「うちの土地は道に出るのにお隣の庭先を通らせてもらっていて、こんな土地が売れるんでしょうか」。相続した実家の敷地が奥まっていて、公道に接していない。実務をしていた当時、こうした相談を受けるたびに、まず公図を広げるところから話を始めていました。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用のコンサルティング営業をしていた人間です。空き家や空き地を見つけては登記事項証明書と公図を取り、所有者を訪ねて回るのが仕事でした。奥まった土地の周りに誰の土地があるかを地番で追いかけるのは、日常の作業だったんです。
結論から言うと、袋地の売却は法律で禁じられていません。ただし、普通の土地と同じ売り方をすると止まります。公道に出るために他人の土地を通る権利が3種類あり、自分がどれを持っているかで売り先と価格が変わるからです。
もう1つ大事なのは、袋地には隣の土地の所有者という特別な買主がいることになります。囲んでいる側の土地とまとめれば袋地ではなくなるので、その相手にとってだけ、あなたの土地は市場より高く評価されるわけですね。
この記事では、袋地の売却で先に押さえる前提、売れない4つの理由、通る権利の3つの種類、動く前に確かめる3つのこと、5つの売り先、価格の決まり方、契約で防ぐトラブル、税金、進め方の順にたどります。
法令と制度は、国土交通省・国税庁・法務省・財務省・e-Gov法令検索で確認したものだけを載せました。2026年9月時点の内容としてお読みください。再建築不可の土地全般の売り先の比べ方は、再建築不可物件の売却は売り先で決まる|5つの出口と、動く前に確かめる道路の調べ方に分けて書いています。
袋地の売却とは何が違うのか|まず押さえる3つの前提

袋地の売却は、普通の土地の売却と何が違うのか。先に前提を3つ整理しておくと、この先の話が読みやすくなります。
順に見ていきましょう。
前提1|袋地とは何を指す言葉なのか
民法は、他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者に、公道に至るためにその土地を囲んでいる他の土地を通る権利を認めています。この「他の土地に囲まれて公道に通じない土地」が袋地で、囲んでいる側の土地を囲繞地と呼ぶんです。
不動産の現場では無道路地という呼び方もされます。公道に接していないという状態そのものが袋地の条件であり、面積や形は関係ありません。池や川、崖があって公道との間に大きな高低差がある土地も、同じ扱いを受けます。
前提2|通る権利は法律で当然に生じる
袋地の所有者は、契約を結んでいなくても、囲んでいる土地を通って公道に出られるんです。これが囲繞地通行権と呼ばれるものです。
ただし無制限ではありません。通る場所と方法は、袋地のために必要で、かつ囲繞地のために損害がいちばん少ないものを選ぶと定められています。必要があれば通路を開設でき、通ることで生じる損害には償金を払う決まりです。この中身は3章で詳しく書きますね。
前提3|売買は禁じられていないが、建て替えは接道で決まる
袋地を売ることを禁じる法律はありません。所有権の移転登記も普通にできます。
止まるのは建てる行為です。建築基準法は、建築物の敷地が道路に2メートル以上接することを求めています。袋地は定義上この条件を満たさないので、いま建っている家を壊すと新しい家が建てられない土地になります。売れないのではなく、買主の側で使い道が限られるという構造なんですね。
| 前提 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 袋地とは | 他の土地に囲まれて公道に通じない土地 | 民法210条 |
| 通る権利 | 契約がなくても囲繞地を通れる。場所と方法は損害がいちばん少ないもの | 民法210条・211条 |
| 売買と建て替え | 売買は自由。建て替えは道路に2メートル接していないとできない | 建築基準法43条 |
なぜ袋地の売却は止まりやすいのか|4つの理由

