相続登記が未了の実家は売却できるか|2027年3月の期限までに動く順番と、決めきれない人の5つの出口

相続登記が未了の実家は売却できるか|2027年3月の期限までに動く順番と、決めきれない人の5つの出口

親から相続した実家(戸建ての空き家)の相続登記がまだ済んでおらず、売るか手放すかを決めきれていない所有者の方に向けて書いた記事です。

僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地有効活用のコンサルティング営業をしていました。空き家を見つけると登記簿で持ち主を調べ、売却や活用の提案を届けに行く。そういう仕事を、相続登記がまだ任意だった時代にしていた人間です。

結論から言うと、相続登記が未了のままでは実家を売却できません。法務省も、相続した不動産を売るには相続登記が必要だと案内しています。ただ、査定や売り先の相談は名義が親のままでも始められ、売主が決まっていれば、引き渡しまでに相続登記を終える段取りを組める場合もあります。

そのうえで押さえておきたいのが期限になります。2024年4月1日より前に相続したと知った不動産で、登記がまだのものは、2027年3月31日までに相続登記をしなければなりません。残りはおよそ6か月半です。

この記事では、義務化の前と後の対照表から入り、改正がどこまで決まったか、売れない理由、売却までの手順、期限を過ぎたとき、空き家を放置したときの税、得をする人と損をする人、調査データでの自己診断、手放す5つの出口の順に整理しますね。

法令と制度は、法務省・国税庁・国土交通省・e-Gov法令検索などで確認したものだけを載せました。2026年9月時点の内容としてお読みください。

相続登記が未了の実家の売却は、義務化で何が変わったのか|前と後の対照表と3つの変化

相続登記が未了の実家の売却は、義務化で何が変わったのか|前と後の対照表と3つの変化

変わったのは「登記をしないまま置いておけるか」で、「登記をしないまま売れるか」は以前から変わっていません。2024年3月までは相続登記に期限も過料もなく、4月1日からは期限付きの義務になりました。

変化1|期限のなかった相続登記に、期限が付いた

2024年3月までは、相続登記をいつするかは相続人に任されていて、しなくても罰則はありませんでした。4月1日からは、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記する義務になっています。

義務化より前に相続を知っていた人も対象で、その人たちの期限は一律で2027年3月31日です。親が亡くなったのが10年前でも20年前でも、登記がまだなら当てはまります。遺産分割で実家を取得したときは、分割の日から3年以内に、分割の中身どおりの登記をする義務も別にかかります。なお、親が不動産を持っていたかどうか自体を知らなかった場合、義務は、その不動産を相続で取得したと具体的に知った日から始まる扱いです。

出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

変化2|過料のなかったところに、10万円以下の過料が加わった

以前は、登記をしないままでも過料はかかりませんでした。今は、正当な理由がないのに期限までに登記をしなければ、10万円以下の過料の対象です。

期限の翌日に自動で10万円を請求される仕組みではありません。登記官の催告、裁判所への通知、裁判所の判断という3つの段階を踏むので、中身は5章で順に見ていきましょう。

変化3|義務を果たす簡単な手続きが増え、売るための手順は変わらなかった

2024年4月1日からは、相続人申告登記という手続きで、期限内に義務だけを果たせるようになりました。一方で、売却や抵当権の設定には相続登記が別に要る、と法務省は案内しています。

増えたのは「売らずに義務を果たす道」で、売るための手順は義務化の前と後で増えも減りもしていないんですね。

項目義務化前(〜2024年3月)義務化後(2024年4月〜)
相続登記の期限なし知った日から3年以内(2024年3月までに知っていた不動産は2027年3月31日まで)
過料なし正当な理由なく怠れば10万円以下
相続人申告登記なしあり(期限内なら義務を果たしたとみなされる)
売却相続登記が必要相続登記が必要(変わらない)
登録免許税の免税2種2018年度から設けられていた2027年3月31日までの登記が対象(延長は要望の段階)

2024年4月1日より前に相続を知っていた人と、後に知った人の違いは、期限の起点だけです。前に知っていた人は2027年3月31日まで、後に知った人は知った日から3年以内が期限になります。

実務をしていた当時はまだ相続登記が任意で、登記簿を取ると、名義が何代も前の方のまま止まっている空き家に行き当たることがありました。そうなると、持ち主に話を届けたくても、誰に連絡すればいいのかたどれない状態です。

期限が付いたことで、「いつか誰かがやる」は「2027年3月31日までに誰がやるか」に変わりました。名義が親のままで何から始めるか迷ったら、お問い合わせから無料査定や0円空き家管理についてご相談ください。

