「この家、いくらで買ってもらえるんですか」。人が亡くなった家を相続して、仲介に出しても話が進まない。そういう場面で最初に出てくる質問がこれになります。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていました。空き地や古い家を見つけては登記事項証明書を取り、所有者を訪ねて回る仕事です。相続で引き継いだ家をどうするかという相談は、実務をしていた当時から絶えることがありませんでした。
結論から言うと、事故物件買取の金額は、業者の出口から逆算されて決まります。いくらで再販できるか、その前にいくら直す必要があるか、そこから利益を引くと買取価格が残る。この順番なんですね。だから「相場の何割」という一律の数字は存在しません。
そして、もう一つ押さえておきたいことがあります。仲介と買取のどちらが得かは、価格だけでは決まらないという点です。仲介手数料、特殊清掃や解体の費用、売れるまでの固定資産税、そして譲渡にかかる税。これを並べて初めて手元に残る額が出るんですね。
この記事では、事故物件買取と仲介の違い、仲介で止まりやすい理由、価格の決まり方、手取りの計算、出す前の確認、告知の材料、契約書の読みどころ、進め方、断られたときの出口、使える税金の制度の順にたどります。
法令と制度は、国土交通省・国税庁・法務省・e-Gov法令検索で確認したものだけを載せました。2026年9月時点の内容としてお読みください。なお、業者そのものの選び方は訳あり物件買取業者の選び方|元コンサルが先に見る5つのポイントと契約前の確認事項に分けて書きました。
事故物件買取とは何か|仲介との3つの違い

事故物件買取とは、宅地建物取引業者が売主から直接その不動産を買い取ることをいいます。買主を探してもらう仲介とは、そもそも取引の形が違うんですね。
違いは3つあります。誰が買主になるのか、手数料がどうなるのか、売ったあとの責任を誰が負うのか。この3点を先に整理させてください。
違い1|買主は誰になるのか
仲介の場合、不動産会社は売主と買主の間に入って契約をまとめる立場です。会社が物件を買うわけではありません。だから買主が見つからない限り、話は前に進まないわけです。
これに対して事故物件買取では、その不動産会社自身が買主になります。相手を探す工程が丸ごと消えるため、条件が折り合えば数週間で決済まで届くこともあるんですよ。
代わりに、買主は目の前の1社だけになります。競り合いが起きないぶん、価格は仲介より低くなるのが通常の形なんです。
違い2|仲介手数料はどう変わるのか
仲介を頼んだときに払う報酬には上限が定められています。国土交通省の告示では、売買代金のうち200万円以下の部分が5.5%、200万円を超え400万円以下の部分が4.4%、400万円を超える部分が3.3%と決められました。いずれも消費税等相当額を含んだ割合です。
さらに、売買代金が800万円以下の「低廉な空家等」については、媒介に要する費用を勘案して、依頼者から30万円の1.1倍、つまり33万円までを受け取れるという特例があります。安い物件ほど、率で計算した額より手数料が高くなる仕組みですね。
事故物件買取では、業者が買主なので媒介の報酬そのものが発生しません。ここは金額に直接効いてくる差になります。
出典:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号)」
違い3|売ったあとの責任は誰が負うのか
引き渡した物件が契約の内容に適合していなかったとき、買主は追完や代金減額、損害賠償、契約解除を求められます。民法は、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しなければこれらを求められないと定めています(第566条)。
そして宅地建物取引業法第40条は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買では、引渡しの日から2年以上とする特約を除いて、民法より買主に不利な特約を結んではならないと決めました。この規定に反する特約は無効です。
事故物件買取では業者が買主の側に立つため、この制限はかかりません。個人の売主が契約不適合責任を負わない特約を結べる場面が出てくるわけです。ただし民法第572条があり、知りながら告げなかった事実については、特約があっても責任を免れられません。
出典:e-Gov法令検索「民法」/e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
| 論点 | 仲介 | 事故物件買取 |
|---|---|---|
| 買主 | これから探す | 依頼した業者そのもの |
| 期間 | 買主が現れるまで | 条件が合えば数週間 |
| 媒介の報酬 | 告示の上限まで発生(800万円以下は33万円まで) | 発生しない |
| 契約不適合責任 | 個人間の取り決めによる | 免責の特約を結べる場面がある |
| 価格 | 高く出せる可能性がある | 仲介より低くなるのが通常 |
なぜ事故物件は仲介で止まりやすいのか|4つの理由