袋地が仲介に出しても買主が付きにくいのには、はっきりした理由があります。理由が分かれば、どこを整えれば売れるのかも見えてくるんですね。
止まる理由は4つに分かれます。
理由1|建て替えができないから
前の章のとおり、袋地は道路に2メートル接していないので、いま建っている家を壊すと新しい家は建てられません。買主にとっては、将来の出口が読めない土地になります。
買主が見ているのは今の家ではなく、壊したあとに何が建つかです。ここが読めないと、買主は価格を大きく引くか、手を出しません。
理由2|通る権利の中身が買主から見えないから
囲繞地を通れること自体は法律が認めていますが、どの幅で、車が通れるのか、水道管を通すために掘っていいのか、償金はいくらなのか。この中身は土地ごとに違います。
書面に何も残っていない袋地は、買主にとって「通れるはずだが確かめようがない土地」なんです。仲介の不動産会社も、重要事項として何を説明すればいいのかが定まらず、動きが鈍くなります。
理由3|住宅ローンが付きにくいから
金融機関は、貸したお金が返ってこなかったときに土地と建物を売って回収する立場です。建て替えができず、通行の権利も不確かな土地は、担保としての評価が低くなります。
融資が付きにくい土地は、現金で買える相手にしか売れません。個人の買主の多くは住宅ローンで買うので、ここで買主の母数が一気に減るんですね。
理由4|仲介の不動産会社にとって採算が合いにくいから
不動産会社の収益は仲介手数料になります。袋地を1件まとめるには、公図で通路の所有者を調べ、囲繞地の所有者に通行の内容を確かめ、買主に接道と通行権を説明する手間がかかります。
僕がグループの売買部門と一緒に動いていた当時も、手間のわりに実らない案件は後回しにされがちでした。同じ会社でも担当者によって温度差がはっきり出ます。冷たいと感じても、会社を責めて事態は動きません。構造がそうなっていると考えて、袋地に慣れた相手を探すほうが早いです。
| 止まる理由 | 中身 | 整え方 |
|---|---|---|
| 建て替え | 道路に2メートル接していない | 隣地と一体化する・通路を確保する |
| 通行の中身 | 幅・車・掘削・償金が書面にない | 通行地役権の設定や承諾書で見える化する |
| 融資 | 担保評価が低く現金の買主に限られる | 隣地・専門業者など現金の相手を先に当たる |
| 仲介の採算 | 手間に対して手数料が小さい | 袋地に慣れた会社に絞る |

袋地の相談で不動産会社に断られた方の多くは、「袋地だから」と言われて終わっていました。ところが本当の理由を聞くと、通行の中身を誰も確かめていなかった、というだけのことがほとんどです。
断られた理由が土地そのものなのか、情報が足りないだけなのかを分けて考えると、次にやることが決まります。情報が足りないだけなら、そろえれば動きますよ。
袋地の「通る権利」は3種類ある|どれを持っているかで価格が変わる

袋地の売却でいちばん価格に効くのが、公道に出るための権利の種類になります。同じ袋地でも、持っている権利によって、買主が付く範囲が変わります。
権利は3種類に分けて読めるんですね。
種類1|法律で当然に生じる囲繞地通行権はどこまで通れるのか
民法210条が定める通行権は、契約がなくても生じるものです。その代わり、通る場所と方法は袋地のために必要で、かつ囲繞地の損害がいちばん少ないものに限られます。
つまり人が歩いて通れる幅は認められても、車で乗り入れる幅まで当然に認められるわけではありません。通ることで囲繞地に損害があれば償金を払う必要もあります。ただし、1つの土地を分割して袋地が生まれた場合は、分割した相手の土地だけを無償で通れると決められているんです。土地の一部を譲り渡して袋地になった場合も同じ扱いになります。
種類2|契約で設定する通行地役権は何が違うのか
袋地の所有者と囲繞地の所有者が合意して、通行を目的とする地役権を設定する方法があります。地役権は、他人の土地を自分の土地の便益に使う権利で、設定行為で定めた目的と範囲に従うものです。
地役権の強みは、土地に付いて次の所有者へ引き継がれるという点です。民法は、地役権が要役地の所有権に従たるものとして、所有権とともに移転すると定めています。承役地に地役権の登記をすれば、登記事項として要役地・目的・範囲が記録されるので、買主は登記を見るだけで通れる幅と内容を確かめられるわけです。
種類3|人に付く承諾は次の所有者に引き継がれるのか
「隣の人が通っていいと言ってくれている」という状態は、多くの場合、使用貸借や口頭の承諾にあたります。これは人と人の約束なので、土地を売ったときに次の所有者へ当然に引き継がれるとは限りません。
買主の側から見れば、いちばん不安な状態がこれになります。囲繞地の所有者が代替わりしたときに、同じ条件で通れる保証がないからです。売る前に、この承諾を地役権の設定や書面の承諾に変えられないかを考える価値があります。
| 種類 | 生じ方 | 通れる範囲 | 次の所有者への引き継ぎ |
|---|---|---|---|
| 1 囲繞地通行権 | 法律で当然に | 必要で損害がいちばん少ない場所と方法。償金あり | 引き継がれる(法定) |
| 2 通行地役権 | 契約で設定 | 設定行為で定めた目的と範囲。登記できる | 土地に付いて移転する |
| 3 使用貸借・口頭の承諾 | 人と人の約束 | 約束の内容による | 当然には引き継がれない |

