共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口

共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口

「名義が父と叔父の2人になっていて、どうしたらいいかわからないんです」。実務をしていた当時、土地の話がここで止まってしまう方に何度も出会いました。

僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていた人間です。空き家や空き地を見つけては登記事項証明書を取り、所有者を訪ねて回る仕事をしていました。名義の欄に知らない人の名前が並んでいる土地は、まったくめずらしくありません。

共有名義の土地とは、1つの土地を複数の人が持分という割合で持ち合っている状態をいいます。相続で兄弟が法定相続分のまま引き継いだ土地、夫婦で資金を出し合って買った土地が、この形になりますね。

そして共有名義の土地売却でつまずく原因は、ほとんど1か所に集まっています。土地の全部を売る行為には共有者全員の同意が必要という点なんです。一人でも首を縦に振らなければ、話は前に進みません。

結論から言うと、動き出す前にやることが2つあります。ひとつは登記事項証明書を取って、いま誰が何割を持っているかを紙で確かめること。もうひとつは、土地の全部を売るのか、自分の持分だけを手放すのかを先に決めることです。この2つを飛ばして不動産会社に相談すると、査定の話が進んだ段階で振り出しに戻ります。

この記事では、共有名義でできることとできないこと、放置したときに起きる変化、売る前の確認、全員で売るときの手順、反対されたときの出口、共有者が認知症になっているときの進み方、税金の扱いまで順にたどっていきます。法令と制度は、e-Gov法令検索・法務省・国税庁で確認したものだけを載せました。2026年8月時点の内容としてお読みください。

共有名義の土地売却とは?一人で決められることと決められないこと

共有名義の土地売却とは?一人で決められることと決められないこと

共有名義の土地売却には、まったく違う2つの売り方があります。土地そのものを丸ごと売るやり方と、自分の持分だけを売るやり方です。

前者には共有者全員の同意が要ります。後者は自分ひとりの判断で実行できるんです。この線引きを最初に押さえると、話がずいぶん整理されますよ。

土地の全部を売るには、なぜ全員の同意が要るのか

民法は、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意を得なければならないと定めています(第251条)。土地を売って所有権を手放す行為は、この変更にあたると扱われてきました。

つまり持分の多い少ないは関係ありません。10分の9を持っている人でも、10分の1の共有者が反対していれば土地の全部は売れないわけです。

法律が同意を求めているのは、持分が少ない共有者の権利を守るためでもあります。裏を返せば、あなたの持分がどれだけ小さくても、あなたの意思が無視されることはないという意味なんですね。

出典:e-Gov法令検索「民法」

自分の持分だけを売る方法なら、一人で決められる

一方、持分は各共有者が持っている財産です。自分の持分を誰かに譲る行為に、他の共有者の同意は要りません。

ただし買い手は限られてきます。土地の一部を自由に使えるわけではなく、他人と一緒に持ち合う状態を引き継ぐ立場になるからなんです。実際に手を挙げるのは、他の共有者か、持分の買取を専門にしている不動産会社が中心になります。

なお、持分を放棄した場合や、共有者が亡くなって相続人がいない場合、その持分は他の共有者に移ります(第255条)。放棄したから無関係になる、という単純な話ではありません。

貸す・整地するといった管理は、どこまで過半数で決められるか

売却ほど重い行為ではない管理については、共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めると定められています(第252条)。草刈りや簡単な整地、短い期間の賃貸はここに入ります。

共有物に設定できる賃借権の期間には上限があるという点は見落とされがちです。土地は5年、建物は3年、山林は10年と決まっています。これを超える長期の賃貸借は管理の枠を出るため、別の同意が要る形になりました。

やりたいこと必要な同意根拠
土地の全部を売る共有者全員の同意民法251条
自分の持分だけを売る単独でできる持分の処分は各共有者の自由
5年以内の期間で土地を貸す持分の価格の過半数民法252条4項
草刈り・整地などの管理持分の価格の過半数民法252条1項
修繕などの保存行為単独でできる民法252条5項

