れば、底地のままとは比較にならない金額になるんです。
必要になるのは資金と、借地人が売る意思を持っているかどうかになります。高齢で建て替えの予定がない、相続人が遠方にいる、といった事情があるときは話が進みやすくなります。
借地権の買い取りは、底地の売却とセットで考えるべき選択肢ですね。先に買い取り、あとで売る、という順番でも構いません。
方法2|等価交換で土地を分ける方法
底地と借地権を一部ずつ交換し、お互いが完全な所有権の土地を持つ形に組み替える方法もあるんです。1つの土地を2つに分けて、それぞれが単独所有になるイメージですね。
所得税には固定資産の交換の特例があり、要件を満たせば譲渡がなかったものとして扱われるんです。借地権は土地の種類に含まれると国税庁が明記しているため、底地と借地権の交換も対象になり得ます。
要件は、双方とも固定資産であること、同じ種類の資産であること、譲渡する資産を1年以上所有していたこと、取得する資産が交換のために取得したものでないこと、交換前と同じ用途に使うこと、そして時価の差が高いほうの20%以内であることです。適用には確定申告が要ります。
出典:国税庁「No.3502 土地建物の交換をしたときの特例」
方法3|借地人が売るときの介入権を使う
借地人が借地上の建物を第三者に売ろうとして、地主が賃借権の譲渡を承諾しないとき、借地人は裁判所に承諾に代わる許可を申し立てられます(借地借家法19条1項)。
このとき地主の側には対抗手段があります。裁判所が定めた期間内に申し立てれば、地主自身が建物と賃借権を、裁判所が定めた価格で優先的に買い受けられるんです(同19条3項)。裁判所はこれを介入権と呼んでいます。
競売や公売で借地上の建物が売られた場合にも、同じ仕組みが用意されています(同20条2項)。借地人の側から動きがあったときは、土地を取り戻す機会でもあるわけですね。裁判所の案内によれば、借地非訟事件の多くは特段の事情がなければおおむね1年以内に終わっています。

介入権という制度を知らない地主さんは多いです。借地人から「建物を売りたいので承諾してほしい」と言われたとき、承諾するか断るかの2択だと思い込んでしまうんですね。
実際には、自分が買い取るという第三の道もあるんです。ここを知っているかどうかで、その土地の10年後がまるで変わります。制度を知らずに損をする場面を、僕は現場で何度も見てきました。
底地売却の価格はどう決まるのか|3つの見方

底地の価格には、相場表のようなものが存在しません。それでも、決まり方の筋道は説明できるんです。
見方1|相続税評価の底地割合は税金の物差しである
国税庁は、借地権の目的となっている宅地の相続税評価額を、自用地としての価額から、自用地としての価額に借地権割合を掛けた金額を差し引いて求めると定めています。
借地権割合は路線価図と評価倍率表に記号で表示されていて、A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%と対応しますよ。借地権割合が60%の地域なら、底地の相続税評価は自用地評価額の40%という計算になるわけです。
ここで注意したいのは、これが相続税や贈与税を計算するための物差しだという点になります。売買の場面でこの割合どおりに買ってもらえる保証はありません。
出典:国税庁「路線価図の説明」
見方2|誰に売るかで計算の土台が変わる
借地人に売るときは、完全な所有権になるという価値が加わります。更地価格に近い水準の話ができる場面もあるんです。
第三者に売るときは、地代収入を利回りで割り戻す計算が土台になります。同じ土地で、計算のやり方そのものが違うということですね。
だからこそ、複数の相手に当たる意味があります。1社の査定だけを見て「底地はこんなものか」と判断するのは早すぎるんですよ。
見方3|地代の水準が価格を押し上げも押し下げもする
投資家や買取業者にとって、地代は収入そのものです。年間地代から固定資産税などを引いた手取りが大きいほど、価格は上がります。
昭和から据え置かれた地代のままだと、この計算では金額が伸びません。地代等増減請求権という制度はありますが、協議が調わなければ裁判で確定するまで時間がかかります(借地借家法11条2項)。
売る前に地代を見直すのか、安いまま売るのか。これは金額と時間のどちらを取るかという判断になります。
| 価格を見るとき | 土台になる数字 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続税・贈与税 | 自用地評価額×(1−借地権割合) | 売買価格ではない |
| 借地人へ売る | 完全所有権になったあとの土地の価値 | 相手の資力に左右される |
| 第三者へ売る | 年間地代の手取り÷期待利回り | 地代が低いと伸びない |