事故物件買取という選択肢が語られるのは、仲介で止まる場面が実際に多いからです。売り方が下手だから止まるわけではありません。
止まる理由には構造があります。4つに分けて見ていきましょう。
理由1|買いたい人の母数がなぜ小さくなるのか
住宅を買う人の多くは、そこに自分や家族が住むことを前提にしています。人が亡くなった家であることを知って、それでも住むと決められる人は限られるわけです。
買い手の母数が減れば、同じ価格でも売れるまでの期間は延びます。売れないのではなく、出会う確率が下がっている状態ですね。
一方で、再生して貸す、投資として持つ、という目的で探している人は一定数います。買取業者はこの層とつながっているため、個人の買主とは別の物差しで判断できるんです。
理由2|価格の物差しがどこでずれるのか
近隣の取引価格は、国土交通省の不動産情報ライブラリで調べられます。実際に取引された価格が地図の上で確認できる仕組みです。
ただし、そこに出ている数字は心理的瑕疵の分を引く前の価格になります。近所の家が2,000万円で売れていたとしても、その数字がそのまま自分の家に当てはまるわけではありません。
売主は近隣の数字を見て期待し、買主は事情を知って引く。この差が埋まらないまま時間が過ぎるのが、止まっている状態の中身なんですよ。
理由3|仲介会社にとってどういう案件になるのか
不動産会社の収益は仲介手数料です。数百万円の物件を1件まとめるのに、調査をして、告知の内容を整理して、買主候補に説明を尽くす手間がかかる。その手間に対して入る報酬は、普通の住宅の売買と比べて小さくなります。
僕がグループの売買部門と一緒に動いていた当時も、手間のわりに実らない案件は後回しにされがちでした。同じ会社でも担当者によって温度差がはっきり出ます。
冷たいと感じたとき、相手の会社を責めても事態は動きません。構造がそうなっていると考えて、扱いに慣れた相手を探すほうが早いんです。
理由4|売主が事情を伝えきれないとどうなるのか
何が起きたのかを他人に説明するのは、気持ちの上で簡単なことではありません。だから、聞かれるまで言わないという判断になりやすいわけです。
けれども、伝えないまま進めた話は、あとから必ず戻ってきます。契約の直前や引き渡しの後に発覚すると、価格の再交渉ではなく解除や損害賠償の話に変わってしまいます。
先に出しておけば、価格を下げる交渉で済んだはずのものが、取引そのものを壊す材料になる。ここは順番の問題なんですね。
| 止まる理由 | 中身 |
|---|---|
| 買い手の母数 | 住む目的の買主が減り、出会う確率が下がる |
| 価格の物差し | 近隣の取引価格には心理的瑕疵の減価が入っていない |
| 仲介会社の採算 | 手間に対して報酬が小さく、優先度が下がりやすい |
| 情報の出し方 | 伝える時期が遅いほど、取引を壊す材料になる |

実務をしていた当時、相場を知らないまま交渉の席についてしまう方を何度も見てきました。相手の出した数字が高いのか安いのか、判断する材料を持たずに座っている状態です。
先に調べるべきは業者の評判ではなく、近隣でいくらの取引があったかという数字のほうになります。その数字を握ってから話を始めると、同じ提示額でも受け止め方が変わりますよ。
事故物件買取の価格はどう決まるのか|4つの土台

