借地権付き建物が売れないのは、どこで止まっているのか|4つの理由と、地主が承諾しないときの3つの道

借地権付き建物が売れないのは、どこで止まっているのか|4つの理由と、地主が承諾しないときの3つの道

親から引き継いだ家が借地の上に建っていて、不動産会社に相談したら「借地権付きは売れにくいですよ」と言われたまま、話が止まっている方は少なくありません。

僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地有効活用のコンサルティング営業をしていた人間です。当時のお客様の中心は、土地を持つ地主の方々でした。この記事は、その反対側、つまり土地を借りて家を持っている借地人の側に向けて書いています。

結論から言うと、借地権付き建物が売れないと言われるとき、止まっている場所は3つのどれかになります。買い手がまだ現れていないのか、地主の承諾で止まっているのか、価格が合っていないのか。この3つは原因も打ち手も違うのに、まとめて「売れない」の一言で片づけられがちです。

そして、地主が承諾しないから売れない、というのは話の途中にすぎません。借地借家法には、地主の承諾に代わる許可を裁判所に求める手続きが用意されています。地主自身が買い取る道も、同じ条文の中にあるんですね。

この記事では、借地権付き建物が売れないときの3つの状態、止まる4つの理由、決める前に確かめる4つのこと、地主が承諾しないときの3つの道、変える売り先、価格の決まり方、持ち続けたときのコスト、売らずに手放す道、税金、進め方の順にたどっていきます。

法令と制度は、e-Gov法令検索・裁判所・国税庁・法務省などで確認したものだけを載せました。2026年9月時点の内容としてお読みください。訳あり物件全体の売り先の地図は、訳あり物件の売却は「訳」の中身で売り先が決まる|4種類の訳と5つの出口、動く前に整える3つのことに分けて書いています。

借地権付き建物が売れないと言われるとき、何が起きているのか|3つの状態

借地権付き建物が売れないと言われるとき、何が起きているのか|3つの状態

同じ「売れない」でも、中身は3つに分かれるんですね。どこで止まっているかを先に切り分けないと、打つ手が的外れになってしまうんです。

状態1|売りには出ているが、買い手がまだ現れていない

広告は出ているのに、問い合わせが少ない、または内見まで進まない状態を指します。この場合、借地権付き建物そのものが売買できないわけではありません。買い手の母数が少ないところに、その母数へ届く売り方ができていないという見方になります。

媒介契約を結んでいるなら、報告の中身を確かめてください。宅地建物取引業法は、専任媒介契約なら2週間に1回以上、専属専任媒介契約なら1週間に1回以上、業務の処理状況を依頼者に報告するよう定めています。

出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」

状態2|買い手はいるが、地主の承諾で止まっている

買主の候補は見つかったのに、地主が首を縦に振らない状態です。普通の家にはない、借地権付き建物に特有の止まり方になります。

ここで止まっていても、次の手は残っています。地主との話し合いに加えて、裁判所への申立てと、地主自身による買い取りという2つの手続きが法律に用意されているんです。詳しくは4章で順番に見ていきます。

状態3|価格が折り合わない

数字は出ているのに、売主が納得できない状態ですね。借地権付き建物の値段は、土地も建物も自分のものである普通の家と同じ物差しでは付きません。

先にやるのは値下げではなく、その数字が何を差し引いた結果なのかを聞くことです。承諾料を誰が負担する前提か、建物を使う前提か壊す前提か。前提がそろわないまま比べても、判断はできません。

状態起きていること最初の一手
1 買い手が現れない母数へ届いていない報告で反響の数字を確かめる
2 承諾で止まっている地主が譲渡を認めない4章の3つの道を検討する
3 価格が合わない物差しがそろっていない差し引かれた項目を聞く

実務をしていた当時、お客様の中心は地主の方々で、相続税対策や土地の使い道を一緒に考える仕事をしていました。地主にとって、貸している土地は自分の代でどう整理するかを考える資産でもある、と僕は考えているんです。