買取の査定で「相場よりも高く買います」と言われたら、その相場が何を指しているのかを聞いてみてください。底地には公表された相場がないので、比較対象を示せない言い方は、根拠がないのと同じになります。
僕が見てきた範囲では、きちんとした会社ほど計算の中身を先に説明してくれました。地代がいくらで、経費を引いた手取りがいくらで、何%の利回りで見ているのか。ここが出てくる相手なら、金額の交渉もできますよ。
借地人との話し合いで越えてはいけない線|3つのルール

底地の話は、相手のある話です。ここを踏み外すと、売却どころではなくなります。
ルール1|更新を断るには正当の事由が要る
契約期間が終わっても、建物があって借地人が更新を請求すれば、原則として契約は更新されたものとみなされます(借地借家法5条1項)。地主が異議を述べられるのは、正当の事由があると認められる場合に限られます(同6条)。
正当の事由は、双方が土地を使う必要性、これまでの経過、土地の利用状況、そして立退料など財産上の給付の申し出を考慮して判断されます。「期間が来たから返してください」だけでは通らないんですね。
なお契約の更新がないときは、借地人は建物などを時価で買い取るよう地主に請求できます(同13条1項)。断れば土地が空くという話にもならないわけです。
ルール2|地代の増額は請求できるが、決まるまでは時間がかかる
地代が不相当になったときは、将来に向かって増額を請求できます(借地借家法11条1項)。ただし協議が調わないうちは、借地人は相当と認める額を払えば足ります(同2項)。
その後の裁判で増額が正当とされ、すでに払った額に不足があれば、不足額に年1割の利息を付けて払うことになります。制度としては後から精算される設計になっているわけです。
一定期間は増額しないという特約がある場合は、その定めに従います。まず契約書を見てください。
ルール3|争いになったら弁護士につなぐ
地代の滞納、無断の増改築、明け渡しをめぐる対立。こうした話に発展したときは、いったん線を引いてください。
個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。不動産会社やコンサルタントが「あなたの主張は通ります」と言い切る場面があれば、そこは疑ってください。
一方で、借地条件の変更や増改築の許可、賃借権譲渡の許可といった手続は、借地非訟事件として裁判所が扱います。争いではなく手続として整理できる論点もある、ということですね。

底地の話がこじれる原因は、金額よりも順番であることが多いです。先に条件を突きつけてしまい、相手が身構えたところから始まるんですね。
僕が地主さんに勧めていたのは、まず「この土地を今後どうしたいか」を聞くところから入る形でした。借地人が建て替えを考えていたのか、いずれ出ていくつもりだったのか。それが分かるだけで、選べる道が増えます。
相続した底地はどうするか|4つの選択肢

底地は相続で受け継ぐことが多い資産です。相続直後には、売却以外にも考えるべきことがあります。
選択肢1|まず相続登記を済ませる
相続登記は2024年4月1日から義務になりました。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
施行日より前に相続を知っていた未登記の不動産も対象で、その期限は2027年3月31日です。すでに残り時間は長くありません。
すぐに遺産分割がまとまらないときは、相続人申告登記という手続があります。単独で申し出れば義務を履行したものとみなされますが、権利関係を公示するものではないため、売却や抵当権の設定には結局のところ相続登記が必要になります。
選択肢2|相続税の物納を検討する
相続税は金銭で納めるのが原則ですが、延納によっても金銭で納めることが難しい事由があるときは、物納を申請できます。不動産は第1順位の財産です。
ただし管理処分不適格財産に当たるものは物納できません。底地に関わるところでは、境界が明らかでない土地、そして借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるものが明記されています。
つまり、契約書がなく借地人の所在も分からない底地は、物納の入り口で外れる可能性があるわけです。ここでも記録の有無が効いてきます。
選択肢3|国庫帰属は使えないと知っておく
相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度というものがあるんです。ただし底地では、まず通りません。
法務省が示す却下事由には、建物がある土地、担保権や使用収益を目的とする権利が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地が並んでいます。借地権が設定され、その上に借地人の建物が建っている底地は、この3つに当たってしまうんです。
審査手数料は土地一筆あたり14,000円で、取下げ・却下・不承認でも返還されません。通らない前提の申請にお金と時間を使わないよう、先に外しておくのが賢いんです。
選択肢4|売って現金にする
持ち続けるか手放すかの分かれ目は、回収の計算になります。年間の手取り(地代マイナス固定資産税等)がいくらで、それが自分の代、そして次の代でどう変わるのか。
次の世代に、名義だけが増えて中身の分からない土地を渡すことになるかどうか。ここが判断の軸になります。底地は共有になるとさらに動かしにくくなるため、相続人が複数いる家では早めに考える価値があります。共有になったあとの進め方は、共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口で整理しました。
| 選択肢 | 使える条件 | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 相続登記 | 全員 | 遡及分の期限は2027年3月31日 |
| 物納 | 延納でも金銭納付が難しい | 境界不明・借地人不明は不適格 |
| 国庫帰属 | 底地では原則不可 | 手数料14,000円は返らない |
| 売却 | 全員 | 売り先で金額が変わる |