空き家の相続をめぐる改正は、どこまで決まったのか|要望・直近・数年前の3層

空き家の相続をめぐる改正は、どこまで決まったのか|要望・直近・数年前の3層

「最近変わったらしい」と耳にする話には、数年前から動いているもの、今年動き出したもの、まだ要望の段階のものが混ざっています。決まっていない話を当てにして期限を越してしまうのが、いちばん避けたい順番です。

層1|数年前に決まり、すでに動いているルール

2023年4月27日に相続土地国庫帰属制度が始まり、同じ年の12月13日には改正空家法の施行で管理不全空家等という区分ができました。相続登記の義務化と相続人申告登記は、2024年4月1日からです。

この記事で扱う「期限」と「勧告」は、どちらもこの層に入る確定したルールです。

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」

出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」

層2|数年前に決まって直近に施行されたルールと、直近に決まった条文の移動

所有不動産記録証明制度は2026年2月に、住所や氏名が変わったら2年以内に登記する住所等変更登記の義務は4月1日に施行されました。どちらも、相続登記の義務化と同じ2021年の民法等の一部を改正する法律で決まっていたもので、直近に動いたのは施行の部分です。

相続登記で自分の名義にしたあとに転居すれば、今度はこちらの義務(過料は5万円以下)がかかるので、覚えておいてください。

出典:法務省「関係法令」

出典:e-Gov法令検索「不動産登記法」

出典:法務省「住所等変更登記の義務化特設ページ」

直近に決まった変更として確かめられたのは、相続登記の登録免許税を免除する2つの措置の、根拠条文の移動になります。2026年の所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第1号)で4月1日から条文番号が移りましたが、免税の中身と2027年3月31日の期限は変わっていません。

直近に「決まった」ものは条文の番号の話で、読者の期限や費用を動かす変更ではない、というのが現時点の整理です。

出典:財務省「令和9年度税制改正要望(法務省)所有者不明土地・建物問題の解決のための登録免許税の特例」

出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」

層3|要望や検討の段階で、まだ決まっていない話

法務省は2026年8月、相続登記の登録免許税の免除2種を2年延ばし、100万円以下の土地の要件をゆるめるなどの拡充も求める税制改正要望を出しました。要望書によれば、100万円以下の土地の免除は2025年度に311,949件使われていて、利用の多い措置です。政府の基本方針にも、2028年の国庫帰属制度の見直しに向けて土地の要件を検討することや、未登記建物を解消する新しい制度を検討することが書かれています。

どれも要望や検討であって、決まったルールではありません。延長されるかどうかは年末に向けた税制改正の議論を待つことになるので、2027年3月31日を前提に段取りを組みましょう。

出典:財務省「令和9年度税制改正要望(法務省)所有者不明土地・建物問題の解決のための登録免許税の特例」

出典:所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」

層中身読者にとっての意味
層1 数年前に決まり動いている国庫帰属(2023年4月)・管理不全空家等(2023年12月)・相続登記の義務化(2024年4月)期限と勧告はここで決まっている
層2 数年前に決まり直近に施行所有不動産記録証明(2026年2月)・住所等変更登記の義務化(2026年4月)親名義の不動産を探しやすくなった
層2 直近に決まった免税2種の根拠条文の移動(2026年4月)中身と期限は変わらない
層3 要望・検討免税2種の延長と拡充・国庫帰属の見直し・未登記建物の新制度当てにして期限を越さない

制度のニュースを読むときは、「要望」「検討」と「決定」「施行」を分けて読むようにしてください。今回の要望書や方針の原文にあるのは延長や検討という言葉で、日付の入った決定はまだありません。

要望の段階の話は、決まるまでは「無いもの」として段取りを組んでください。延長が決まれば、そのとき余裕が生まれるだけですね。

相続登記が未了のままでは実家を売却できない2つの壁

相続登記が未了のままでは実家を売却できない2つの壁

売れない理由は、登記簿の名義と、売主がまだ決まっていないこと、の2つです。どちらの壁で止まっているかによって、最初に手を付けることが変わってきます。

壁1|登記簿の名義が、亡くなった親のままだから

買主は代金を払うのと引き換えに、自分の名義への登記を受ける立場です。名義が亡くなった親のままでは、その手前の「相続人の名義にする」段がまだそろっていません。

相続人申告登記をしていても、登記簿に相続人の氏名や住所が書き添えられるだけで、名義は親のままになります。申告登記は義務を果たすための手続きで、売るときの壁を越える手続きではないわけです。