借地人から見ると理不尽な「承諾しない」にも、地主なりの理由があると考えておくと、話の入り方が変わります。まず自分が3つのどこで止まっているのかを紙に書き出してください。判断に迷うところがあれば、お問い合わせからご相談ください。

なぜ借地権付き建物は売れないと言われるのか|4つの理由

なぜ借地権付き建物は売れないと言われるのか|4つの理由

止まる理由は4つに整理できます。1つ目が法律の話で、残りは融資と契約と、相手の都合の話になるんですね。

理由1|借地を人に譲るには、地主の承諾が要るから

借地借家法は、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定めています。このうち土地の賃借権について、民法は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡せないと定めているんです。

建物を売れば、その下の土地を借りる権利も一緒に買主へ移ります。だから建物を売るときに、土地の持ち主である地主の承諾が必要になるわけです。承諾なしに第三者へ使わせた場合、賃貸人は契約を解除できるとまで書かれています。

出典:e-Gov法令検索「借地借家法」

出典:e-Gov法令検索「民法」

理由2|住宅ローンが付きにくいから

買主の多くは、住宅ローンを組んで家を買うものです。借地の上の建物でも、融資の対象になる場合はあるんですね。住宅金融支援機構の【フラット35】も、要件を満たせば敷地が借地でも利用できる場合があると案内しています。

ただし、条件付きです。原則として敷地、つまり地主の土地に第1順位の抵当権を設定することが求められます。抵当権の設定に地主の承諾が得られない場合でも利用できることがある、という案内も付いているんです。そのうえ、名義書換料や承諾料は借入対象にならないことが明記されています。定期借地権なら、借入期間は通常の借入期間と借地権の残存期間のうち短いほうが上限になります。買主にとっては、現金で用意する額が増える形になるわけですね。

出典:住宅金融支援機構「敷地が借地の場合|【フラット35】」

理由3|買主が地代と契約の条件まで引き継ぐから

借地権付き建物の買主は、建物と一緒に、毎月の地代と契約の条件を引き継ぎます。建物の種類や構造を制限する定め、増改築に地主の承諾を求める定めが付いていることも多いんです。

増改築の承諾が得られないとき、借地権者は裁判所に承諾に代わる許可を求められます(借地借家法17条2項)。それでも、建て替えのたびに地主との調整が要る家を、最初から選ぶ買主は多くありません。買主の母数が減るのは、ここから来ています。

理由4|仲介の不動産会社にとって手間が大きいから

仲介の不動産会社の収入は、成約したときの仲介手数料になります。借地権付き建物は、地主との調整、承諾の取り付け、契約書の読み込みと、普通の家より手間がかかります。

実務をしていた当時、グループの売買部門と一緒に動くと、同じ会社でも担当者によって対応が大きく変わるのを実際に見てきました。断られたのは物件の問題ではなく、その相手の事情だったということが起こり得ます

この事情を受けて、物件価格が800万円以下の宅地建物には、低廉な空家等の特例があります。通常の上限を超えて、30万円の1.1倍まで仲介手数料を受け取れるという特例です。売主の負担が増える方向の特例なので、価格の低い借地権付き建物では、媒介契約の前に金額を確かめておいてください。

出典:国土交通省「建設産業・不動産業:<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」

理由何が起きるか売主にできること
1 地主の承諾承諾なしでは譲れない4章の3つの道を知る
2 住宅ローン承諾料は借りられない現金で買える相手も探す
3 契約の引き継ぎ増改築にも調整が要る契約書を先に読み込む
4 仲介の手間会社が動きにくい扱いに慣れた会社に替える

ここからは、実例を見たわけではなく構造から考えていることです。地元で長く営業している不動産会社は、地元の地主と関係が深い場合があります。話が早く進む場面がある一方で、利害がぶつかる交渉では、どちらかに寄った動きになりかねないとも考えているんです。

そのため、借地人の側に立って動いてもらうなら、地主と関係のない第三者の会社を挟むほうが話は素直に進むのではないでしょうか。1社の返事を、全体の答えにしないでください。