共有名義の土地の固定資産税は、誰が払うことになるのか

固定資産税は、その固定資産の所有者に課される税金です。土地や家屋の所有者とは、登記簿に所有者として登記されている人をいいます(地方税法343条)。

共有の場合、ここに1つ知っておきたい仕組みが加わります。共有物に対する地方団体の徴収金は、納税者が連帯して納付する義務を負うと定められているんです(地方税法10条の2)。

連帯という言葉のとおり、持分が3分の1だから3分の1だけ払えばいい、という関係にはなりません。市町村は共有者の誰に対しても全額を請求できる立場に立ちます。

実務では、共有者のうち1人が代表者として納税通知書を受け取り、その人がまとめて納める形が一般的になります。代表者が立て替えたまま、他の共有者から回収できていないという相談は、当時からよく持ち込まれていたんです。

出典:e-Gov法令検索「地方税法」

実務をしていた当時、共有名義の土地を前に「兄が反対しているから無理なんです」とあきらめている方によく会いました。ところが話を聞いていくと、反対されているのは土地の全部を売る話だけで、持分の整理までは検討されていないことがほとんどでした。

売る・売らないの二択で止まってしまうと、そこから先の選択肢が見えなくなってしまうんですね。

手詰まりに見えるときほど、いま自分が何を決められる立場なのかを分けて考えるところから始まります。

なぜ共有名義の土地は売りにくくなるのか|放置で起きる3つのこと

なぜ共有名義の土地は売りにくくなるのか|放置で起きる3つのこと

共有名義の土地は、時間が経つほど売りにくくなる性質を持っています。共有者の人数が増え、話し合いの相手が遠くなっていくからなんです。

法務省も、相続が起きると遺産は法定相続分で共有された状態になり、時間が経つと数次相続で権利関係が複雑になると説明しました。

出典:法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」

起きること1|相続のたびに共有者が増えていく

共有者の一人が亡くなると、その持分はさらにその相続人へ分かれます。2人の共有だった土地が、次の世代では5人、その次では10人を超える形になりますね。

そうなると、面識のない親族と土地の使い道を相談する場面が生まれます。関係が薄くなるほど話し合いは進まず、結果として誰も動かない土地ができあがるんです。

実務をしていた当時、僕が登記事項証明書で追いかけた土地のなかには、三代前の名前が残ったままのものがありました。近所の方に聞いても、誰の土地なのかもうわからないという状態でした。

起きること2|10年を過ぎると、何が主張できなくなるのか

遺産分割には、相続開始から10年という区切りが置かれています。10年を過ぎたあとの遺産分割では、特別受益と寄与分の規定が適用されません(第904条の3)。

つまり法定相続分で分けることが原則になるわけです。生前に多くの援助を受けた相続人がいる場合や、親の介護を一人で担った相続人がいる場合、その事情を分け方に反映させにくくなります。

例外も用意されました。10年が過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していたとき、または期限の間際にやむを得ない事情で請求できなかったときは、この扱いから外れます。

関連記事:不動産の相続で手続きが遅れるとどうなる?4つの期限とペナルティ

起きること3|連絡がつかない共有者が出てくる

共有者の誰かが転居して住所がわからなくなる、海外に移って連絡が取れなくなる。こうした状況は珍しくありません。

所在がわからない共有者がいても、管理については道が用意されています。裁判所の裁判により、その人を除いた共有者の持分の価格の過半数で決められる仕組みです(第252条2項)。

相当の期間を定めて賛否を明らかにするよう催告しても答えない共有者がいる場合も、同じ扱いになります。返事をもらえないまま何年も止まっていた土地が、ここで動き出す余地が生まれました。

営業をしていた当時、共有名義をめぐって親族が対立したという話は、社内でも取引先からもよく耳に入ってきました。僕自身が担当した案件ではありませんが、共通していたのは、売りたい人と残したい人のどちらも自分が正しいと思っている点でした。

僕は2人兄弟の次男です。親の立場になって考えると、自分が残した家が原因で子どもが争う姿を望む親はいないと思いますね。

揉めている時間そのものが、土地の価値と関係を同時に削っていきます。

なお、共有者どうしの対立が実際の争いになっている場合、個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。どちらの主張が通るかという判断が必要な段階に入っているなら、早い時点で弁護士にご相談ください。