出典:法務省「相続人申告登記について」

壁2|誰が売主になるのかが、まだ決まっていないから

遺産分割をしていない実家は、相続人全員が法定相続分の割合で取得して共有している状態です。売るなら全員そろって売主になるか、分割で1人に決めてその人が売主になるか、どちらかを選ぶことになります。

相続する気がない人にも、分割が済むまでは相続登記の義務がかかるので注意が必要です。反対に、分割で兄が実家を取得すると決まれば、その時点で弟の義務は消えます。

「兄は住む気がないから兄が売ればいい」という口約束は、分割の協議と登記が済むまで、登記簿の上では形になりません。

壁止まっている理由越え方
1 名義登記簿が亡くなった親の名前のまま相続登記で相続人の名義にする
2 売主相続人全員の共有のまま遺産分割で売主を決める

名義の壁は、戸籍と申請書をそろえれば越えられる書類の壁です。売主の壁のほうは、相続人どうしの話し合いで越えるしかありません。

時間がかかるのは売主の壁なので、書類集めと並行して、相続人の顔ぶれと連絡先を先に一覧にしておきましょう。

相続登記が未了の実家を売却するまでの手順|5つのステップ

相続登記が未了の実家を売却するまでの手順|5つのステップ

名義を確かめ、相続人を確かめ、売主を決め、登記をして、売る。この5つを上から順に進めていきます。査定だけはステップ1と同時に始めてかまいません。

ステップ1|登記事項証明書で、いまの名義と対象の不動産を確かめる

最初に見るのは、登記簿の名義が亡くなった親なのか、祖父母やもっと前の代なのかという点です。親より前の代の名義なら、途中で何回相続が起きたかによって、集める戸籍も話し合う相手も増えていきます。

土地が何筆に分かれているか、前の道が私道の持分になっていないか、建物が登記されているかも、この段で確かめておきたい点ですね。持っていると知らなかった土地を登記から漏らさないために、毎年届く固定資産税の通知と見比べてください。2026年2月からは、亡くなった方が登記名義人として記録されている不動産を、相続人が所有不動産記録証明書で請求できるようになりました。登記簿の記録から探す仕組みなので、固定資産税の通知と突き合わせて使うのが確実です。祖父母の代の名義のままの不動産で相続税の申告がどうなるかは、先代名義の不動産と相続税申告|祖父名義でも申告は必要?で扱いました。

ステップ2|戸籍を集めて、相続人の範囲を確定させる

相続登記を申請するには、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍などを集めて、法定相続人の範囲と相続分を確定させなければなりません。同じ束を複数の法務局や金融機関に出すなら、法定相続情報証明制度で、相続関係を一覧にした図の写しを無料で交付してもらえます。

2024年4月からは、一覧図の写しに載っている法定相続情報番号を登記の申請書に書けば、写しそのものの添付を省けます。

出典:法務局「「法定相続情報証明制度」について」

ステップ3|遺産分割で、誰が実家を相続して売るのかを決める

相続人が複数いると、いちばん時間のかかる段がここになります。1人が相続して売るのか、全員の共有で登記して全員で売るのかを決め、遺産分割協議書に残してください。

売ったお金をどう分けるかまで協議書に書いておくと、売却の途中で話が蒸し返されにくくなります。分け方によっては税金の扱いが変わることもあるので、書く前に税理士に確かめておくと安心です。全員の同意が要る場面や、反対されたときの進め方は共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口にまとめています。

ステップ4|相続登記を申請する(登録免許税と2つの免税)

相続による所有権の移転登記の登録免許税は、不動産の価額の1,000分の4です。2027年3月31日までは、登記を受ける前に亡くなった相続人を名義人にする登記と、価額が100万円以下の土地の相続登記に、登録免許税がかかりません。

免税の2つはどちらも土地の登記が対象で、建物の登記には使えない点に気をつけてください。申請は自分でもできますが、途中の相続が重なっているなら、司法書士に任せたほうが戸籍の読み違いを防げます。

申請書の書き方で迷ったときは、法務局が予約制で登記手続きの案内をしていて、司法書士会にも相続登記の相談窓口が用意されているので、ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。

出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」

ステップ5|査定を取り、売り先を決めて、引き渡しまでに名義をそろえる

査定と売り先の相談は、ステップ1のころから並べて進められるものです。売買契約を先に結ぶ場合は、売主が決まっていることを前提に、引き渡しの日までに相続登記を終える段取りを司法書士と不動産会社に組んでもらえる場合があります。契約の前に相続登記を済ませておくよう求める買主や会社もあるので、最初に確かめてください。