登記簿を追いかけていた当時、三代前の名義のまま残っている土地に何度も当たりました。そうなると、隣の人ですら誰の土地か分からない状態になります。
底地でこれが起きると、借地人の側も身動きが取れなくなります。地代を誰に払えばいいのか分からない、建て替えの承諾を誰にもらえばいいのか分からない。売る売らない以前に、名義を今の代に直しておくことをお勧めします。
底地売却でかかる税金|押さえる4つの論点

売れたあとの手取りは、税金で変わります。動く前に押さえておいてください。
論点1|譲渡所得は分離課税で、長期か短期かで税率が違う
土地建物を売った譲渡所得は、他の所得と分けて計算するものなんです。譲渡所得は、収入金額から取得費と譲渡費用を引き、さらに特別控除額を引いて求めます。
長期か短期かは、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで判定するんです。長期なら所得税15%と住民税5%、短期なら所得税30%と住民税9%になります。あわせて平成25年から令和19年までは、基準所得税額の2.1%が復興特別所得税として課されます。
相続や贈与で取得した土地は、原則として被相続人や贈与者の取得日から通算するんです。親から受け継いだ底地なら、たいていは長期になるわけですね。
出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」/国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」/国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」
論点2|取得費が分からないときは譲渡価額の5%
先祖から受け継いだ底地では、いくらで買ったのかを示す資料が残っていないことが普通です。この場合、取得費が不明なとき、または実際の取得費が譲渡価額の5%より少ないときは、譲渡価額の5%を取得費にできると定められています。
3,000万円で売って取得費が分からなければ、150万円を取得費として計算する形ですね。裏を返せば、残りの部分に課税されるということでもあります。
古い売買契約書、当時の領収書、相続時の財産目録。少しでも手がかりがあれば探す価値があるんですよ。
論点3|相続税を払っているなら取得費加算がある
相続や遺贈で取得した財産を売ったとき、一定の要件を満たせば、納めた相続税の一部を取得費に加算できます。要件は、相続や遺贈で財産を取得したこと、その人に相続税が課されていること、そして相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡することです。
相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と決められています。合わせると、実質的に相続から3年10か月という期限になります。
加算できる額には上限があり、この特例を適用しないで計算した譲渡益の額までとされています。
出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
論点4|空き家の3,000万円特別控除は底地では使えない
相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除は、名前がよく知られている制度です。ただし底地には使えません。
この特例は、相続開始の直前に被相続人が住んでいた家屋とその敷地を売った場合が対象です。底地の上に建っているのは借地人の建物ですから、要件から外れます。
底地とは別に、親が住んでいた家を相続しているなら、そちらでは検討の余地が出てくるんです。制度の名前だけで判断せず、どの土地の話なのかを分けて考えてください。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

制度を知らずに損をする場面を、僕は現場で何度も見てきました。知らなかったという一言が、そのまま数百万円の差になって返ってくるんです。
とくに取得費加算は期限のある制度になります。相続が起きてから動き出すまでに時間がかかる資産だからこそ、期限だけは早めに手帳に書いておいてください。個別の税額の計算は税理士の領域なので、金額を出す段階では専門家に当たってくださいね。
底地売却はどう進めるか|5つのステップ