借地権付き建物が売れないと決める前に確かめる4つのこと

借地権付き建物が売れないと決める前に確かめる4つのこと

思い込みで止まっていることもあるので、ここは順番どおりに進めるのが近道になります。手元の書類と法務局で確かめられることばかりです。

確認1|借地は地上権か、賃借権か

契約書に「賃貸借」とあるのか、「地上権」とあるのかを見てください。民法612条が承諾を求めているのは賃借権の譲渡についてです。裁判所の案内も、建物を譲るときに承諾が必要になるのは借地契約が土地の賃貸借契約の場合としています。

地上権として設定されている借地なら、賃借権の譲渡の承諾という壁はそもそも立ちません。土地の登記事項証明書に地上権の設定登記があるかどうかも、一緒に確かめておくと確実です。

出典:裁判所「第1 借地非訟とは」

確認2|契約はいつ結ばれ、どの種類の借地権なのか

まず見るのは契約の日付です。借地借家法の施行日(平成4年8月1日)より前に設定された借地権の更新は、なお従前の例によると附則6条に定められています。いつの契約かによって、適用される法律が変わってくるんですね。

もう1つ、定期借地権かどうかも見てください。代表的なのは、存続期間を50年以上として設定し、更新や建物の買取請求をしない旨を書面で定めた借地権で、期間が来れば終わります。残りの期間が短いほど、買主にとっての価値は小さくなるわけです。

確認3|建物の登記名義は誰になっているか

借地借家法は、借地権の登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有していれば、借地権を第三者に対抗できると定めています(10条1項)。借地の権利を守っているのは、建物の登記なんですね。

実務をしていた当時、登記事項証明書を取って所有者を追いかけていて、三代前の名義のまま止まっている土地に実際に当たったことがありました。相続登記は現在、相続で取得したことを知った日から3年以内に申請することが義務になっています。令和6年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その期限は令和9年3月31日です。建物の名義が亡くなった親のままなら、売る前にここを整えてください。

出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」

確認4|地代の支払いと、契約の条件に抜けはないか

地代を滞りなく払っているか、振込の記録で確かめます。そのうえで、契約書にある建物の種類・構造の制限、増改築の承諾の定め、更新料の定めを書き出してください。

買主が真っ先に知りたいのは、この条件の一覧になります。契約書が見当たらないときは、地代の振込記録や地主とのやり取りの手紙から、時期と条件をたどることになるんです。

確認見る書類分かること
1 権利の種類契約書・土地の登記承諾が要る賃借権か
2 契約の時期と種類契約書旧法か新法か・定期借地か
3 建物の名義建物の登記事項証明書対抗力と売主の確定
4 地代と条件振込記録・契約書買主が引き継ぐ中身

この4つは、どれも借地人ご本人が半日あれば確かめられるものです。調べてから相談するのと、調べてもらうために相談するのとでは、返ってくる答えの精度が変わってきます。

業者に渡す紙が1枚あるだけで、話は一気に具体的になります。とくに契約書の日付は、旧法と新法の分かれ目なので、最初に確かめておいてください。

地主が承諾しないときの借地権付き建物の3つの道

地主が承諾しないときの借地権付き建物の3つの道

状態2で止まっている方に向けた章になります。承諾が得られないことは、売れないことと同じではありません。

道1|承諾料を含めて、条件を話し合う

最初の道は、地主が何を気にしているのかを聞くことです。新しい借地人がきちんと地代を払うのか、建物をどう使うのか。不安の中身が分かれば、条件で埋められることがあります

承諾と引き換えに、承諾料を払うという形で話がまとまることもあります。金額は法律に書かれておらず、話し合いで決まるものです。裁判所の手続きになった場合は、鑑定委員会が承諾料額などについて意見を出す流れが案内されています。

道2|裁判所に、承諾に代わる許可を申し立てる

借地人が建物を第三者に譲ろうとする場合に、その第三者が借地を引き継いでも地主に不利となるおそれがないのに、地主が承諾しないという場面を考えてください。このとき裁判所は、借地人の申立てによって、地主の承諾に代わる許可を与えることができると借地借家法19条1項が定めています。