売り先ごとの価格と期間が見えていると、ステップ3の話し合いが「売るかどうか」から「どう分けるか」へ進みやすくなります。

不動産会社や買取業者に相談するときは、登記簿の名義が誰か、相続人が何人いて連絡が取れるか、遺産分割の話し合いがどこまで進んでいるか、の3点を先に伝えるのがおすすめです。この3点がそろっていれば、相続登記を終えるまでの期間を見込んだうえで、売り出す時期や引き渡しの日を提案してもらいやすくなります。

ステップやること押さえる点
1 名義を確かめる登記事項証明書・所有不動産記録証明親の代か、もっと前の代か
2 相続人を確定する戸籍の収集・法定相続情報番号で写しの添付を省ける
3 売主を決める遺産分割協議書売った後の分け方まで書く
4 相続登記登録免許税は価額の1,000分の4免税2種は2027年3月31日まで
5 売る査定・売り先・引き渡し引き渡しまでに名義をそろえる

営業をしていた当時、共有名義の家で相続人どうしの話がまとまらず、面倒なことになっているという話を聞いたことがありました。僕が担当した案件ではありません。話し合いが長引くうちに相続人の誰かが亡くなれば、次はその子どもとおじやおばが話し合うことになり、いっそうまとまりにくくなるのではないかと僕は考えています。

売主を決める話し合いは、いまの相続人の顔ぶれがそろっているうちに済ませるほうが進めやすいはずです。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。

相続登記の期限を過ぎたらどうなるか|過料までの3つの段階

相続登記の期限を過ぎたらどうなるか|過料までの3つの段階

2027年3月31日を過ぎても、翌日に過料が決まるわけではありません。登記官の催告から始まる3つの段階があり、途中で「正当な理由」が認められれば、そこで止まる仕組みになっています。

段階1|登記官から催告書が届く

催告が行われるのは、義務に違反している人がいると登記官が職務上知ったときです。法務省のQ&Aは、そのきっかけを、ある不動産の登記の申請に使われた遺言書や遺産分割協議書に、登記されていない別の不動産が書かれていた場合に限るとしています。

実家の土地と建物だけを登記して、同じ協議書に載っている畑や山林を置いたままにすると、催告のきっかけになり得るということです。

段階2|期限内に登記しなければ、裁判所に通知される

催告書の期限までに登記がされなければ、登記官は裁判所に義務違反を通知することになります。ただし、催告を受けた人の説明から「正当な理由」があると登記官が認めたときは、通知しません。

正当な理由の例として挙がっているのは、相続人が極めて多く戸籍集めに時間がかかる、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている、本人が重い病気である、DV被害で避難している、経済的に苦しく費用を負担できない、の5つです。「忙しかった」「制度を知らなかった」は、この例示に入っていないことを覚えておきましょう。

段階3|裁判所が過料を決める

通知を受けた裁判所が要件に当たるかを判断し、10万円以下の範囲で過料の額を決めます。

過料を払ったとしても、実家を売るときに相続登記が要ることは変わりません。期限までに遺産分割がまとまりそうにないなら、相続人がそれぞれ相続人申告登記をしておく、というのが法務省の想定する使い方になります。相続人申告登記は、自分が相続人だと分かる戸籍などを付けて申し出るもので、押印は要らず、ウェブ上の画面から手続きすることもできます。

法定相続分のとおりに先に相続登記をしていて、そのあと遺産分割で持分が変わったときは、分割の日から3年以内にもう一度登記をする義務がかかる点も押さえておきましょう。

段階起きること進む条件止まる条件
1 催告登記官から催告書が届く期限を過ぎた未登記が、別の登記の申請書類から登記官に分かる期限内に相続登記か相続人申告登記を済ませている
2 通知裁判所に義務違反が伝わる催告書の期限までに登記をしない期限までに登記する・登記官が正当な理由を認める
3 過料10万円以下の範囲で決まる裁判所が要件に当たると判断する裁判所が要件に当たらないと判断する
比べる点相続登記相続人申告登記
相続登記の義務果たせる期限内なら果たしたとみなされる(申し出た本人だけ)
実家の売却できるできない
登録免許税価額の1,000分の4(免税あり)かからない
遺産分割後の登記の義務分割の結果どおりの登記なら果たせる果たせない

出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

期限の話を聞くと、まず過料を避けられる手続きを探したくなるものです。相続人申告登記は1人でも申し出られて登録免許税もかからないので、その答えとしては正しい手続きといえます。

ただし、相続人申告登記は時間を買う手続きで、売るための手続きではありません。買った時間のうちに売り先の見当だけでも付けておきたい方は、お問い合わせから無料査定をご相談ください。