実務をしていた当時、通行の話は「昔からそうしている」の一言で終わっていることがほとんどでした。それで困らないのは、両家の関係が続いている間だけです。
売るときは、その「昔から」を書面と登記に変える作業が価格に直結します。相手が同じ人のうちに、通る幅と車と掘削の3つを紙に落としておくのが順番ですよ。
袋地を売却する前に確かめる3つのこと

袋地の売却を進める前に、確かめておくことが3つあります。この3つがそろっていないと、業者に当たっても隣地に声をかけても、話が途中で止まってしまうんです。
順に見ていきましょう。
確認1|公図と登記事項証明書で通路の地番と所有者は誰か
まず法務局で公図と登記事項証明書を取り、自分の土地の地番と、通っている通路がどの筆に含まれているかを確かめます。通路が囲繞地の一部なのか、独立した筆なのか、複数の所有者の共有なのかで、話す相手が変わるからです。
僕が登記事項証明書で所有者を追いかけていた当時、通路の筆が亡くなった方の名義のまま残っていることが何度もありました。通路の所有者が誰かを確かめるところが袋地の売却の入口です。相手が分からなければ、地役権の設定も一体化の交渉も始まりません。
確認2|役所で道路の種別と、接している長さはどうなっているか
自分の土地が本当に袋地なのかは、役所の建築指導課で前面の道の種別を聞くと確定します。通路として使っている道が位置指定道路や2項道路として扱われていれば、袋地ではなく接道している土地になる可能性があるんです。
建築基準法上の道路には、道路法の道路や、特定行政庁から位置の指定を受けた道などが含まれます。思い込みで袋地と決めず、道路の種別と接している長さを実測で確かめるところから始めてください。道路の型と43条2項の認定・許可で外せる可能性は、再建築不可物件の買取はどこまで下がる?価格の決まり方と、売る前に確かめる4つの可能性にまとめました。
確認3|通行と掘削の承諾はどこまで書面にあるか
いま通っている通路について、人の通行、車の通行、水道管やガス管を通すための掘削の3つが、それぞれどこまで認められているかを確かめます。書面があるならその内容を、なければ口約束の範囲を書き出してください。
現在の民法には、電気・ガス・水道の供給を受けるために他の土地に設備を設置し、または他人の設備を使用できる決まりがあります。ただし設置の場所と方法は損害がいちばん少ないものを選び、あらかじめ通知が要り、損害には償金を払う仕組みです。法律で認められていても、実際に掘る段になって揉めれば工事は止まります。承諾を書面にしておく意味はここにあります。
| 確認 | 見るもの | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 1 通路の地番と所有者 | 公図・登記事項証明書 | 法務局 |
| 2 道路の種別と接道の長さ | 道路種別・実測の接道長 | 建築指導課・土地家屋調査士 |
| 3 通行と掘削の承諾 | 人・車・掘削の3つの範囲 | 囲繞地の所有者・書面 |