事故物件買取の金額に一律の相場はありません。「相場の何割」という言い方が出回っていますが、根拠のある数字ではないんです。
価格が組み立てられる順番は決まっています。土台を4つに分けて説明しますね。
土台1|買取価格はどこから逆算されるのか
買取業者は、買った物件を再生して次の誰かに渡すことで利益を出します。だから計算は再販価格から始まるんです。
再販できる価格から、特殊清掃や改修、場合によっては解体の費用を引く。保有している間の税金と経費も差し引く。そこから自社の利益を引いた残りが、売主に提示できる上限になるわけです。
順番が逆になることはありません。「頑張って高く買う」という言い方が出てきたら、その業者は再販価格をどう見積もったのかを聞いてみてください。
土台2|更地にしたときの価格がなぜ床になるのか
建物を壊して土地として売れる立地であれば、土地の価格から解体費を引いた額が一つの目安になります。建物に価値が乗らない場合、業者はこの計算をしているはずです。
ここで押さえておきたい点があります。国土交通省のガイドラインは、人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱いについて、一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や実務の蓄積がないとして、対象としていないと明記しました。
つまり、更地にすれば必ず告知が不要になるという整理は、現時点で示されていません。ここを断定してくる説明には注意が要ります。
出典:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
土台3|近隣の取引価格をどこで確かめるのか
自分の物件の土台を知るには、近隣で実際にいくらの取引があったかを見るのが早道です。不動産情報ライブラリでは、取引価格の情報を地図から絞り込めます。
見るときのコツは、同じ町名・同じくらいの土地面積・同じくらいの築年数に条件をそろえることですね。条件が違う物件の数字を並べても、比較にはなりません。
この数字が、業者の提示額を読むときの物差しになります。提示が土台から大きく離れているなら、その差の理由を説明してもらえばいいわけです。
土台4|下げ幅は何によって動くのか
同じ事故物件買取でも、下げ幅は一律ではありません。動かす要素は4つに整理できます。
1つ目は事案の内容です。ガイドラインは告げる内容として、発生時期、場所、死因、特殊清掃が行われた場合はその旨を挙げています。2つ目は発覚からの経過期間になります。
3つ目が周知性です。近隣や報道でどこまで知られているかによって、再販時の説明の重さが変わります。4つ目は建物と土地そのものの状態で、心理的瑕疵とは別に、雨漏りや傾き、境界の未確定といった物理的な条件も同じ査定の中で引かれます。
| 価格を作る要素 | 見るところ |
|---|---|
| 再販価格 | 誰にどう渡すつもりなのかを業者に聞く |
| 直す費用 | 特殊清掃・改修・解体のどこまでを見込んでいるか |
| 更地としての価格 | 土地の価格から解体費を引いた額 |
| 事案の内容と経過期間 | 発生時期・場所・死因・特殊清掃の有無 |
| 周知性 | 近隣や報道でどこまで知られているか |
| 物理的な状態 | 雨漏り・傾き・境界・残置物 |

査定書に「相場より高く買います」と書いてあっても、それ自体は何の情報でもありません。何を相場と呼んでいるのかが書かれていないからです。
聞くべきは金額ではなく、その金額を出した引き算の中身になります。再販でいくらを見て、直す費用にいくら見たのか。ここに答えられる相手なら、交渉のテーブルとして成立しますよ。
事故物件買取と仲介はどちらが手元に残るのか|3つの計算

提示された金額の高さと、最後に手元に残る額は別ものです。事故物件買取を検討するなら、両方を同じ形に並べて比べる必要があります。
比べ方は3つの計算に分けられるんですね。
計算1|仲介の手取りはどう出すのか
仲介で売れた場合、売買代金からまず仲介手数料が引かれます。上限は先に触れたとおりで、800万円以下の物件なら33万円までという特例が効いてきますよ。
そこから、売る前に必要になった費用を引きます。特殊清掃、残置物の処分、場合によっては解体。買主が付くまでにかかった固定資産税と都市計画税も、実際には出ていったお金です。
最後に譲渡にかかる税を引きます。期間が読めない取引では、この保有中のコストがいくらまで膨らむかを幅で見ておくことが大事なんですね。
計算2|買取の手取りはどう出すのか
事故物件買取では、買取価格から引かれるものが少なくなります。媒介の報酬がなく、現状のまま引き受けてもらえるなら清掃や解体も売主の負担から外れるからです。
残るのは譲渡にかかる税と、登記に関する費用など実務上の実費になります。決済までの期間が短ければ、保有中のコストもほとんど乗りません。
つまり、提示額そのものは低くても、引かれるものが少ないぶん差が縮むという構造なんですね。この縮み方を出さずに「買取は安い」と決めてしまうと、判断を誤るんです。
計算3|時間はいくらの費用になるのか
止まっている間も、固定資産税と都市計画税は毎年かかります。火災保険、草刈りや見回りの費用も同じです。遠方であれば、往復の交通費と時間も出ていきます。
仮に年間の維持費を実額で出してみて、それを仲介で売れるまでの想定期間と掛け合わせる。この金額が、買取価格と仲介価格の差をどこまで埋めるかが判断の分かれ目になります。
僕が実務をしていた当時、持ち続けるか手放すかの相談で最後に効いたのは、いつも回収の計算でした。感情の話を数字に置き換えると、迷いが減るんですよ。
| 並べる項目 | 仲介 | 事故物件買取 |
|---|---|---|
| 受け取る金額 | 売買代金 | 買取価格 |
| 媒介の報酬 | 告示の上限まで | なし |
| 清掃・解体 | 売主が負担することが多い | 現状渡しなら不要 |
| 売れるまでの維持費 | 期間に比例して増える | ほとんど乗らない |
| 譲渡にかかる税 | かかる | かかる |