相続登記が未了の空き家を放置すると何が起きるか|勧告と住宅用地特例で知っておく3つのこと

相続登記が未了の空き家を放置すると何が起きるか|勧告と住宅用地特例で知っておく3つのこと

登記の期限とは別に、空き家の管理の状態しだいで固定資産税の特例から外れる道もあるんです。引き金は「指定」ではなく市区町村長の「勧告」で、その前には指導の段階が置かれています。

こと1|管理不全空家等は、指導を経てから勧告される

放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家を管理不全空家等と呼び、市区町村長はまず必要な措置をとるよう指導できる、というのが空家法の定めです。指導しても状態がよくならず、特定空家等になるおそれが大きいと認めたときに、はじめて修繕や立木竹の伐採などを勧告できます。

いきなり勧告されるのではなく、指導のあとに状態が改善されれば勧告には進まない仕組みになっています。

出典:e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」

こと2|勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例から外れる

家が建っている土地は住宅用地として、固定資産税の課税標準が、住宅1戸あたり200平方メートルまでの部分は価格の6分の1、それを超える部分は3分の1に抑えられているんですね。地方税法は、勧告を受けた管理不全空家等と特定空家等の敷地を、この住宅用地から外しています。

特例から外れると、200平方メートルまでの部分の固定資産税の課税標準は6倍になります。都市計画税の課税標準は3倍で、実際の税額には負担調整もかかるため、何倍になるかは土地ごとに違ってきます。

なお、構造上住宅と認められない家、取り壊す予定で使う見込みのない家、居住に必要な管理を怠っていて今後人が住む見込みがない家などは、勧告の有無にかかわらず、そもそも住宅用地特例の対象にならない、というのが国のガイドラインの整理です。

出典:e-Gov法令検索「地方税法」

出典:国土交通省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」

こと3|管理不全空家等への勧告は、2024年度に378件出ている

国土交通省と総務省の調査では、管理不全空家等への勧告は2023年度が0件、2024年度が378件(40市区町村)でした。管理不全空家等への指導は2,545件、特定空家等への勧告は600件です。

制度ができた翌年度から、勧告は数百件の単位で実際に出始めています。

出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(令和7年3月31日時点)」

知っておくこと中身所有者にできること
1 指導が先指導のあとも改善されないと勧告に進む指導を受けたら状態を改善する
2 特例から外れる200㎡までの部分の課税標準が最大6倍(都市計画税は3倍)勧告の前に管理を回す
3 実数2024年度の勧告378件通知の中身を読んで段階を確かめる

実務をしていた当時、空き家を訪ねて隣の方にお話を伺うと、こちらに伸びてくる枝や蔓に困っているのに、持ち主に連絡のしようがないという声を聞くことがありました。困っている側から見ると、相談先が見えないこと自体が負担になっています。

近所の困りごとが持ち主に届く道をつくっておくことが、放置と管理の分かれ目になります。遠方で通えないなら、管理を任せる先を決めて、その連絡先を隣の方に伝えておくだけでも違ってきます。

2027年3月までに得をする人・損をする人|分かれる3つのタイプ

2027年3月までに得をする人・損をする人|分かれる3つのタイプ

期限と勧告という2つのルールは、動いた人には味方になり、止まったままの人には二重の負担になるものです。分かれ目は、2027年3月31日までに「名義」と「行き先」の両方を決めたかどうかです。

タイプ1|期限までに登記し、売るか手放すかまで決めた人

過料の心配がなくなり、土地の価額が100万円以下なら登録免許税の免税も使えるようになります。祖父母名義の土地を親が登記しないまま亡くなっていた場合も、親を名義人にする途中の登記に登録免許税がかからないのは2027年3月31日までの登記に限られるので、名義が古い人ほど期限内に動く得は大きいといえます。売ると決めているなら、要件に当てはまれば使える3,000万円控除の期限から逆算し、登記を終える日と販売の期間がその中に収まるかを確かめておくことも大切です。

得をするのは、相続登記を「義務だから」ではなく「売るための1段目」として早めに済ませた人です。控除の要件と、どんなときに対象外になるかは空き家の3,000万円控除は何が変わった?|2026年8月の要望での変更点と対象外の5つの出口を解説で詳しく書いています。

タイプ2|相続人申告登記で、期限だけをしのいだ人

過料の心配はひとまず外れるものの、名義は親のままで、売るときには相続登記があらためて必要になります。遺産分割がまとまったら、その日から3年以内に分割どおりの登記をする義務も別に残ります。