隣人への聞き取りは、実務をしていた当時に空き家の調査で欠かさなかった作業です。越境した枝に困っているという声と同じくらい、「あの土地が空くなら買いたい」という声を聞きました。
通路の話を確かめに行く訪問は、そのまま買主候補への挨拶になります。売る話ではなく、通路のことを確かめたいという話として持っていくと、相手も構えずに話してくれますよ。
袋地は誰に売るのか|5つの売り先

袋地の売却は、誰に売るかで価格も期間もまったく変わります。ここでは袋地に固有の順番で5つの売り先を並べました。
囲繞地の所有者が先で、業者は数字を取る相手という順番です。
売り先1|囲繞地の所有者に売る
いちばん相性がいい相手は、あなたの土地を囲んでいる土地の所有者になります。袋地と囲繞地をまとめれば、公道に接した1つの敷地になり、建て替えの制限が消えるからです。
囲繞地の所有者の側にも利点があります。あなたの土地を買えば、庭先を通られる負担がなくなり、自分の敷地も広がるわけですね。袋地の所有者にとっても囲繞地の所有者にとっても、一体化は同じ方向を向いた話なんです。
売り先2|隣地の一部を買う、または交換して接道を作ってから売る
囲繞地の所有者が全部を買ってくれない場合でも、通路にあたる部分だけを買い取る、または自分の土地の一部と交換して公道までの通路を確保する方法があります。通路の幅が2メートル以上あれば、接道の条件を満たして建て替えができる土地に変わるんですね。
手続きとしては、通路部分を分筆して所有権を移し、自分の土地と合筆する流れです。ただし不動産登記法は、接続していない土地、地目が違う土地、所有者が違う土地、抵当権などの登記が残っている土地は合筆できないと定めています。通路部分に他の権利が付いていないかを、登記事項証明書で先に確かめてください。
売り先3|通行地役権を設定してから仲介で売る
一体化も通路の取得も難しいときは、囲繞地の所有者と通行地役権を設定し、登記したうえで仲介に出す道があります。人と車の通行、掘削の範囲まで設定行為に書けば、買主は登記でその内容を確かめられるんです。
住み続けられる家が建っている袋地なら、現金で家を持ちたい個人が買主になり得ます。権利が登記で見える袋地は、見えない袋地より買主の母数が増えるんです。
売り先4|袋地や再建築不可を扱う買取業者に売る
宅地建物取引業の免許を持つ会社が自ら買主になる形になります。買主を探す期間が要らず、契約から決済まで数週間から1か月程度で組めることが多くなります。
価格は仲介より下がるのが普通です。業者は買った土地を隣地とまとめるか、通路を整えて転売するかで利益を出す立場なので、その利益と手間の分が査定額から引かれます。業者の出す数字は、囲繞地の所有者と話すときの下限として使うのが袋地での位置づけになります。免許と処分歴の確かめ方は、訳あり物件買取業者の選び方|元コンサルが先に見る5つのポイントと契約前の確認事項に整理しました。
出典:国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
売り先5|相続した土地なら国に引き取ってもらう道もある
相続または相続人に対する遺贈で取得した土地に限り、国庫に帰属させる制度があります。建物がある土地は申請できず、境界が明らかでない土地も却下される決まりです。
袋地で見ておきたいのは不承認の理由になります。法務省の統計では、令和8年7月31日現在の不承認96件のうち、民法上の通行権利が現に妨げられている土地に該当したものが4件ありました。通行を巡って揉めている袋地は、国に引き取ってもらう出口も塞がるわけです。審査手数料は1筆14,000円で、却下・不承認でも返還されません。
出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」/法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」
| 売り先 | 価格の目安 | 期間 | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
| 1 囲繞地の所有者 | 高くなり得る | 交渉次第 | 相手が敷地を広げたい・通行の負担を消したい |
| 2 通路を取得・交換して売る | 接道すれば普通の土地に近づく | 長め | 通路部分に他の権利がない |
| 3 地役権を設定して仲介 | 中間 | 長め | 住める家が建っている |
| 4 買取業者 | 仲介より下がる | 短い | 期限がある・現況のまま手放したい |
| 5 国庫帰属 | 収入はなく負担金が出る | 長い | 相続した更地で通行の争いがない |