制度を知らずに損をする方を、実務をしていた当時から数えきれないほど見てきました。損の中身は、たいてい難しい話ではありません。
知っていれば使えたものを、知らないまま期限を過ぎただけというのがほとんどです。あとで触れる空き家の3,000万円特別控除は、その代表になります。金額の交渉より先に、使える制度を確かめてください。
事故物件買取に出す前に確かめる5つのこと

査定を頼む前に、売る側の足元を固めておく工程があります。ここが済んでいないと、金額が出ても契約に進めません。
確かめることは5つあります。
確認1|名義は誰になっているのか
売れるのは名義人だけです。相続した家であれば、まず相続登記が済んでいるかを登記事項証明書で確かめます。
相続登記は義務になりました。法務省は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが法律上の義務であり、正当な理由がないのに申請しない場合は10万円以下の過料が科される可能性があると説明しています。
僕が実務をしていた当時は義務化の前で、登記簿に三代前の名前が残ったままの土地に何度も当たりました。世代をまたぐほど、話をまとめる相手が増えていきます。
確認2|名義人の判断能力は保たれているか
名義人が存命で判断能力が落ちている場合、売買契約そのものが結べなくなるんですね。この場合は成年後見制度を使うことになり、家庭裁判所の手続きが必要になります。
グループに信託を扱う会社があった当時、手続きを進めている最中に診断が確定して間に合わなかったという事例を知っています。結果として施設の費用を子の世代が実費で負担し、空き家だけが残りました。
対策を打てるのは診断の前だけです。ここは時間切れが起きる論点なので、先に確かめておいてください。
確認3|共有になっていないか
兄弟で相続して共有のままになっている家は珍しくありません。共有物の売却には共有者全員の同意が要るため、1人でも反対すれば話が止まります。
査定を取る前に、名義がどう分かれているかを全員で共有しておくほうが結果として早いんです。金額が出てから同意を取りに行くと、条件の話と感情の話が同時に来てしまいます。
共有になっている場合の進め方は、共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口に分けて書きました。
確認4|登記された権利が残っていないか
古い抵当権が抹消されないまま残っている物件があります。借入がとうに終わっていても、登記だけが生きている状態ですね。
宅地建物取引業法第35条は、重要事項の説明として、その宅地や建物の上に存する登記された権利の種類と内容、登記名義人を説明することを求めています。買主が業者であっても、この確認は必ず入るんですね。
抹消には手続きと費用がかかります。査定の段階で分かっていれば段取りに組み込めますが、契約直前に出てくると決済が延びます。
確認5|起きたことをどう書き出すのか
いつ、どこで、どういう経緯だったのか。特殊清掃や大規模なリフォームは入ったのかどうか。入っていたなら、その時期はいつか。この4点を時系列で紙に書き出します。
分からない部分は、分からないと書いて構いません。ガイドラインも、照会先から不明と回答された場合や回答がなかった場合には、その旨を告げれば足りるという整理をしています。
この紙が、次の章で触れる告知書の下書きになります。記憶をたどるのは負担の大きい作業ですが、ここを飛ばすと後工程が全部ぐらつくんです。
| 確かめること | 見る書類・調べ先 |
|---|---|
| 名義 | 登記事項証明書 |
| 判断能力 | 成年後見制度の要否を家庭裁判所へ確認 |
| 共有関係 | 登記事項証明書の持分 |
| 登記された権利 | 登記事項証明書の乙区 |
| 起きたことの経緯 | 自分で作る時系列のメモ |

登記事項証明書は、法務局の窓口でもオンラインでも取れます。実務をしていた当時、僕は空き家を見つけるたびにこれを取って所有者を追いかけていました。
自分の家の謄本を一度も見たことがない、という方は本当に多いです。そこに書いてあることが、売れるかどうかの前提を全部決めています。まず1通取るところから始めてください。
事故物件買取で伝えるべきことは何か|告知の材料4つ