時間は買えたけれど、売るまでの段数は1つも減っていないのが、このタイプの現在地になります。

タイプ3|話し合ったのに方針が決まらず、通知を置いたままの人

催告のきっかけがあれば過料の対象になり得るうえ、管理が止まって勧告まで進めば固定資産税の特例からも外れかねません。2つのルールの不利な面を、同時に受けてしまうタイプです。

さらに年月がたって相続人の誰かが亡くなれば、名義はもう一代さかのぼり、話し合う相手が増えていきます。

タイプ期限税・費用売るまでの距離
1 登記して行き先も決めた心配なし免税・控除の期限を逆算できるすぐ動ける
2 申告登記でしのいだひとまず心配なし申告は無料だが登記は別に要る相続登記から
3 決まらず通知を放置催告があれば過料の対象勧告で特例から外れ得る相続人が増えるほど遠のく

実務をしていた当時、空き家を見つけると登記簿を取り、名義人に売却や活用の提案を届けようとするのが僕の仕事でした。名義が亡くなった親の代のままなら、隣の方がその名前を聞いたことがある可能性が高く、まだ話をたどる糸口がありました。ところが、名義がひいおじいさんのさらに上の代で止まっていた家では、隣の方もその名前を知らず、僕には持ち主をたどる手立てがありませんでした。

名義が親の代で止まっている今は、その名前を覚えている人がいる可能性が高い段階です。草を抜きに来る人がいれば家の前で待って会える見込みもありましたが、誰も来ない家には、売却や活用の提案を届けられませんでした。

相続した実家を決めきれない人はどれくらいいるのか|調査で見る4つの自己診断

相続した実家を決めきれない人はどれくらいいるのか|調査で見る4つの自己診断

相続した実家を空き家のまま持っている人のうち、4割近くが「今後の方針が決まっていない」ことを空き家の理由に挙げたインターネット調査が、2026年9月に公表されました。数字を自分の実家に当てはめると、前の章のどのタイプに近いかが見えてきます。

調査は、一括査定サイト「GMO不動産査定」を運営するGMO TECHが、2026年7月17日から22日にかけて、親から相続した戸建ての実家を空き家のまま持っている1,019人に行ったものです(2026年9月公表・「GMO不動産査定」による調査)。回答者が自分で選んだ答えの集計で、相続登記の有無を聞いた調査ではない点を踏まえて読んでください。

出典:GMO不動産査定「【相続実家のリアル】その空き家、将来はどうなる?「方針が決まらない」38.6%が示す長期化の兆し」(引用元:「GMO不動産査定」による調査/GMO不動産査定)

診断1|実家は築30年以上で、傷みが出始めているか

回答者の実家の約7割が築30年以上でした。いまの状態としては「庭木や雑草が伸びている」34.2%、「建物の老朽化が進んでいる」33.0%が上位に並んでいます。

雑草と老朽化は、空家法の指導で見られる「管理の状態」にそのまま関わる項目です。

診断2|空き家になってから1〜3年たっているか

空き家の期間は「1年〜3年未満」がいちばん多く、「3年〜5年未満」も約2割ありました。移動に3時間以上かかる実家では、管理の頻度が「半年に1回程度」がいちばん多くなり、「管理していない」の割合も増えています。

2024年4月以後に相続した人なら、空き家でいる1〜3年が、相続登記の3年の期限と重なることがあります。

診断3|自治体などから、空き家についての通知が届いているか

約6割が行政などから空き家に関する通知を受けていて、内容でいちばん多かったのは「管理不全空家等または特定空家等に該当する可能性がある」という通知でした。一方で、勧告を受けると住宅用地特例から外れる可能性があることを「聞いたことはあるが、詳しくは知らなかった」「まったく知らなかった」人は、合わせて79.9%です。

「該当する可能性がある」という通知は、勧告そのものではありません。中身を読んで、指導の段階なのか、それより前の知らせなのかを確かめてください。

診断4|親と話し合っていたのに、方針が決まっていないか

相続前に親と「十分に話し合っていた」人の約43%、「ある程度は話し合っていた」人の約41%が、空き家の理由に「今後の方針が決まっていない」を挙げていました。話し合っていなかった人たち(約35%)との差は大きくありません。

話し合ったかどうかより、「売る・貸す・手放す」のどれにするかまで決めたかどうかが分かれ目だと読めます。今後の意向は「売却したい」30.9%、「手放したい(方法は未定)」13.6%、「まだ決めていない」13.2%でした。