裁判所は、借地権の残りの期間、これまでの経過、譲る必要がある事情などを考慮して判断します(同2項)。許可に財産上の給付、つまり承諾料の支払いを条件として付けることも可能です。東京地方裁判所の案内では、借地非訟事件の多くは特段の事情がなければおおむね1年以内に終わっています。

条文は「その第三者」と書いているとおり、譲る相手が決まっている場面を前提にした書き方です。申し立てる前に、買主の候補を具体的に立てておく必要があるという点は押さえておいてください。

道3|地主の介入権で、地主自身が買い取る

道2の申立てがあると、地主の側には対抗手段が用意されています。裁判所が定める期間内に申し立てれば、地主自身が建物と借地の権利を譲り受けられるんです(借地借家法19条3項)。このとき裁判所は、相当の対価を定めて譲渡を命じることになります。

裁判所はこれを介入権と呼んでいます。借地人から見ると、第三者に売るつもりが、結果として地主に裁判所が決めた価格で売ることになるわけですね。許可が必ず出るわけではありませんが、認められれば第三者に、地主が介入権を使えば地主に売る形で、止まっていた話が動き出す仕組みです。

手続き押さえる点
1 話し合い当事者同士地主の不安を先に聞く
2 承諾に代わる許可裁判所への申立て買主の候補が前提
3 地主の介入権地主からの申立て価格は裁判所が定める

道2と道3は、法律の手続きになります。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。申立てを考える段階になったら、借地の事件を扱う弁護士に早めにつないでください。

それでも、こういう道があると知っているだけで、地主との話し合いの前提は変わります。承諾するか断るかの2択ではないと双方が知っていれば、条件の話に入りやすくなるんですね。

借地権付き建物が売れないときに変える3つの売り先

借地権付き建物が売れないときに変える3つの売り先

状態1や状態3で止まっている方に、いちばん効くのがここです。相手を替えると、答えが変わります。

売り先1|地主に買い取ってもらう

地主が借地権付き建物を買い取ると、土地の所有権と借地権が同じ人にまとまることになります。地主にとっては、自分の土地を完全に自由に使える状態に戻せるわけです。ほかのどの買い手よりも、この取引に高い価値を見いだしやすい相手になります。

地主の側から見た売り方は底地売却は誰に売るかで金額が変わる|5つの売り先と、動く前に確かめる契約書の見方に書きました。相手の目線を知っておくと、声のかけ方が変わってきます。

売り先2|借地権を扱う買取業者に売る

自分で買主になる会社です。承諾の取り付けや地主との調整をまとめて引き受けることを事業にしている会社もあります。その代わり、価格は地主に売る場合より低くなりやすい点は押さえておいてください。

免許の有無と行政処分の履歴は、国土交通省の検索システムで自分で確認できます。業者の見極め方は訳あり物件買取業者の選び方|元コンサルが先に見る5つのポイントと契約前の確認事項に整理しました。

出典:国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」

売り先3|地主と足並みをそろえて、底地と一緒に売る

借地権と底地を同じタイミングで第三者に売る方法もあります。買主から見れば完全な所有権の土地を買うことになるので、合計額は、それぞれをばらばらに売るより大きくなりやすいのが特徴です。

課題は、その合計額をどう分けるかになります。地主との関係が良く、双方に売る意思があるときにだけ成り立つ選択肢です。

売り先向いている場面気をつける点
1 地主地主に土地を使う予定がある相場の見当を先に持つ
2 買取業者期間を区切りたい免許と処分歴を確認する
3 底地と同時売却双方に売る意思がある配分を先に話し合う

地主に声をかけるときは、業者から数字をもらってからにしてください。相場の見当を持たずに交渉に入ると、足元を見られてしまいます。

替えるのは物件ではなく、聞く相手です。同じ資料を性質の違う相手に渡してみると、返ってくる答えにどれだけ幅があるかが見えてきます。

借地権付き建物が売れない価格になるのはなぜか|3つの引き算

借地権付き建物が売れない価格になるのはなぜか|3つの引き算

状態3で止まっている方に向けた章になります。価格は感覚ではなく、引き算で決まるものです。

引き算1|借地権割合は税金の物差しで、売値ではない

国税庁は、借地権の相続税評価額を、更地としての価額に借地権割合を掛けて求めると定めています。借地権割合は路線価図や評価倍率表に記号で表示されていて、Aの90%からGの30%まで7段階です。