共有名義の土地売却の前に何を確かめるか|先に見る4つのこと

共有名義の土地売却の前に何を確かめるか|先に見る4つのこと

不動産会社に声をかける前に、手元でそろえておく情報があります。ここが空白のまま査定に進むと、話が途中で止まってしまうんです。

確かめるのは、名義・登記・共有の種類・共有者の状況の4点になります。

確認1|登記事項証明書で名義と持分をどう調べるか

いま誰が何割を持っているかは、記憶ではなく登記事項証明書で確かめます。法務局の窓口のほか、オンラインでも請求できるようになりました。

固定資産税の納税通知書は代表者にしか届きません。通知書に自分の名前があるからといって、自分が単独名義とは限らないという点は押さえておきたいところです。

親が亡くなったあとも名義が親のままになっている土地では、登記上の名義人と実際の相続人がずれています。まずは現在の記載を取ってくるところから始まりますね。

あわせて公図と地積測量図も取っておくと、あとの動きが速くなります。土地の形と隣地との境界がわからないままでは、査定の数字が固まらないからです。地積測量図が備え付けられていない土地もあるため、その場合は測量が必要かどうかを不動産会社に確かめておきましょう。

確認2|相続登記はいつまでに必要か

相続登記は2024年(令和6年)4月1日から申請が義務になりました。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象になるという定めです。

施行前に相続を知っていた未登記の不動産も対象に入ります。その場合の期限は2027年(令和9年)3月31日とされました。

ただし、期限を過ぎた瞬間に過料が科されるわけではありません。登記官が催告書を送り、それでも登記されないときに裁判所へ通知され、そこで過料の裁判が行われる流れになっています。

相続人申告登記という簡易な手続きも新しく置かれました。単独で申し出ができて義務を果たしたとみなされる制度ですが、権利関係を公示するものではありません。売却や抵当権の設定には、結局のところ相続登記が必要になります。

出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

確認3|遺産共有と通常の共有は何が違うのか

同じ共有でも、相続によって生じた遺産共有と、売買などで生じた通常の共有では扱いが違います。この区別を知らないまま手続きを選ぶと、入口で止められてしまうんです。

共有物やその持分が相続財産に属していて、共同相続人の間で遺産分割をするべきときは、共有物分割の手続きを使えません(第258条の2)。先に遺産分割を通す必要があるということですね。

相続開始から10年が過ぎている場合は、相続財産に属する持分についても共有物分割ができる形になります。ただし相続人から異議の申出があったときは、この限りではありません。

確認4|共有者の判断能力と所在はどこまで調べるか

共有者のなかに、認知症などで判断能力が下がっている方や、連絡が取れなくなっている方がいないか。この2点は早い段階で確かめておきたいところです。

どちらも、あとで発覚すると契約の直前で止まる要因になります。段取りの組み方そのものが変わってくるからなんですね。

確認すること取得先・確かめ方
名義人と持分の割合法務局で登記事項証明書を取得
相続登記の有無同上(登記名義人が被相続人のままか)
遺産共有か通常の共有か名義に至った経緯と遺産分割協議書の有無
共有者の所在住民票の除票・戸籍の附票など
共有者の判断能力本人・同居家族への確認

僕が現場にいた当時、空き家を見つけると登記事項証明書を取って所有者を追いかけていました。そこでわかったのは、紙で確かめるまで名義の実態は誰にもわからないという単純な事実です。