診断調査の数字当てはまったら
1 築年と傷み約7割が築30年以上管理の状態を先に見る
2 空き家の期間1〜3年未満がいちばん多い登記の期限と並べて考える
3 通知約6割が受けている勧告の前か後かを確かめる
4 決まらない話し合っていても約4割行き先の候補を数字で並べる

実務をしていた当時、アパートの提案では、建築費と見込める賃料から何年で元が取れるかを数字にして、お客様に見てもらっていました。

方針が決まらないのは、比べる数字がまだ手元に無いからかもしれません。売る場合の査定額、持ち続ける場合の税と管理の費用、国に引き取ってもらう場合の負担金を、同じ紙に並べてみてください。

相続登記が未了の実家を手放す5つの出口|売却・買取から決めきれない人の受け皿まで

相続登記が未了の実家を手放す5つの出口|売却・買取から決めきれない人の受け皿まで

出口は、仲介での売却、買取、0円空き家管理、相続土地国庫帰属制度、相続放棄の5つになります。相続登記が要るかどうかと、期限があるかどうかで、向いている人が分かれます。

出口1|仲介で、一般の買主に売却する

相続登記を済ませてから、不動産会社に買主を探してもらう方法になります。時間はかかるものの、条件の合う買主が見つかれば、5つの中で手元に残る額はいちばん大きくなりやすい出口といえます。

仲介の会社の収入は成約したときの手数料なので、価格が低く手間のかかる家は、動かす労力に見合わない案件と見られることもあるのが実情です。実務をしていた当時、グループの売買部門に空き家の相談をつないだとき、僕の建築の案件につながるなら、という条件付きで手伝うと言ってくれる担当者もいれば、引き受けないと断る担当者もいました。1社の1人の担当者の答えを、その家の答えだと受け取らないでください。

出口2|買取業者に、いまの状態のまま売る

不動産会社そのものが買主になる方法で、価格は仲介より下がりやすい代わりに、売れるまでの期間を区切れるのが強みです。相続登記の段取りや、家の中の荷物をそのままにした引き渡しまで含めて相談できる業者もいます。

荷物ごと引き渡すなら、残してほしい物は口約束にせず、一覧にして契約書に書き込んでもらいましょう。業者を比べるときは、相続登記の費用と荷物の処分費を、価格から差し引くのか別に払うのかを、同じ条件で聞いてください。業者のタイプの見分け方は売れない土地の買取業者はどう探すか|3つのタイプの見分け方と、有料引き取りを買取と間違えない3つの確認に、遠方の実家を手放す順番は田舎の空き家処分はどの順番で動くか|値段が付かない4つの理由と、7つの出口の当たり方に書きました。

出口3|0円空き家管理で、決めるまでの時間をつくる

すぐに売るとは決められないけれど、遠方で通えず管理が止まっている。そういう方には、所有者の費用負担なしで空き家の管理を任せられる場合がある「0円空き家管理」のご相談も受け付けています。管理の範囲や使えるかどうかは、物件と相続人の状況しだいです。相続人が複数いて遺産分割がまだなら、ほかの相続人の同意が要ることもあるので、まずは状況をお聞かせください。

管理が回っていれば、指導や勧告の手前で踏みとどまりやすくなります。ただし、管理を任せても相続登記の期限は止まらないので、登記か相続人申告登記は別に進めておきましょう。

出口4|相続土地国庫帰属制度で、土地を国に引き取ってもらう

相続や相続人への遺贈で取得した土地を、審査を経て国に引き取ってもらう制度です。法務省のQ&Aによれば、相続登記が未了でも、戸籍などで所有者であることを示せば申請できます。

ただし、建物がある土地は申請の段階で却下されるので、実家を解体してからの話になります。解体しても、境界が明らかでない土地などは却下に、崖や地下に埋まった物がある土地などは不承認になり得るので、解体の前に要件を確かめてください。解体して更地になれば、住宅用地の特例も使えなくなります。審査手数料は1筆14,000円で、取り下げや却下・不承認になっても戻りません。承認されたら負担金を納め、市街化区域などの中の宅地は面積に応じて計算、それ以外の宅地は原則20万円です。却下や不承認で申請が終わったときは所有者のままなので、相続登記が必要になります。

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」

出典:e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」

出口5|相続放棄は、期間と管理の責任を先に確かめる

相続放棄は、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述して行います。実家だけではなく預金なども含めて、相続の全部を受け取らないことになる手続きです。親が亡くなって1年、2年とたっているなら、まずこの期間を過ぎていないかを確かめなければなりません。