5つ並べると、価格がいちばん高くなりやすいのは囲繞地の所有者です。それでも実際の相談では、隣に一度も聞かないまま買取の査定を取り始める方がほとんどでした。
囲繞地の所有者に聞かずに売るのは、いちばん高く買う可能性のある相手を外して交渉を始めるようなものです。関係が悪くないなら、順番として先に置いてみてください。
袋地の売却価格はどう決まるのか|通る権利で変わる3つの段階

袋地の売却価格に「相場の何割」という一律の答えはありません。買主が見ているのは、通る権利がどの段階にあるかです。
段階は3つに分けて読めるんですね。
段階1|権利が書面にない袋地はどう評価されるのか
通行の承諾が口約束だけで、掘削の承諾もない袋地です。買主は、囲繞地の所有者が変わったときに通れなくなる可能性を織り込んで価格を出します。
この段階では、買主は事実上、囲繞地の所有者と専門の買取業者に限られるんです。業者は自分で権利を整える手間と時間を価格から引くので、提示額はいちばん低くなります。
段階2|地役権の登記と掘削の承諾がある袋地はどう変わるのか
通行地役権が登記され、車の通行と掘削の承諾が書面にある袋地です。建て替えはできませんが、住み続ける・貸すという使い方は安定します。
現金で買える個人や、貸して家賃を得る前提の買主が候補に入ってくるんですね。買主の母数が増えるぶん、段階1より価格の下限が上がるというのがこの段階です。
段階3|隣地とまとめれば普通の土地になる袋地はどう見るのか
囲繞地の所有者が買う場合、または通路を取得して接道した場合は、袋地ではなくなります。買主が見るのは、まとめたあとの敷地の価値になります。
土台を知るには、近隣で実際にいくらの取引があったかを見てください。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、成約した価格を地図から絞り込めます。まとめたあとの面積と接道の条件で近い取引を探すと、囲繞地の所有者と話すときの物差しになります。相場を知らずに交渉の席につかない、というのは実務をしていた当時から変わらない順番です。
| 段階 | 通る権利の状態 | 買主の範囲 | 価格の見方 |
|---|---|---|---|
| 1 | 口約束だけ | 囲繞地の所有者・買取業者 | 権利を整える手間の分だけ低い |
| 2 | 地役権の登記+掘削の承諾 | 現金の個人・投資家が加わる | 下限が上がる |
| 3 | 隣地と一体化して接道 | 普通の土地の買主 | まとめたあとの敷地の価値で見る |

「相場の3割」といった数字を見て落ち込む方がいますが、その数字が段階1を前提にしているのか段階3を前提にしているのかで、意味がまったく違います。
自分の袋地がどの段階にあるかを先に決めてから、数字を読んでください。段階を1つ上げるだけで、比べる相手が変わりますよ。
袋地の売却で起きやすいトラブルと契約で防ぐ3つのこと