「たぶん自分と弟の2人だと思う」とおっしゃっていた方の土地が、実際には亡くなった叔父の持分が未処理のまま残っていたケースもありました。

思い込みのまま話を進めると、あとで全部やり直しになります。

共有名義の土地売却はどう進めるか|全員で売るときの5つのステップ

共有名義の土地売却はどう進めるか|全員で売るときの5つのステップ

共有者全員が売る方向で一致しているなら、進め方はもう決まっているんです。順番を守るほど早く終わります。

代金の分け方まで含めて先に合意しておくことが、途中で崩れないための条件になりますね。

ステップ1|共有者全員に売る意思を確認する

まず、全員が売ることに同意しているかを確かめます。ここが曖昧なまま査定に進むと、金額が出た段階で意見が割れる形になりがちなんです。

口頭の合意だけではなく、いつまでに・いくら以上なら売るという線を、簡単な文面で残しておくと安全になります。

ステップ2|相続登記を済ませて持分を確定させる

登記名義が亡くなった方のままでは売れません。買主に所有権を移せないからです。

遺産分割協議で誰がどの割合を取得するかを決め、その内容で登記を入れるという順番になります。手続きの進め方に迷う場合は司法書士にご相談ください。

ステップ3|査定はどう頼むと比べられるか

査定を頼むときは、全社に同じ資料を渡します。登記事項証明書、公図、測量図があれば測量図、固定資産税の納税通知書がそろっていると話が早くなりますね。

渡す情報が会社ごとに違うと、返ってきた金額を並べても比べられません。条件をそろえて初めて、価格差の意味が読めるようになるわけです。

ステップ4|代表者を決めて契約と決済の段取りを組む

売買契約には共有者全員が関わります。全員が同席できない場合、代表者に委任状を渡して手続きを進める形が一般的なんです。

決済日には所有権移転登記と代金の受け取りが同時に動きます。遠方の共有者がいるなら、この日程調整を早めに始めておきたいところです。

ステップ5|代金を持分割合で分け、各自が申告する

売却代金は、原則として持分の割合で分けます。譲渡所得の申告も、共有者それぞれが自分の持分に対応する分を行う形です。

実家を売って現金で分ける方法は換価分割と呼ばれています。分け方の書き方によって贈与とみなされる場面があるため、遺産分割協議書の記載には注意が必要になりますね。

売却にかかる費用の分け方も、先に決めておきたいところです。仲介手数料、登記費用、測量費、売買契約書に貼る印紙代などが出ていきます。持分割合で按分するのか、代表者が立て替えてあとで精算するのかを、契約前に文面で残しておくと揉めません。

なお、不動産の売買契約書に貼る印紙税には軽減措置が設けられています。適用の期間と金額は改正で動くため、契約の時点で国税庁のページを確認してください。

出典:国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」

関連記事:換価分割とは?実家を売って分けるときの手順と贈与税を避ける書き方

グループ会社の売買部門と動いていた当時、同じ会社でも担当者によって難しい案件への向き合い方がまったく違うことを何度も見てきたんです。共有者が4人いる土地を前に、全員の日程を組んでまとめ上げた人もいれば、面倒だからと最初から距離を置いた人もいました。

共有名義の土地売却は、関係者が多いぶん段取りの仕事量が増えます。だからこそ差が出る分野なんです。

会社の名前よりも、誰が担当につくかを先に確かめる癖がつきました。

共有名義の土地売却に反対されたらどうするか|4つの出口

共有名義の土地売却に反対されたらどうするか|4つの出口

全員の同意がそろわない場合でも、道が閉じるわけではありません。動かせる範囲はいくつか残っています。

ただし、どの出口を選ぶかで手元に残る金額と関係の傷み方が変わります。順番に見ていきますね。

出口1|自分の持分だけを売るとどうなるか

自分の持分を第三者に売る方法です。他の共有者の同意は要らないため、単独で実行できます。

一方で、価格は土地全体の評価に持分割合を掛けた金額より下がるのが通常なんです。買主は土地を自由に使えず、他の共有者と関係を築くところから始めることになるからですね。

そして、この選択は他の共有者にとって「知らない相手が共有者になる」出来事でもあります。関係を残したいなら、先に伝えておく判断もありますよ。

順番としては、まず他の共有者に買い取る意思があるかを聞き、断られてから第三者に当たる形が穏当になります。この順番なら、あとで「勝手に売った」という受け取られ方をされにくくなるんです。

出口2|他の共有者に持分を買い取ってもらう

共有関係を解消する方法として、いちばん角が立たないのがこれになります。買い取る側は土地の権利をまとめられ、売る側は現金化できます。

価格の目安は、土地全体の評価額に持分割合を掛けた金額になりますね。ここに、測量費や登記費用をどちらが負担するかという話が乗ってきます。

なお、共有者が管理費用などの負担を1年以内に果たさないときは、他の共有者が相当の償金を支払ってその人の持分を取得できるという定めもあります(第253条2項)。

出口3|共有物分割請求とはどんな手続きか

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求できます(第256条)。話し合いがまとまらない、または話し合いができないときは、裁判所に分割を請求する道が開かれています(第258条)。