事故物件買取では、買主が宅地建物取引業者です。プロが相手だから察してくれる、という考え方は通用しません。伝える内容と伝え方には型があります。
そろえる材料は4つです。
材料1|ガイドラインは何を告げる内容としているのか
国土交通省のガイドラインは、告げる場合の内容を具体的に挙げています。事案の発生時期、特殊清掃等が行われた場合は発覚時期、場所、死因、そして特殊清掃等が行われた旨です。死因が不明である場合は、その旨を告げれば足りるとされています。
一方で、亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に配慮する観点から、氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況までは告げる必要がないとも書かれました。
どこまで話すべきか迷ったとき、この線が基準になります。すべてを話す必要はないんですね。
出典:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
材料2|自然死はどう扱われるのか
ガイドラインは、老衰や持病による病死といった自然死について、居住用不動産で発生することは当然に予想されるものであり、賃貸借取引と売買取引のいずれも原則として告げなくてよいと整理しました。自宅の階段からの転落、入浴中の事故、食事中の誤嚥といった日常生活の中での不慮の死も同じ扱いです。
ただし例外があります。長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は、告げる側に回ります。
線の引き方をもう少し細かく知りたい場合は、事故物件買取業者の選び方|告知義務の線引きと、査定を受ける前に整えておく4つのことにガイドラインの3つの線を並べてあります。
材料3|売買に年数の区切りはあるのか
賃貸については、ガイドラインが目安を示しました。自然死以外の死が発生した場合や、特殊清掃等が行われた自然死が発覚した場合、そこから概ね3年を経過した後は原則として借主に告げなくてよいという整理です。
売買については、この年数の定めが置かれていません。時間が経てば自動的に告げなくてよくなる、という基準は示されていないわけです。
さらに、発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主から事案の有無について問われた場合は、調査を通じて判明した点を告げる必要があるとされています。聞かれたら答える、が原則になります。
材料4|告知書には何を書くのか
売買の実務では、告知書、または物件状況等報告書と呼ばれる書面に売主が記入します。ガイドラインは、媒介を行う業者について、この書面への記載を求めることで調査義務を果たしたものとするとしました。
ここに落とし穴があります。告知書に記載されなかった事案が後日判明しても、業者に重大な過失がない限り調査は適正になされたものとされるため、書かなかった責任は売主の側に残るという構造になっているんです。
そして民法第572条は、担保責任を負わない旨の特約をしていても、知りながら告げなかった事実については責任を免れられないと定めています。免責の特約は、隠しごとまでは守ってくれないわけです。
| 論点 | ガイドラインの整理 |
|---|---|
| 告げる内容 | 発生時期(特殊清掃等なら発覚時期)・場所・死因・特殊清掃等の有無 |
| 告げなくてよい内容 | 氏名・年齢・住所・家族構成・具体的な死の態様・発見状況 |
| 自然死・日常の不慮の死 | 原則として告げなくてよい(特殊清掃等が入った場合は別) |
| 賃貸の年数 | 発覚から概ね3年 |
| 売買の年数 | 定めなし |
| 買主から問われた場合 | 経過期間や死因に関わらず告げる |

告知は、価格を下げるための材料ではありません。取引を最後まで壊さないための材料です。
先に全部出した取引は、価格の話だけで終わります。あとから出た取引は、価格の話に戻る前に信用の話になってしまう。書面に残して渡しておくところまでを一つの作業だと考えてください。
事故物件買取の契約書はどこを読むのか|4つの条項

金額が折り合っても、契約書を読まずに署名してしまうと、後から動かせなくなります。事故物件買取の契約で見るところは決まっているんですね。
読む条項は4つです。
条項1|契約不適合責任をどう定めているのか
売主が個人で買主が業者という形では、契約不適合責任を負わない特約を置くことが実務上あります。宅地建物取引業法第40条の制限は業者が自ら売主となる場合の規定なので、この向きの取引には及びません。
特約が置かれていること自体は、おかしなことではないんですね。確かめるのは、その特約が何を対象にしているのか、対象から外れるものが書かれているかという点です。
そして繰り返しになりますが、知りながら告げなかった事実は民法第572条で免責の対象から外れます。特約の広さと、告知書に書いた内容は、セットで読んでください。
条項2|告知した内容が書面に残っているのか
口頭で伝えた内容は、契約書に残らなければ「伝えた」という事実を証明しにくくなるんですね。ガイドラインも、事案の存在を告げる際は後日のトラブル防止の観点から書面の交付等によることが望ましいとしています。
売主の側にも、同じことが言えますよ。自分が渡した告知書の控えを必ず手元に残しておくわけです。
日付の入った書面が1枚あるかどうかで、後の話し合いの重さが変わります。
条項3|残置物と現状渡しの範囲はどこまでか
家財や遺品が残ったままの状態で引き渡せるのかどうかは、金額と同じくらい大きな条件になります。現状のまま引き受ける会社は実際に存在します。
実務をしていた当時に学んだのは、残すものと渡すものを目録にして契約に落とすという手順でした。「これは残しておいて」という口約束は、あとで必ず食い違います。
写真を撮り、品目を書き出し、双方が確認した記録を残す。手間に見えて、この工程が一番トラブルを減らしてくれます。
条項4|解除の条件と手付はどうなっているのか
契約を白紙に戻せる場面と、その場合に手付がどうなるのかを読みましょう。ここは事故物件買取に限った話ではありませんが、決済までが短いぶん判断の時間も短くなるため、先に把握しておく価値があります。
なお、宅地建物取引業法第37条の2が定めるクーリングオフは、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約についての制度です。業者が買主となる買取には適用がありません。
「あとから断れる」という前提で進めないほうが安全なんですね。契約前に確かめ切るのが原則になります。