袋地の売却で揉めるのは、価格よりも通行と境界の扱いです。契約書に何を書くかで、決済のあとに追いかけられるかどうかが決まります。
防ぐ点は3つです。
防ぐこと1|通行と掘削の範囲を契約書と承諾書に書いたか
人の通行、車の通行、掘削の3つについて、囲繞地の所有者から書面の承諾を取り、売買契約書にその写しを付けます。地役権を設定したなら、その登記を済ませてから引き渡すのが順番です。
口頭で決めた内容は、契約書に残らなければ証明しにくくなります。実務をしていた当時から、残すものと渡すものを目録にして契約に付ける進め方は多くありました。通行の内容も同じ扱いで、紙に落としてください。
防ぐこと2|境界と越境の扱いを書面に残したか
袋地は隣地に囲まれているので、境界の数がそのぶん多くなります。境界標が埋まっているか、隣家の塀や枝が越境していないかで、買主の判断が変わるんです。
僕が解体の現場を担当していた当時、埋まった境界杭を掘って探し、測量に立ち会ったことが何度もありました。隣地と境界で話が付かないときは、法務局の筆界特定制度があります。筆界特定登記官が現地の筆界の位置を特定する制度で、裁判をしなくても解決を図れます。ただし所有権の範囲を決めるものではないので、争いがある場合は弁護士の領域です。越境の扱いは土地の境界線のはみ出しがあっても買取で売れる|越境の5つの売り先と、動く前に確かめる図面の見方に書きました。
出典:法務省「筆界特定制度」
防ぐこと3|知っていることを全部告げたか
売主が個人で買主が業者のとき、契約不適合責任を負わない特約を置くことは珍しくありません。ただし民法は、担保責任を負わない特約をしても、知りながら告げなかった事実については責任を免れないと定めています。
通行を巡って隣地と揉めた経緯、通路の所有者が誰か分からない期間があったこと、過去に掘削を断られたこと。知っていることは全部書面に残すのが、売ったあとに追いかけられない唯一の方法です。宅地建物取引業者は、契約成立までに建築基準法などの法令に基づく制限を重要事項として説明する義務を負うので、袋地であることは買主に必ず伝わる前提で進めてください。
| 防ぐこと | 書くもの | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 通行と掘削 | 人・車・掘削の承諾書、地役権の登記 | 民法280条・不動産登記法80条 |
| 2 境界と越境 | 境界標の確認、測量の費用負担、越境の覚書 | 筆界特定制度 |
| 3 告知 | 揉めた経緯・断られた経緯を全部 | 民法572条・宅建業法35条 |

解体や測量の現場で近隣と揉めたとき、矛先は業者ではなく所有者に向かいます。だから僕は、所有者本人が業者と一緒に挨拶に行き、手放す経緯を自分の口で説明する段取りを勧めてきました。
袋地は隣地の数だけ挨拶の相手がいます。売る話の前に、通路を使わせてもらってきたお礼と、手放すことになった経緯を伝えるだけで、その後の話が驚くほど進みますよ。
袋地を売却したときの税金|先に確かめる3つの制度

袋地は代金が小さくなることが多く、税金の特例で手取りが大きく変わります。契約の前に3つの制度を確かめてください。
制度は執筆時点の2026年9月の内容になります。個別の税額計算は税理士の領域なので、ここでは仕組みと期限だけ整理しますね。
制度1|低未利用土地の100万円控除は袋地に使えるのか
都市計画区域内の低未利用土地等を500万円以下で売った場合、その年の長期譲渡所得から100万円を控除できる制度があります。市街化区域など一定の区域では800万円以下まで対象です。売った年の1月1日で所有期間が5年を超えていること、売った後にその土地が利用されることが要件になります。
代金が小さくなりがちな袋地は、この控除の枠に収まりやすいんです。国税庁のページには令和7年12月31日までと書かれていますが、令和8年度税制改正の大綱で適用期限が3年延長されると決まりました。前年か前々年に分筆した土地でこの特例を受けていないことも要件なので、通路部分を分筆する場合は順番に注意してください。
出典:国税庁「No.3226 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」/財務省「令和8年度税制改正の大綱」
制度2|相続した家なら3,000万円の特別控除は使えるのか
相続した空き家を売ったとき、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。昭和56年5月31日以前に建築された家、区分所有建物でないこと、亡くなった方が一人で住んでいたこと、売却代金が1億円以下であること、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却であることが主な要件です。
制度の期限は令和9年12月31日までになります。令和6年1月1日以後の売却では、買主が翌年2月15日までに耐震改修か取壊しを行う場合でも対象になるので、現状のまま囲繞地の所有者や業者に渡す場合でも道があります。取得した相続人が3人以上なら控除額は2,000万円です。改正の経緯は空き家の3,000万円控除は何が変わった?|2026年8月の要望での変更点と対象外の5つの出口を解説に書きました。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
制度3|相続登記の登録免許税と取得費加算はどうなっているのか
売る前に相続登記が要る場合、登録免許税がかかります。ただし、相続による土地の所有権移転登記で不動産の価額が100万円以下の土地なら、令和9年3月31日までは登録免許税が免税になります。評価額の小さい袋地は、ここに当てはまることが多いんです。
相続税を払っている場合は、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの売却なら、相続税額の一部を取得費に加算できます。3,000万円控除とは併用できないので、どちらが得かは税理士に確かめてください。譲渡所得は分離課税で、相続した土地の所有期間は亡くなった方が取得した日から数えるので、基本的には長期譲渡になります。
出典:法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」/国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」/国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
| 制度 | 使える場面 | 押さえる要件 |
|---|---|---|
| 低未利用土地の100万円控除 | 500万円以下(市街化区域は800万円以下)で売る | 所有5年超・売った後に利用される・大綱で3年延長 |
| 空き家の3,000万円控除 | 相続した昭和56年5月以前の家 | 買主側の取壊しでも可・令和9年12月31日まで |
| 登録免許税の免税・取得費加算 | 価額100万円以下の土地の相続登記・相続税を払った | 免税は令和9年3月31日まで・3,000万円控除と取得費加算は併用不可 |