裁判所が命じられる分割の方法は2つです。土地を現物で分ける方法と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法になります。どちらもできない場合や、分割によって価格が著しく下がるおそれがある場合は、競売が命じられる仕組みです。

ただし前述のとおり、遺産共有の状態では原則として先に遺産分割を通す必要がありますね。

出口4|所在がわからない共有者がいるときの2つの裁判

共有者を知ることができない、または所在を知ることができないとき、裁判所に請求できる制度が2つ用意されました。

ひとつは、所在等不明共有者の持分を自分に取得させる裁判です(第262条の2)。もうひとつは、他の共有者全員が持分を譲渡することを条件に、所在等不明共有者の持分も一緒に譲渡する権限を与えてもらう裁判になります(第262条の3)。

どちらも、あとから所在等不明共有者が現れた場合には、時価相当額の支払を請求される仕組みです。持分が相続財産に属していて相続開始から10年を経過していないときは使えません。

出典:法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」

出口他の共有者の同意手元に残りやすい金額関係への影響
自分の持分だけを売る不要低い大きい
他の共有者に買い取ってもらう相手の合意が必要中くらい小さい
共有物分割請求不要(裁判所が判断)内容による大きい
所在等不明共有者に関する裁判対象者以外の協力が要る内容による限定的

持分の買取をうたう会社から「相場より高く買います」と言われたという話を、当時よく聞きました。僕がその言葉を聞いたときに必ず確かめていたのは、何と比べて高いのかという基準です。

共有持分には、一般の土地のような分かりやすい取引事例がありません。だからこそ、根拠のない数字が出てきやすい分野になります。

査定額の内訳を数字で説明できない会社なら、その一言は判断材料になりませんね。

共有者が認知症のとき、共同名義の不動産売却はどう進むのか

共有者が認知症のとき、共同名義の不動産売却はどう進むのか

共有者のなかに認知症の方がいる場合、その人の持分については売買契約を進められません。契約には、内容を理解して判断する力が必要になるからです。

親と子の共有名義になっている土地で、親の判断能力が下がったときに起きる典型的な行き止まりがここになります。

判断能力が失われると、何が起きるのか

子どもだからという理由で、親に代わって契約に署名する権限が生まれるわけではありません。所有者本人の意思にもとづかない売買は、あとから効力を争われる状態になってしまいます。

結果として、介護費用が必要な局面なのに、その原資になるはずの土地が動かせないという事態が起こるんです。

成年後見人を選任してから売る手順

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方については、家庭裁判所が後見開始の審判をします(第7条)。審判をするときに、家庭裁判所が職権で成年後見人を選任します(第843条)。

そのうえで注意したいのが居住用不動産の扱いです。成年後見人が本人に代わって、本人の居住の用に供する建物やその敷地を売却するには、家庭裁判所の許可を得なければならないと定められています(第859条の3)。

つまり、後見人がついたからといって自由に売れるわけではありません。手続きの段階が1つ増える形になりますね。

出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」

診断がつく前にしか打てない手がある

家族信託のように、あらかじめ財産の管理を託しておく方法は、本人に判断能力があるうちにしか結べません。診断が確定したあとでは選べない道になります。

制度の使い分けと費用は個別の事情で変わるため、司法書士や弁護士などの専門家にご確認ください。

僕がいた会社のグループには信託を扱う会社があり、家族信託をサービスとして提供していました。当時、手続きを進めている途中で診断が確定してしまい、間に合わなかった事例を知っています。

その結果どうなったかというと、施設の費用をお子さんが実費で負担し、動かせない空き家だけが残りました。

この分野には、他のどのテーマにもない「期限」があります。煽るつもりはありませんが、診断の前と後で選べる手が変わるという事実だけは、早めに知っておいてほしいところです。

