親から相続した借地の家を、地主に返したいと考えている方に向けた記事です。また、借地の上の家を、売るか返すかで迷っている方も、そのまま読み進めてください。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用の営業をしていました。当時のお客様の中心は、土地を持つ地主の方です。借地を返す・買い戻すという話にも、当時、地主の方の側から関わったことがあります。
借地権を地主に返す方法を調べると、上位に並ぶのは制度の説明です。更地にして返す原則や、満了のときに建物を買い取ってもらう権利の話が中心になります。そこでこの記事では、制度は要点にとどめ、その手前に重心を置きました。つまり、返す側が、地主の方に話を持ちかける前にそろえておくことです。
先に結論を書いておきますね。借地権を地主に返すときは、話を持ちかける前に、借地を持つ側の相続人の考えを1つにそろえてください。解体費の持ち方の案も、このときに用意しておきます。話を持ちかけたら、地主の方の予定を聞き、決まった条件から日付入りの書面にしていきましょう。
この記事で扱うのは、返し方・返す話のつまずき・相続人の考えのそろえ方・書面にする順番の4つです。
なお、法令の記述は、e-Gov法令検索の条文と、法務省・裁判所の案内で確かめました。2026年10月時点の内容としてお読みください。
借地権を地主に返すには、返す時期で進め方が変わる

借地を返す進め方は、契約の期間の途中か、満了のときかで分かれます。契約の期間の途中なら、地主の方との合意で返すのが基本です。満了のときは、更新しないで終える道があります。
期間の途中は、取り決めが無ければ地主の方と合意して返す
民法には、期間を決めた賃貸借でも途中で解約できる場合の決まりがあります。借地を持つ側(または双方)が、期間の途中で解約する権利を契約で残しておいた場合です。このときは、解約を申し入れて契約を終えられます。さらに、土地なら、申し入れの日から1年で契約が終わる、というのが民法の決まりです。ただし、契約で予告の期間を決めていれば、その期間によると考えられます。
裏を返せば、その取り決めが無いまま、借地を持つ側だけで途中に終わらせることは原則としてできません。取り決めが無ければ、期間の途中で借地権を地主に返すには、原則として地主の方の合意が要ります。
まず、手元の契約書を見て、借地の期間と、借地を持つ側から途中で解約できる取り決めの有無、予告の期間を確かめてください。親の代から続く借地なら、最初の設定が古いかもしれません。借地借家法が施行された1992年8月1日より前なら、更新の決まりは古い借地法の例によります。なお、手元の契約書が更新のときに作り直したものでも、決め手は最初に借地権が設定された時期です。そのため、いつから借りているのかも、あわせて確かめておきましょう。
また、例外もあります。1992年8月1日以後に設定された借地で、更新の後に建物がなくなった場合です。取り壊したときも、これに当たります。このときは借地を持つ側から解約を申し入れられ、3か月で借地権がなくなる決まりです。
期間の満了時は、更新しないで終える道がある
満了のときに返すなら、更新は求めずに、契約を終えてください。1992年8月1日以後に設定された借地なら、借地借家法で、借地権の期間は30年が基本となります。また、契約で、それより長い期間を決めることも可能です。それより前に設定された借地では、期間の決まりが違うことがあるので、契約書を確かめてください。
なお、1992年8月1日以後に設定された借地(定期借地権を除く)では、満了の後も建物を残したまま土地を使い続けると、契約を更新したものとみなされます。地主の方が、正当な理由があって遅れずに異議を述べたときは別です。満了で終えるなら、更新しないことと、建物を壊すか買い取りを求めるかを、書面で地主の方に伝えておきましょう。それより前に設定された借地での扱いは、弁護士に確かめてください。
期間が満了して更新がないときは、地主の方に、建物を時価で買い取るよう求めることができます。ただし、存続期間を50年以上とする定期借地権では、この求めをしない取り決めを結べるので注意してください。まず、契約書で契約の種類を確かめておきましょう。自分の借地で求めることができるかは、借地の種類や契約が終わる事情でも変わります。そのため、弁護士に確かめておくと確実です。買い取りの求め方と、地主の方に借地権を売る道は、借地権を地主に買い取ってもらうにはで詳しく扱いました。
建物は取り除いて返すのが原則
民法には、借り手が後から附属させた物を、貸し借りが終わったときに取り除く義務があります。そして、賃貸借も、この決まりの対象です。借地を返すときは、この決まりと契約に沿って、建物を壊して更地にしてから返すのが原則となります。期間の満了で買い取りを求める場合を除き、建物を残すには地主の方の同意が必要です。
返す時期ごとの進め方を表で確かめる
返す時期ごとに、進め方と建物の扱いを並べました。
| 返す時期 | 進め方 | 建物の扱い |
|---|---|---|
| 期間の途中(借地を持つ側から途中で解約できる取り決めがある) | 取り決めに沿って解約を申し入れる(予告の期間の決めが無ければ、土地は申し入れから1年で終わる) | 取り除くのが原則。残すなら地主の方の同意 |
| 期間の途中(取り決めが無い) | 原則として、地主の方と合意して返す(1992年8月1日以後の設定で、更新後に建物がなくなったときは例外あり) | 壊すか残すかを、合意の中で決める |
| 期間の満了時 | 更新しないで終える | 地主の方に、建物を時価で買い取るよう求めることができる(定期借地権では外せる取り決めあり) |
どの段に当たるかで、地主の方に持ちかける話の中身が変わります。先に確かめておきましょう。
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借地権を地主に返す話で、揉めた・手間がかかった3つのつまずき