契約書を読むのが苦手という方には、読む場所を4つに絞ってお渡ししています。全部を理解しようとすると、かえって手が止まるからです。
責任、告知、残置物、解除。この4つに付箋を貼って、そこだけ説明してもらってください。説明を渋る相手なら、その時点で情報が1つ増えたことになります。
事故物件買取はどう進むのか|5つのステップ

段取りが決まっていれば、事故物件買取は思ったより短く終わります。逆に、資料をそろえないまま声をかけると、同じ説明を何度も繰り返すことになるんです。
進め方は5つのステップに分かれます。
ステップ1|資料は何からそろえるのか
登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、公図と測量図、建物の図面。手元にあるものだけで構いません。加えて、前の章で作った時系列のメモを1枚用意します。
そろっている資料の量が、そのまま査定の精度になります。情報が足りない分は、業者がリスクとして価格から引くしかないからです。
古い家ほど図面は見当たらないものですが、無いなら無いと伝えれば構いません。
ステップ2|複数社にどう当たるのか
1社の提示額だけを見ても、それが高いのか低いのかは判断できないんですね。同じ資料と同じ説明を渡して、3社程度に当たります。
大事なのは条件をそろえることです。A社には話して、B社には話していない事情がある状態で金額を比べても、比較になりません。
事故物件を扱った実績があるかどうかは、面談の中で聞けば分かるんですね。免許番号や行政処分の履歴を調べる手順は、国土交通省の検索システムで確認できます。
出典:国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
ステップ3|価格の根拠をどう説明してもらうのか
提示された金額について、再販でいくらを見込んでいるのか、直す費用にいくら見ているのかを聞いてください。答えの中身より、答えられるかどうかを見るところです。
根拠を数字で出せる相手は、後の交渉でも同じ土俵に乗ってくれます。逆に「うちは高いですから」で終わる相手とは、条件を詰める話ができません。
聞き方は難しく考えなくて構いません。「この金額はどう計算されたんですか」の一言で足ります。
ステップ4|価格以外の条件をどう並べるのか
比べるのは金額だけではありません。現状のまま引き受けてもらえるか、引き渡しはいつになるか、解除の条件はどうか、告知の内容をどう書面化するか。
この4項目を一覧にして、社ごとに埋めていきましょう。金額が2番目でも、条件を足すと1番になる会社は普通に出てきます。
表にしてしまえば、迷いは減りますよ。
ステップ5|契約と決済で何を確かめるのか
契約の日には、前の章の4つの条項を読み合わせます。決済の日は、抵当権の抹消や所有権の移転が滞りなく進むかどうかの確認になります。
不動産取引で困ったときの相談先は、国土交通省が消費者向けに案内を出しています。免許行政庁や宅地建物取引業保証協会の窓口が示されているので、判断に迷ったときの逃げ道として覚えておいてください。
出典:国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」

査定を頼む会社を増やせば増やすほど良い、というものではありません。説明する側の負担が重くなり、途中で気力が尽きてしまうからです。
3社で足ります。同じ資料を渡せる状態を先に作っておけば、3社でも十分に比較できる材料がそろいますよ。
事故物件買取を断られたらどうするか|4つの出口