制度を知らずに売った方は、知った後に必ず同じ言葉を口にします。「先に言ってほしかった」です。実務をしていた当時、この言葉を何度も聞きました。
特例は、売る前に知っていた人だけが使えます。袋地は金額が小さいぶん、100万円の控除1つで手取りの印象が変わります。契約の前に税理士へ一度だけ聞いておくのが、いちばん安い保険ですよ。
袋地の売却はどう進めるか|5つのステップ

段取りが決まっていれば、袋地の売却は思ったより短く終わります。逆に、通行の中身を確かめないまま声をかけると、同じ説明を何度も繰り返すことになります。
進め方は5つのステップに分かれるんです。
ステップ1|公図と登記事項証明書で通路の所有者を確かめる
法務局で公図と登記事項証明書を取り、自分の地番、通路の筆、その所有者を書き出します。通路が共有なら共有者の全員、亡くなった方の名義なら相続人を追いかけることになります。
ここで相手が特定できるかどうかで、その後の道筋が決まります。相続登記が未了なら、相続で取得したことを知った日から3年以内に登記する義務があり、令和6年4月1日より前に相続した不動産も令和9年3月31日が期限です。
ステップ2|役所で道路の種別と接道の可能性を聞く
建築指導課で、前面の道の種別と、接している長さの実測値を確かめます。位置指定道路や2項道路として扱われていれば袋地ではありません。
袋地のままか、通路を取得すれば接道できるのかを、この時点で切り分けてください。通路を2メートル以上の幅で取得できる見込みがあるなら、売り先2の道が開きます。
ステップ3|出口の違う業者に同じ資料で数字を聞く
公図、登記事項証明書、通行の承諾の有無を同じ資料にまとめ、袋地を扱う業者2社か3社に価格を聞きます。条件が同じだからこそ、返ってきた数字を横に並べて比べられるわけです。
答えられない相手の数字は、比べる材料になりません。提示額が出たら、隣地とまとめる前提なのか、通路を整えて転売する前提なのかを聞いてください。
ステップ4|囲繞地の所有者に知らせる
業者の数字を持った状態で、囲繞地の所有者に手放すことになった旨を知らせます。売る話ではなく、通路を使わせてもらってきたお礼と、手放すことになったという知らせとして持っていくのが順番です。
買いたいという返事があれば、業者の提示額を下限にして条件を詰めます。返事がなければ、地役権の設定と掘削の承諾を書面にしてもらえないかを、この機会に相談してください。声のかけ方は狭小土地の買取業者はどう選ぶか|出口で変わる3つのタイプと、業者に当たる前に隣地へ声をかける順番でも書いています。
ステップ5|契約から決済までに何を確かめるのか
契約書では、通行と掘削の承諾、境界と越境の扱い、免責の対象、手付と解除の条件を読みます。地役権を設定したなら登記を、通路を取得したなら分筆と合筆を、決済までに司法書士と土地家屋調査士に組んでもらってください。
決済日に代金を受け取り、鍵と書類を引き渡して終わりです。売った翌年には譲渡所得の確定申告があるので、契約書と費用の領収書は保管しておきましょう。
| ステップ | やること | 押さえる点 |
|---|---|---|
| 1 通路の所有者 | 公図・登記事項証明書 | 相続登記の期限 |
| 2 道路の種別 | 建築指導課で実測と種別 | 通路の取得で接道できるか |
| 3 業者の数字 | 出口の違う2〜3社に同じ資料で | 前提を答えられるか |
| 4 囲繞地の所有者 | 業者の数字を持って知らせる | 売る話ではなく知らせる話として |
| 5 契約と決済 | 通行・境界・免責・解除を読む | 翌年の確定申告に備える |