ここで注意したいのは、これが相続税や贈与税を計算するための物差しだという点になります。売買の場面で、この割合どおりに買ってもらえる保証はありません。

出典:国税庁「No.4611 借地権の評価」

出典:国税庁「路線価図の説明」

引き算2|承諾料と、名義を書き換える費用が引かれる

第三者に売るとき、承諾料を誰が負担するかで手取りは変わります。買主の側から見ると、承諾料は住宅ローンで借りられないお金です。その分は、価格から差し引かれやすいんですね。

数字を受け取ったら、承諾料を売主と買主のどちらが負担する前提なのかを必ず聞いてください。前提が違う数字同士を比べても、高い安いは判断できません。

引き算3|建物の古さと、借地の残りの期間が見られる

建物が古く、そのまま住めない状態なら、買主は壊して建て替える費用と、建て替えの承諾にかかる手間を見込みます。定期借地権なら、残りの期間が短いほど使える年数が減るので、価格は下がる方向に働くんです。

逆に、平成4年8月1日以後に設定された普通借地権なら、建物がある場合に限り、借地人が更新を請求すれば従前と同じ条件で更新したものとみなされます(借地借家法5条1項)。地主が異議を述べるには正当の事由が要るので(同6条)、期間が来たら返さなければならない権利ではないということは、買主にも正確に伝えてください。それより前の契約の更新は旧借地法の例によるので、確認2で見た日付がここでも効いてきます。

引き算引かれるもの売主の確認点
1 税の物差しとの差評価額と売値のずれ借地権割合は目安にとどめる
2 承諾料買主が借りられない費用誰が負担する前提か
3 建物と期間建て替え費用・残存期間普通借地か定期借地か

実務をしていた当時から、相場を知らないまま交渉の席につくと、根拠の分からない数字をそのまま受け入れることになりかねないと考えていました。業者を疑うより先に、こちらから根拠を聞くことが大事なんです。

「この数字は、何を差し引いた結果ですか」と一言聞いてみてください。答えが具体的な相手ほど、あとの進み方も安定します。数字の見方でつまずいたら、お問い合わせからご相談ください。

借地権付き建物を売れないまま持ち続けると何が起きるのか|3つのコスト

借地権付き建物を売れないまま持ち続けると何が起きるのか|3つのコスト

売らない判断も選択肢のひとつになります。ただし、その判断には毎年の費用がぶら下がります。

コスト1|地代と建物の固定資産税は毎年出ていく

借地人は、住んでいなくても地代を払い続けることになります。そのうえ、建物の固定資産税は建物の所有者に課されます。固定資産税の納税義務者は土地・家屋の所有者で、課税は毎年1月1日時点の状態で決まるんですね。

草刈り、火災保険、電気や水道の基本料金、遠方なら往復の交通費もかかります。まずは1年分の支払いを集めて、合計を出してみてください

出典:総務省「地方税制度|固定資産税の概要」

コスト2|建物がなくなると、借地の権利を守る土台が揺らぐ

借地の権利を第三者に主張できる根拠は、登記された建物でした。借地借家法は、建物が滅失しても、建物を特定する事項や新たに建てる旨を土地の見やすい場所に掲示すれば効力が続くとしています。

ただし、滅失の日から2年を経過した後は、その前に建物を新たに築造し、登記した場合に限られます(10条2項)。空き家のまま傷ませて倒壊させる、あるいは先に壊してしまうと、この期限と向き合うことになります。

さらに、借地借家法の施行前に設定された借地権では、建物の朽廃による借地権の消滅は従前の例によると定められています(附則5条)。古い契約では、建物が朽ち果てたこと自体で借地権を失う場合があるので、親の代からの借地を空き家にしているなら、専門家に契約を見てもらってください。