事故物件買取を打診しても、引き受けられないと言われることがあります。再販の見通しが立たない立地であったり、費用が価格を超えてしまう物件であったりする場合です。
そこで終わりではありません。出口は4つです。
出口1|条件を変えてもう一度当たるのはどうか
断られた理由が価格なのか、状態なのか、立地なのかで打つ手が変わります。まずここを聞いておくわけです。
同じ物件でも、扱いに慣れた会社とそうでない会社では判断が分かれます。再生して貸す出口を持っている会社なら、売る出口しか持たない会社が断った物件を引き受けることがあります。
打診する相手を変える、という手はまだ残っています。
出口2|仲介で告知したうえで探す方法はあるか
買取が難しくても、仲介で買主が見つかることはあるんです。時間はかかりますが、価格は買取より高く出せる可能性が残ります。
このとき必ず、告知書に事情を書いたうえで売却活動に入ってください。隠して探した買主は、最後まで買主のままではいてくれません。
800万円以下の物件であれば、仲介手数料は33万円までという特例が使えるため、報酬の面で業者が動きやすくなっている点も覚えておいてください。
出口3|解体して土地として売るとどうなるのか
建物を壊して土地として売る道もあります。ただし税金の扱いが変わる点は先に押さえてください。
地方税法は、住宅用地の固定資産税の課税標準を価格の3分の1、200平方メートル以下の小規模住宅用地は6分の1とすると定めています。建物を壊すと、この特例から外れるんですね。空家等対策の推進に関する特別措置法にもとづいて管理不全空家等または特定空家等として勧告を受けた土地も、住宅用地から除かれます。
なお、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用は、譲渡費用として譲渡所得の計算に入れられます。出ていくお金であることに変わりはありませんが、税の計算では引ける費用です。
出典:e-Gov法令検索「地方税法」/国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
出口4|国に引き取ってもらう道はあるのか
相続土地国庫帰属制度という仕組みがあります。相続等で取得した土地の所有権を、国庫に帰属させることを申請できる制度です。
ただし法務省は、申請をすることができないケース、つまり却下事由の1つ目として建物がある土地を挙げています。担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地も同じく却下事由です。
家が建ったままでは使えません。自治体が運営する空き家・空き地バンクに登録して買い手を待つ道もあるので、地元の窓口に確認してみてください。
出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」/国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」
| 出口 | 使える場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相手を変えて再打診 | 断りの理由が会社の出口の違いによる場合 | 断られた理由を必ず聞いておく |
| 仲介で探す | 時間をかけられる場合 | 告知書に書いたうえで活動する |
| 解体して土地で売る | 建物に価値が乗らない場合 | 住宅用地の特例から外れる |
| 国庫帰属・空き家バンク | 土地だけになっている場合 | 建物があると国庫帰属は申請できない |

断られたことを、物件の価値がゼロだという判定として受け取ってしまう方がいます。実際には、その会社の出口に合わなかったというだけの話です。
手放す方法は1つではありません。売る、貸す、解体する、国に引き取ってもらう。順番に当てていけば、たいていどこかに引っかかります。
事故物件買取で使える税金の制度|3つの論点

事故物件買取で売った場合も、利益が出れば譲渡所得として課税されます。ここで制度を知らないと、使えたはずの控除を逃すことになるんですね。
押さえる論点は3つです。個別の税額計算は税理士の領域なので、ここでは仕組みと期限だけ整理しますね。
論点1|相続した家なら3,000万円の特別控除が使えるか
相続または遺贈で取得した被相続人の居住用家屋とその敷地を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売って一定の要件に当てはまると、譲渡所得の金額から最高3,000万円を控除できます。
対象になる家屋は、昭和56年5月31日以前に建築されたもの、区分所有建物の登記がされていないもの、相続の開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったものという3要件をすべて満たすものです。売却は相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までで、売却代金は1億円以下という条件が付きます。
そして、事故物件買取と相性がいい点がここです。令和6年1月1日以後に行う譲渡については、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、買主が耐震基準を満たす工事を行うか、家屋の全部を取り壊せば要件を満たせるようになりました。売主が先に解体しなくてもよい、という意味になります。なお、相続人の数が3人以上である場合の控除額は2,000万円までです。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
論点2|相続税を払っているなら取得費加算はどうか
相続または遺贈で取得した財産を一定期間内に譲渡した場合、納めた相続税額のうち一定の金額を、譲渡資産の取得費に加算できます。取得費が増えるぶん、譲渡所得が圧縮される仕組みですね。
要件は3つです。相続や遺贈で財産を取得した者であること、その人に相続税が課税されていること、そして相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることになります。
加算できる金額には上限があり、この特例を適用しないで計算した譲渡益を超える場合は、その譲渡益相当額までです。前の論点で触れた3,000万円の特別控除とは、同じ資産について重ねて使えません。どちらが有利かは金額次第なので、税理士に確認してください。
出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
論点3|税率と取得費はどう決まるのか
譲渡所得は他の所得と分けて計算する分離課税です。譲渡価額から取得費と譲渡費用を引き、特別控除額を引いた金額に税率をかけます。
税率は所有期間で分かれるんですね。譲渡した年の1月1日で所有期間が5年を超えるものが長期譲渡所得で、税額は課税長期譲渡所得金額の15%、住民税が5%です。5年以下は短期譲渡所得となり、30%に住民税9%がかかります。平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%も所得税と併せて申告・納付することになります。相続で取得した不動産の所有期間は、原則として被相続人が取得した日から通算されます。
買い入れた時期が古くて取得費が分からない場合は、売った金額の5%相当額を取得費とすることができます。実際の取得費がこの5%を下回る場合も同じ扱いです。古い家ほど、この概算取得費で計算することになります。
出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」/国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」/国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」
| 制度 | 期限・要件の核 |
|---|---|
| 空き家の3,000万円特別控除 | 令和9年12月31日まで/相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで/売却代金1億円以下 |
| 取得費加算 | 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで/上限は譲渡益 |
| 長期譲渡所得 | 譲渡年の1月1日で5年超/15%+住民税5% |
| 短期譲渡所得 | 譲渡年の1月1日で5年以下/30%+住民税9% |
| 概算取得費 | 取得費が不明なら譲渡価額の5% |