放棄した時点で実家を現に占有していれば、次に管理する人へ引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存する義務が残ります。また、相続財産を売るなどして処分すると、相続を単純承認したものとみなされ、放棄はできなくなります。自分が放棄すると初めから相続人でなかったことになるので、同じ順位の相続人が全員放棄すれば、亡くなった方の親や兄弟姉妹など次の順位の人が相続人になるわけです。放棄が認められるかどうか、ほかの相続人との関係でどうなるかは弁護士の領域です。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。

出典:裁判所「相続の放棄の申述」

出典:e-Gov法令検索「民法」

出口相続登記期限・費用向いている人
1 仲介で売却必要期間がかかる時間をかけても高く売りたい
2 買取必要(段取りごと相談できる業者も)価格は下がりやすい期間を区切りたい・荷物ごと手放したい
3 0円空き家管理期限は別に進める条件しだい今は決めきれない
4 国庫帰属未了でも申請できる解体・手数料・負担金要件を満たせる土地を手放したい
5 相続放棄不要知った時から3か月以内期間内で、相続の全部を受け取らない

親の家のことで家族ともめたい人はいませんし、残せるお金は5万円でも10万円でも多いほうがいい。これが僕の変わらない本音です。

5つの出口は、どれか1つを選ぶ前に、査定額と管理の費用と国庫帰属の負担金を同じ紙に並べるところから始めてみてください。並べてみると、選べる出口は絞りやすくなります。

相続登記が未了の実家の売却に関してのよくある質問

相続登記が未了の実家の売却に関してのよくある質問

相続登記をしていない実家でも、査定は受けられますか?

受けられます。査定は建物と土地の状態や相場を見て出すもので、名義を移す前でも出してもらえるものです。売主が決まっていれば引き渡しまでに相続登記を終える段取りを組める場合がありますが、先に登記を求める買主や会社もあります。査定の段階で「名義は親のままです」と伝えて、段取りも一緒に聞いておきましょう。

相続人申告登記をしておけば、あとで売るときの手間は減りますか?

減りません。申告登記は相続登記の義務を果たしたとみなされるための手続きで、名義は親のまま残ります。売るときは、遺産分割をして相続登記をする手順をあらためて踏むことになります。登録免許税がかからず相続人が1人でも申し出られるので、期限までに話し合いがまとまらないときの手当てとして使ってください。

2027年3月31日を過ぎたら、すぐに10万円を払うことになりますか?

すぐにそうなるわけではありません。登記官の催告、裁判所への通知、裁判所の判断という順番があり、催告のきっかけも限られています。それでも義務が消えるわけではなく、売るときに相続登記が要ることも変わらないので、期限は守る前提で進めるのが確実です。

まとめ

まとめ

相続登記が未了のままでは、実家は売却できません。義務化で変わったのは「登記をしないまま置いておけるか」のほうで、2024年4月1日より前に相続を知った不動産にも、2027年3月31日という期限が付きました。

売るまでの手順は、名義の確認、相続人の確定、遺産分割で売主を決めること、相続登記、そして売却の5つです。査定と売り先の相談はステップ1と同時に始められるので、名義が親のままでも今日から動けます。

期限を過ぎても翌日に過料が決まるわけではありませんが、催告から過料までの道はありますし、空き家の管理が止まって勧告まで進めば、固定資産税の住宅用地特例からも外れます。免税2種の延長は要望の段階にとどまっているので、2027年3月31日を前提に段取りを組んでください。

決めきれないときは、仲介での売却、買取、0円空き家管理、国庫帰属、相続放棄の5つの出口を、数字を並べて比べるところからです。相続した空き家を売るときの税の特例は空き家の3,000万円控除は何が変わった?|2026年8月の要望での変更点と対象外の5つの出口を解説にまとめています。

個別の税額計算は税理士、登記の手続きは司法書士、相続人どうしの争いは弁護士の領域です。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。名義が親のままの実家の無料査定や、0円空き家管理のご相談は、お問い合わせからご連絡ください。

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高槻 翔太
元・土地活用コンサルタント。宅地建物取引士(試験合格) ・FP2級保有 。 2016年より、大手不動産・建築会社で、土地有効活用のコンサルティング営業を6年間しており、地主様の資産運用・相続税対策を支援 。 現在は不動産特化の専門家として、SUUMOや朝日新聞社「相続会議」など大手メディアを中心に累計1,500記事以上を執筆・監修 。 現場で見てきた「放置空き家の悲劇」や「兄弟間の相続トラブル」を防ぐため、綺麗事抜きで「1円でも多くお金を残し、ご縁を守る」ための本音のノウハウを発信中。 >> 詳しいプロフィールと当サイトの理念はこちら