持ち続けるか手放すかの相談で、実務をしていた当時に最後に効いたのは、いつも回収の計算でした。年間の固定資産税と草刈りの費用を出し、それが何年分で提示額の差を埋めるかを見るだけです。
感情の話を数字に置き換えると、迷いが減ります。袋地は金額が小さいぶん、維持費の何年分かがすぐに追いついてしまうんです。
袋地の売却に関してのよくある質問

袋地は本当に売れるのですか?
答えは「売れる」になります。袋地の売買を禁じる法律はなく、所有権の移転登記も普通にできます。止まるのは買主の側の使い道で、建て替えができないことと通行の中身が見えないことが理由です。囲繞地の所有者、通路を整えたうえでの仲介、専門の買取業者という順番で当たれば、買主は見つかります。
囲繞地の所有者に「通らせない」と言われたらどうなりますか?
法律上、袋地の所有者は公道に出るために囲繞地を通れます。契約がなくても生じる権利で、ただし通る場所と方法は囲繞地の損害がいちばん少ないものに限られ、償金を払う決まりです。通行そのものを止めることはできませんが、車の通行や掘削まで当然に認められるわけではないので、その部分は話し合いと書面で決めます。争いになった場合は弁護士の領域です。
袋地は解体してから売ったほうがいいですか?
先に壊さないのが原則になります。袋地は道路に接していないので、いったん壊すと新しい家が建てられず、住み続ける・貸すという使い道まで消えてしまいます。現状のまま囲繞地の所有者と業者の数字を取り、解体後の想定と並べて比べるのが順番です。空き家の3,000万円控除も、買主側の取壊しで使える道があります。
まとめ

袋地の売却は、公道に出るために他人の土地を通る権利の種類で決まるものです。法律で当然に生じる囲繞地通行権、契約で設定して登記できる通行地役権、人に付く口頭の承諾。この3つのどれを持っているかで、買主の範囲と価格の段階が変わります。
袋地が止まるのは、建て替えができず、通行の中身が買主から見えず、住宅ローンが付きにくく、仲介の採算が合いにくいからです。動く前に、公図と登記事項証明書で通路の所有者を確かめ、役所で道路の種別を聞き、通行と掘削の承諾がどこまで書面にあるかを確かめてください。売り先は、囲繞地の所有者、通路を取得して接道してから売る、地役権を設定して仲介、専門の買取業者、相続した土地なら国庫帰属の5つです。
順番として大事なのは、業者の数字を先に取り、それを下限にして囲繞地の所有者に知らせることになります。囲繞地の所有者にとってだけ、あなたの土地は市場より高く評価されるからです。契約では通行と掘削の承諾、境界と越境、知っていることの告知を書面に残してください。税金は100万円控除、3,000万円控除、登録免許税の免税と取得費加算を契約の前に確かめておきましょう。
再建築不可の土地全般の売り先の比べ方は、再建築不可物件の売却は売り先で決まる|5つの出口と、動く前に確かめる道路の調べ方にまとめています。通路が共有になっている場合の進め方は共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口に分けて書きました。個別の税額計算は税理士、登記の手続きは司法書士、通行や境界で争いになっている場合は弁護士の領域です。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。判断に迷ったときは、お問い合わせからご連絡ください。








「袋地だから売れない」と決めつけて、固定資産税だけ払い続けている方を実務をしていた当時に何度も見ました。ところが公図を広げると、通っている通路の地番が別の筆になっていて、その所有者が売る気だった、ということがあるんです。
袋地かどうかも、売れるかどうかも、公図と登記の記録で決まります。思い込みで止まらず、まず地番を追いかけるところから始めてみてください。