コスト3|名義が世代を越えると、売る人が確定しなくなる

3つのうち、いちばん重いのがこれです。建物の名義が亡くなった親のまま動いていないと、相続人は次の世代へ広がっていきます。

売れないから放置するのではなく、放置するから売れなくなるという順番です。相続人同士で持つことになった場合の進め方は共有名義の土地売却は何から始めるか|全員の同意が要る場面と、反対されたときの4つの出口にまとめました。

コスト何が起きるか引き金
1 地代と税地代・建物の固定資産税持ち続ける限り続く
2 権利の土台対抗力や借地権そのものが揺らぐ建物の滅失・朽廃
3 名義の拡散手続きの手間と費用相続登記をしないこと

持ち続けるか手放すかは、気持ちではなく計算で決めるものだと僕は考えているんです。実務をしていた当時、建てる提案をするときは、回収年数を出してから判断してもらっていました。

借地の空き家でも同じで、地代を含めて年間いくら出ていくかを出してから決めてください。数字を出すと、迷っていた時間そのものが費用だったことが見えてきます。

借地権付き建物を売らずに手放すときに知っておく3つのこと

借地権付き建物を売らずに手放すときに知っておく3つのこと

売り先がどうしても見つからないとき、売る以外の手放し方もあります。ただし、それぞれに条件があるので注意してください。

知っておくこと1|地主と合意して返すなら、建物を取り除くのが原則

地主と話し合って借地契約を終わらせ、土地を返す道があります。このとき民法は、借主が土地に附属させた物を収去する義務を定めていて、賃貸借にも準用されます(622条による599条1項の準用)。

つまり、合意して返すときは、建物を壊して土地を明け渡すのが原則になります。解体費を誰が持つのか、建物をそのまま引き取ってもらえるのかは、契約書の定めを確かめたうえで、話し合いで決める部分です。

知っておくこと2|期間満了で更新しないなら、建物買取請求権がある

借地権の存続期間が満了し、契約の更新がないときは、借地人は地主に、建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法13条1項)。この規定に反する特約で借地人に不利なものは無効です(同16条)。

ただし、定期借地権では、この買取請求をしない旨を定めることができます(同22条)。自分の借地がどちらなのかは、確認2で見た契約の種類で決まります。

知っておくこと3|相続土地国庫帰属制度は、借地権には使えない

売れない土地の受け皿として、相続土地国庫帰属制度の名前を聞いたことがある方もいるはずです。この制度は、相続などで土地の所有権や共有持分を取得した人が、その土地の所有権を国庫に帰属させる承認を申請するものになります。

借地人が持っているのは土地を借りる権利であって、土地の所有権ではありません。この制度は、借地権付き建物の出口にはならないと覚えておいてください。

出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」

知っておくこと根拠押さえる点
1 合意して返す民法622条・599条1項建物は取り除くのが原則
2 建物買取請求借地借家法13条・16条定期借地では外せる
3 国庫帰属法務省の制度概要借地権は対象外

解体を伴う場合は、近隣への挨拶を業者任せにしないでください。所有者ご本人が業者と一緒に挨拶に回り、手放す経緯を自分の口で説明すると、近隣の方に事情を分かってもらいやすくなると僕は考えています。

返すか売るかの前に、解体費と年間の支払いを横に並べてみてください。どちらが安く済むかは、並べてみて初めて分かります。

借地権付き建物を売ったときの税金|確かめる3つの制度

借地権付き建物を売ったときの税金|確かめる3つの制度

売れたあとに効いてくる部分です。詳しい要件は制度ごとのページに譲り、ここでは使える制度の名前だけ押さえておきますね。

制度1|譲渡所得は、ほかの所得と分けて計算する

土地や建物、借地権を売ったときの譲渡所得は、給与などとは分けて計算する分離課税です。売った年の1月1日現在で所有期間が5年を超えるかどうかで、長期と短期に分かれます。