最後に順番を整理しておきましょう。この順に進めると、無駄が出にくくなります。
ステップ1|契約書と登記を何からそろえるか
借地契約書、建物の登記事項証明書、公図、固定資産税の納税通知書。この4点を先にそろえてください。
契約の時期が分かれば、旧借地法と借地借家法のどちらで考えるかが決まります。ここが決まらないと、どの相談先に行っても答えが返ってきません。
ステップ2|地代と固定資産税を並べて手取りを出す
年間地代から固定資産税と都市計画税を引き、実際に手元に残る額を書き出します。この数字が、投資家や買取業者の査定の土台になります。
同時に、地代がいつから今の額なのかも確認してください。長く据え置かれているなら、増額請求という選択肢が視野に入ります。
ステップ3|境界と越境を確かめる
境界標の位置を見て、公図と現況を突き合わせてください。塀や樹木が隣地にまたがっていれば、扱いを決めておきます。
境界が確定していないと、物納の道は閉じてしまうんです。買主も、確定していない土地はリスクとして価格から引いてきます。早めに土地家屋調査士へ相談する価値がありますよ。
ステップ4|借地人に打診する
いちばん高く買う可能性のある相手なので、順番として先に置きました。買う意思がなくても、この会話には意味があります。
将来どうしたいのか、建て替えの予定があるのか、相続人はいるのか。相手の予定が分かると、同時売却や介入権といった別の道が見えてくるからです。
ステップ5|同じ資料で複数社に相談する
借地人で決まらなければ、底地の買取業者と仲介の両方に声をかけます。このとき、ステップ1から3でそろえた資料を同じ形で渡してください。
前提がそろっていないと、出てきた金額を比べられません。相談先の会社は、宅地建物取引業の免許番号まで確認しておくと安心です。

底地は、持ち続けるか手放すかの判断がいちばん難しい資産だと思っています。判断の軸は感情ではなく、回収の計算になります。
年間の手取りがいくらで、何年持てば売却額に並ぶのか。その年数が自分の残り時間や次の代の事情と合っているかどうかで決めてください。合っていないなら、動かせるうちに動かすほうが結果は良くなります。
底地売却に関してのよくある質問

借地人に無断で底地を売っても問題ありませんか?
法律上、底地の譲渡に借地人の承諾を求める規定はありません。ただし借地権は建物の登記があれば買主に対抗できるため、借地人の立場は変わらないまま引き継がれます。実務では、先に借地人へ打診してから進めるほうが、結果として高く売れる場面が多いですよ。
底地は相続税評価額どおりの金額で売れますか?
そうとは限りません。自用地評価額から借地権割合を引いた金額は、相続税や贈与税を計算するための評価です。売買では、誰に売るか、地代がいくらかによって計算の土台そのものが変わります。
地代を値上げしてから売ったほうが得ですか?
投資家や買取業者に売るなら、手取りが増えるぶん価格に効いてきますよ。ただし増額について協議が調わなければ、裁判が確定するまでは借地人が相当と認める額を払えば足りると定められているため、時間がかかります。金額と時間のどちらを優先するかで決めてください。
まとめ

底地売却は、値段の粘り方ではなく売り先の選び方で結果が決まります。
- 底地は貸宅地であり、売買そのものを禁じる規定はない
- 止まりやすい理由は、土地を使えない・契約が長く続く・地代が低い・記録がない、の4つ
- 動く前に、借地契約書・建物の登記・地代と固定資産税・境界の4つを記録で確かめる
- 売り先は、借地人・買取業者・同時売却・投資家・仲介の5つで、いちばん高くなりやすいのは借地人
- 借地権の買い取り、等価交換、介入権を使えば、完全な所有権に戻してから売る道もある
- 相続した底地は、相続登記の期限、物納の可否、国庫帰属が使えないことを先に押さえる
- 税金は、長期短期の判定・概算取得費5%・取得費加算の3年10か月を確認する
まず今日できることは、借地契約書を探すことと、法務局で建物の登記事項証明書を1通取ることです。この2つがそろうと、自分の底地がどの売り先に向いているかが見えてきます。








底地の相談で最初に出てくるのは、たいてい「売れますか」ではなく「地代が安すぎて困っている」でした。昭和の時代に決めた地代が、そのまま何十年も続いている土地が実際にあるんです。
固定資産税を払ったら手元にいくらも残らない、という状態でも、契約は生きています。まずは自分の土地がどういう状態なのかを、感情ではなく書面で確かめるところからになります。