相続した共有名義の土地売却の税金はどうなるか|持分ごとの申告と使える特例

相続した共有名義の土地売却の税金はどうなるか|持分ごとの申告と使える特例

共有名義の土地を売ったときの税金は、共有者それぞれの話になります。売買契約は1本でも、申告は人数分に分かれるからなんです。

そして相続で取得した土地には、条件が合えば使える特例が用意されています。知らないまま申告して損をする方が本当に多い分野です。

譲渡所得はどう分けて申告するのか

土地や建物を売ったときの譲渡所得は、他の所得と分けて計算する分離課税です。所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わり、その判定は譲渡した年の1月1日時点で行います。

共有の場合、売却代金も取得費も譲渡費用も、それぞれの持分割合で按分します。そのうえで各共有者が自分の確定申告をする流れですね。

相続で取得した土地の場合、被相続人がその土地を買った時期と取得費をそのまま引き継ぐ形です。親が何十年も前から持っていた土地なら、長期譲渡として扱われることが多くなりますよ。

出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」

空き家の3,000万円特別控除は共有者ごとにどう判定されるか

被相続人が住んでいた家とその敷地を相続して売った場合、要件を満たすと譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。適用期間は平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの譲渡です。

主な要件を並べると次のようになります。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと
  • 相続の開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 譲渡時に一定の耐震基準を満たすか、家屋の全部を取り壊して敷地を売ること

共有名義との関係で押さえたい点が2つあります。ひとつは、令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合、控除額は2,000万円までになることです。

もうひとつは1億円の判定になります。他の相続人が売却した部分も含めた合計額で見るため、自分の持分だけを基準に判断すると誤ります。合計が1億円を超えたときは、その売却の日から4か月以内に修正申告と納税が必要です。

出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

相続税を払っているなら取得費加算という選択肢がある

相続や遺贈で取得した財産に相続税が課税されていて、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算できます。

ただし、この特例と空き家の3,000万円特別控除は併用できません。売った家屋や敷地について取得費加算の適用を受けていないことが、空き家特例の要件に入っているからなんですね。

どちらが有利かは、相続税をいくら払ったか、譲渡益がいくら出るかで変わります。共有者ごとに答えが違う場面もあるため、税額の計算は税理士にご確認ください。

出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

制度効果主な条件
空き家の3,000万円特別控除譲渡所得から最高3,000万円を控除昭和56年5月31日以前建築・相続から3年経過日の属する年末まで・1億円以下
相続人が3人以上のとき控除額は2,000万円まで令和6年1月1日以後の譲渡
取得費加算相続税額の一部を取得費に加算相続税が課税・申告期限の翌日以後3年以内の譲渡
併用できない空き家特例の適用要件で除外

当時いちばん惜しいと感じたのは、制度を知らないまま売ってしまった方に会うときでした。土地の価格を1円でも高くする交渉より、使える特例を1つ取りこぼさないことのほうが、手元に残る金額を大きく動かすことがあるんです。

売る順番と時期を少し変えるだけで結果が変わることがあるので、売却の相談と税金の相談は同じタイミングで始めたほうがいいと思っています。

共有名義の土地売却はどこに相談するか|先に見る4つのこと

共有名義の土地売却はどこに相談するか|先に見る4つのこと

相談先を選ぶ段階で確かめておきたい点があります。共有名義という条件が入るぶん、通常の売却より見るところが増えるんです。

関連記事:空き家を兄弟で相続したら?揉めない分け方と3,000万円控除を人数分使う条件

確認1|宅地建物取引業の免許はどこで確認できるか

不動産の売買や仲介を業として行うには免許が必要です。会社名と免許番号は、国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで調べられますよ。

免許番号のカッコ内の数字は更新の回数を示しています。数字が大きいほど営業の期間が長いという読み方ができますね。

出典:国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」

確認2|共有者全員の窓口をどう作るかを聞く

共有名義の土地売却では、関係者への連絡と日程調整が仕事量の大半を占めます。ここをどう進めるつもりかを、最初に聞いておきたいところです。

全員に個別で説明してくれるのか、代表者だけに話を通すのか。方針が決まっていない会社は、途中で連絡が止まりやすくなります。

確認3|持分だけの買取なのか、全体の売却なのかを確かめる

共有持分の買取を専門にしている会社と、土地全体の売却を仲介する会社では、提案してくる出口が違います。自分がどちらを望んでいるかを伝えないまま相談すると、相手の得意な形へ話が寄っていくんです。