相続で引き継いだ場合の所有期間は、亡くなった方の取得の時期から数えるのが原則です。個別の税額計算は税理士の領域になります。

出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」

制度2|相続した空き家の3,000万円特別控除は、借地にも使える

相続または遺贈で取得した被相続人の居住用家屋とその敷地等を、令和9年12月31日までに売った場合、要件に当てはまれば譲渡所得から最高3,000万円を控除できるのがこの特例です。国税庁は、この「敷地等」を土地またはその土地の上に存する権利と説明しています。

土地の上に存する権利には借地権が入るので、借地の上の親の家でも、この特例の対象になり得るんです。昭和56年5月31日以前の建築であること、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどが要件になります。令和6年1月1日以後の譲渡で取得した相続人が3人以上なら、上限は2,000万円です。

変更点と対象外になる場面は空き家の3,000万円控除は何が変わった?|2026年8月の要望での変更点と対象外の5つの出口を解説に詳しくまとめました。

出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

制度3|相続税を納めていれば、取得費加算の特例がある

相続税が課税された財産を、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる仕組みです。

どちらの特例も、売る時期で使えるかどうかが決まります。しかも、空き家の3,000万円控除と取得費加算は併用できず、どちらか一方を選ぶことになります。動く前に、使えそうな制度の名前を税理士に伝えておいてください。

出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

制度効くところ期限
1 分離課税長期か短期か1月1日時点の所有期間
2 空き家の3,000万円控除借地の上の親の家令和9年12月31日まで
3 取得費加算相続税を納めた財産申告期限の翌日以後3年

不動産の売却では、動く前に制度を知っているかどうかで手元に残る額が変わります。制度を知らないまま進めて損をしているケースは多いのではないかと、実務をしていた当時から考えていました。

借地だから特例は関係ない、と思い込むのがいちばんもったいないんですね。名前が出れば、あとは税理士が要件を確かめてくれます。

借地権付き建物が売れないときの進め方|5つのステップ

借地権付き建物が売れないときの進め方|5つのステップ

ここまでを順番に並べます。上から順に進めてください。

ステップ1|止まっている場所を3つに切り分ける

買い手が現れないのか、承諾で止まっているのか、価格が合わないのか。1章の表に自分を当てはめます。ここを飛ばすと、関係のない手当てに時間を使うことになります

ステップ2|権利の種類・契約の時期・建物の名義・地代の4点を紙にする

3章の4点を、契約書と法務局の登記事項証明書で確かめて1枚にまとめます。この紙が、以降すべての相談の共通資料になります。

同じ紙を全員に渡すからこそ、返ってきた答えを横に並べて比べられます

ステップ3|地主の意向を、売り出す前に聞いておく

売ること自体を考えているのか、地主が買い取る余地はあるのか、承諾の条件は何か。買主が決まってから初めて地主に話すと、こじれやすくなります。先に意向を聞いておけば、売り先の選び方が変わります。

ステップ4|性質の違う相手に、同じ資料で聞く

地主、借地権を扱う買取業者、底地と一緒に売る仲介。この3方向のうち2つ以上に当たってください。1社の返事を全体の答えにしないという原則は、ここで守られます。

ステップ5|承諾が得られなければ、弁護士につなぐ

話し合いで承諾が得られないときは、承諾に代わる許可の申立てを検討する段階です。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあるので、ここからは借地の事件を扱う弁護士に相談しましょう。申立ての前に、買主の候補を具体的に立てておくことも忘れないでください。価格の考え方は訳あり物件買取はいくらで決まるのか|「訳」ごとに引かれる4つの額と、仲介より手取りが残る3つの場面が参考になります。

ステップやること押さえる点
1 場所を切り分ける3つの状態に当てはめる打ち手が変わる
2 紙にする権利・時期・名義・地代全員に同じ紙を渡す
3 地主に聞く意向と承諾の条件売り出す前に聞く
4 3方向に聞く地主・買取業者・同時売却1社で決めない
5 専門家につなぐ承諾に代わる許可買主の候補が前提

1社に断られると、それが結論のように感じられるものです。けれど、ここまで見てきたとおり、止まる理由の多くは物件そのものではなく、承諾・融資・相手の事情の側にあります。

売れない理由を1つずつ外していけば、借地権付き建物にも出口は見えてきます。似た構造の「売れない」については、再建築不可物件が売れないときに見る3つの状態|止まる4つの理由と、状態ごとの抜け方でも同じ順番で整理しました。

借地権付き建物が売れないことに関してのよくある質問

借地権付き建物が売れないことに関してのよくある質問

地主の承諾がないと、借地権付き建物は絶対に売れないのですか?