3,000万円の特別控除は、相続してから3年を過ぎる年の年末で扉が閉まるんですね。買取なら決済までが短いので、この期限に間に合わせやすいという面があるんです。
期限が近いなら、価格を1割上げる交渉より、期限内に決済できる相手を選ぶほうが手元に残る額は大きくなります。どちらが得かは、必ず数字を並べて決めてください。
事故物件買取に関してのよくある質問

事故物件買取では家財を残したまま引き渡せますか?
現状のまま引き受ける会社は実際にあります。ただし全社ではないので、査定の段階で「残置物を含めた現状渡しは可能ですか」と聞いてください。可能な場合でも、残すものと渡すものを目録にして契約書に添えておくと、後の食い違いを防げますよ。
病死だった家も事故物件買取に出したほうがいいですか?
国土交通省のガイドラインは、老衰や持病による病死といった自然死について、原則として告げなくてよいと整理しています。仲介で普通に売れる可能性があるということです。ただし長期間にわたって発見されず、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は扱いが変わります。特殊清掃が入ったかどうかが分かれ目になります。
事故物件買取の価格は相場の何割になりますか?
一律の割合は存在しません。再販価格から直す費用と利益を引いた残りが提示額になるため、同じ市内でも物件ごとに結果が変わります。目安が欲しい場合は、不動産情報ライブラリで近隣の取引価格を調べ、そこを土台に業者の提示額との差を説明してもらってください。
まとめ

事故物件買取の金額は、業者の出口から逆算されて決まります。再販でいくらになるかを見て、直す費用と利益を引いた残りが提示額になる。だから「相場の何割」という一律の数字はありません。
比べるべきは提示額そのものではなく、手元に残る額です。仲介では告示の上限までの手数料がかかり、売れるまでの維持費も積み上がります。買取は媒介の報酬が発生せず、現状渡しなら清掃や解体も売主の負担から外れるんですね。期間を費用に換算して並べたとき、差は思ったより縮みます。
売る前に確かめるのは、名義、判断能力、共有関係、登記された権利、そして起きたことの時系列です。告知は価格を下げる材料ではなく、取引を壊さないための材料になります。ガイドラインが示した内容を書面に残して渡すところまでを、一つの作業として組んでください。
断られても出口は残っています。相手を変える、仲介で告知して探す、解体して土地で売る、国庫帰属や空き家バンクを当たる。そして相続した家であれば、3,000万円の特別控除の期限を先に確認してください。制度は、知っていた人だけが使えます。
個別の税額計算は税理士、登記の手続きは司法書士、相続で争いになっている場合は弁護士の領域です。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。判断に迷ったときは、お問い合わせからご連絡ください。








買取か仲介かを、性格の合う合わないで選ぶ方が実際にいます。急かされたくないから仲介、面倒だから買取、という選び方ですね。
判断の軸は好みではなく、いつまでにいくら必要かの1点です。期限がないなら仲介から入って構いません。期限があるなら、待つ時間そのものが費用になっていると考えたほうが計算が合いますよ。