先にこちらの前提を置いてから聞くほうが、比べられる答えが返ってきますよ。

確認4|どちらの共有者の側に立つ会社なのかを見る

共有者どうしの意見が割れている状態で、片方と近い関係にある会社に相談すると、話の運びが偏る可能性があります。地元で長く営業している会社ほど、地域の関係が濃いこともありますね。

これは僕自身が経験した実例があるわけではなく、構造としてあり得ると考えている話になります。当事者のどちらとも関係のない第三者の会社を挟むほうが、話は素直に進みやすいはずです。

当時、僕は仲介の担当者から「この案件は共有者が多いから時間がかかる」という言葉を何度も聞いています。裏を返せば、時間をかける前提で引き受けてくれる会社を選べば進むという話でもありました。

査定額の高さより、段取りを説明できるかどうかで選んだほうがいいというのが、共有名義の土地に関する僕の見方です。

共有名義の土地売却に関してのよくある質問

共有名義の土地売却に関してのよくある質問

共有者の一人と連絡が取れない場合、土地売却はできますか?

土地の全部を売るには全員の同意が必要になるため、そのままでは進みません。ただし、共有者を知ることができない、または所在を知ることができないときは、裁判所に対して所在等不明共有者の持分を取得する裁判や、持分の譲渡権限を付与する裁判を請求できます(民法262条の2・262条の3)。持分が相続財産に属していて相続開始から10年を経過していない場合、この請求はできません。

共有持分だけを買い取る業者に売っても問題はありませんか?

自分の持分を売ること自体は、法律上、他の共有者の同意なしにできます。ただし価格は土地全体の評価に持分割合を掛けた金額より下がるのが通常で、売却後は他の共有者と買主の間で権利の調整が続く形になります。査定額の根拠を数字で説明してもらったうえで判断してください。

共有名義の土地を売ったお金は、どう分けるのですか?

原則として持分の割合で分けます。譲渡所得の申告も、各共有者が自分の持分に対応する部分について行う形です。相続した土地を売って現金で分ける場合は換価分割という方法になり、遺産分割協議書の書き方によって贈与とみなされる場面があるため、記載内容の確認をおすすめします。

まとめ

まとめ

共有名義の土地売却について、この記事で見てきた点を並べます。

  • 土地の全部を売るには共有者全員の同意が要る。自分の持分だけなら単独で売れる
  • 放置すると相続のたびに共有者が増え、遺産分割では10年という区切りが効いてくる
  • 動く前に、登記事項証明書で名義と持分、相続登記の有無、共有の種類、共有者の状況を確かめる
  • 全員で売るなら、意思確認から代金の分け方までを先に決めてから査定に進む
  • 反対されたときは、持分売却・共有者への買取・共有物分割請求・所在等不明共有者に関する裁判という出口がある
  • 共有者が認知症の場合は成年後見人の選任が要り、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要になる
  • 税金は持分ごとの申告になり、空き家の3,000万円特別控除と取得費加算は併用できない

最初の一歩は、登記事項証明書を取ることです。いま誰が何割を持っているかがはっきりすれば、自分に決められることと、話し合いが要ることが分かれますね。

揉めたくて揉めている人はいません。手元に少しでも多くお金が残る形で、関係も傷めずに終われるなら、そのほうがいいはずです。順番を間違えなければ、その形に近づけますよ。

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高槻 翔太
元・土地活用コンサルタント。宅地建物取引士(試験合格) ・FP2級保有 。 2016年より、大手不動産・建築会社で、土地有効活用のコンサルティング営業を6年間しており、地主様の資産運用・相続税対策を支援 。 現在は不動産特化の専門家として、SUUMOや朝日新聞社「相続会議」など大手メディアを中心に累計1,500記事以上を執筆・監修 。 現場で見てきた「放置空き家の悲劇」や「兄弟間の相続トラブル」を防ぐため、綺麗事抜きで「1円でも多くお金を残し、ご縁を守る」ための本音のノウハウを発信中。 >> 詳しいプロフィールと当サイトの理念はこちら