借地が賃借権なら、第三者に譲るには原則として地主の承諾が必要です。ただし、承諾が得られないときは、裁判所に承諾に代わる許可を申し立てる道があるんですね。地上権なら、賃借権の譲渡の承諾という壁はそもそもありません。まず契約書で権利の種類を確かめてください。

親が亡くなって借地の家を相続しました。地主の承諾は要りますか?

相続人は、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐと民法896条が定めています。相続人が相続で借地権を引き継ぐだけなら、地主の承諾は要りません。民法612条がいう「譲り渡し」とは別の話だからです(相続人以外の人への遺贈は別に考えます)。そのうえで、建物の相続登記は申請が義務になっているので、先に名義を整えてください。

地主に「返してほしい」と言われたら、応じなければいけませんか?

借地借家法の普通借地権で建物がある場合、借地人が更新を請求すれば、従前と同じ条件で更新したものとみなされます。地主が異議を述べるには、正当の事由が要ると定められているんです。契約期間の途中なのか、平成4年8月1日より前の旧法の契約なのかでも考え方が変わるので、まず契約書で確かめてください。個別の事情で結論が変わる部分なので、言われた時点で弁護士に相談してください。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。

まとめ

まとめ

借地権付き建物が売れないと言われたら、まず止まっている場所を3つに切り分けるところから始めてください。買い手が現れていないのか、地主の承諾で止まっているのか、価格が合っていないのか。この3つは打ち手が違うので、まとめて扱うと空回りします。

止まる理由は、借地を譲るのに地主の承諾が要ること、住宅ローンが付きにくいこと、買主が地代と契約の条件を引き継ぐこと、仲介会社にとって手間が大きいこと、の4つです。このうち承諾の壁には、裁判所の許可と地主の介入権という法律上の出口が用意されています

動く前に、権利の種類・契約の時期・建物の名義・地代の4点を紙にしてください。そのうえで、地主、借地権を扱う買取業者、底地と一緒に売る仲介の3方向に同じ資料で当たります。価格は、承諾料を誰が負担する前提か、建物と残りの期間をどう見たかの引き算で決まるものです。

持ち続けるなら、地代と建物の固定資産税を含めて年間いくら出ていくかを先に出してください。建物の名義を動かさないまま世代を越えると、売る権利を持つ人そのものが確定しなくなります。借地の上の親の家でも、空き家の3,000万円特別控除の対象になり得ることは覚えておいてください。

訳あり物件全体の売り先は訳あり物件の売却は「訳」の中身で売り先が決まる|4種類の訳と5つの出口、動く前に整える3つのことに、地主の側から見た売り方は底地売却は誰に売るかで金額が変わる|5つの売り先と、動く前に確かめる契約書の見方にまとめています。個別の税額計算は税理士、登記の手続きは司法書士、地主との争いは弁護士の領域です。どこから手をつけるか迷ったときは、お問い合わせからご連絡ください。

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高槻 翔太
元・土地活用コンサルタント。宅地建物取引士(試験合格) ・FP2級保有 。 2016年より、大手不動産・建築会社で、土地有効活用のコンサルティング営業を6年間しており、地主様の資産運用・相続税対策を支援 。 現在は不動産特化の専門家として、SUUMOや朝日新聞社「相続会議」など大手メディアを中心に累計1,500記事以上を執筆・監修 。 現場で見てきた「放置空き家の悲劇」や「兄弟間の相続トラブル」を防ぐため、綺麗事抜きで「1円でも多くお金を残し、ご縁を守る」ための本音のノウハウを発信中。 >> 詳しいプロフィールと当サイトの理念はこちら