返し方が分かっても、話がまとまるとは限りません。借地権を地主に返す話は、解体費・相続人の考え・地主の方の事情で、つまずくことがあります。
僕が土地活用の営業をしていた当時、地主の方の側の相談として、借地を返す・買い戻す話に関わったことがあります。また、地主の方に建物を建てる提案をする中で、その話が出たこともありました。件数でいえば、2〜3件です。僕が関わった件は、返す形がまとまる前に、話が止まりました。話を進めるうえで揉めたり、手間がかかったりしたのは、次の3つです。
つまずき1|解体費をどちらが持つか
1つ目は、建物を壊す費用をどちらが持つかでした。一般に、返す側には建物を取り除く義務があるのが原則です。ただ、地主の方が建物を使うなら壊さずに済むこともあり、費用の持ち方には話し合いの余地があります。
解体費の話は、返す側で見積もりを取り、持てる額の案を用意してから持ちかけましょう。そうすると、地主の方も答えを出しやすくなります。なお、壊す前に地主の方と現地で確かめることや業者への頼み方は、実家の解体を頼む前にで整理しました。
つまずき2|借地を持つ側の相続人の考えがそろわない
2つ目は、借地を持っている側の相続人が何人かいて、返すかどうかがまとまらないことでした。一般に、返す側の考えが1つでなければ、地主の方も返す条件を決めようがありません。返す側の考えがそろっていることが、地主の方に話を持ちかける前提です。そろえ方は、3章で詳しく書きます。
つまずき3|地主の方の側の事情で、受け取る条件が変わる
3つ目は、地主の方の側の事情で、受け取る条件が変わったことです。事情というのは、相続税のことや、建物を建てる予定などでした。一般に、借地が戻ると、地主の方はその土地を自分で使えるようになるわけです。その使い道の予定や相続税の事情が変われば、建物を残すか壊すか、いつ返してほしいかも変わりえます。そして、地主の方の予定の聞き方と、条件の残し方は、4章のテーマです。また、地主の方の側から見た借地の取引の事情は、借地権を地主に買い取ってもらうにはでも整理しています。
借地権を地主に返す前に、相続人の考えをそろえる

親から相続した借地を返すなら、返す側の足並みが先です。地主の方に話す前に、借地を持つ側の相続人の考えを1つにそろえ、地主の方と話す人を決めてください。
相続人が何人かいれば、返す話にも全員の同意をそろえる
相続人が何人かいれば、亡くなった人の財産は相続人の共有になる、というのが民法の定めです。遺産分割で継ぐ人を決めるまでは、借地権も相続人のみんなで持っている形になります。さらに、土地を借りる権利のような財産を数人で持つときも、共有の決まりが当てはまります。その決まりでは、共有の物の形や働きを大きく変えるのに、ほかの共有者の同意が必要です。借地を返すことは借地権そのものを手放すことなので、この大きな変更に当たると考えられます。相続人のうち一部の人だけで地主の方と合意するのは避け、全員の同意をそろえてから進めるのが安全です。
地主の方と話す人と、任せる範囲を書面にする
| 相続人の状況 | 地主の方に話す前にそろえること |
|---|---|
| 相続人が自分1人 | 返す条件の案(返す日・解体費の持ち方)を自分で決める |
| 相続人が何人かいて、遺産分割がまだ | 返すかどうかを全員で決め、地主の方と話す人と、任せる範囲(解体費の上限・返す日)を書面にして全員が名前を書く |
| 遺産分割で、借地を継ぐ人が決まっている | 継いだ人が地主の方と話す。分けた内容は遺産分割協議書に残す |
| 連絡のつかない相続人がいる | 地主の方に話す前に、司法書士か弁護士に、進め方を相談する |
この表は、相続人の状況ごとに、地主の方に話す前にそろえることを並べたものです。地主の方と話す人を1人に決め、どこまで任せるかを先に決めておきましょう。その結果、話し合いの途中で、返す側の答えがぶれにくくなります。
名義が亡くなった親のままなら、相続登記の期限も見る
借地の上の家の名義が亡くなった親のままなら、相続登記の期限も見ておきましょう。相続登記は、相続が始まったことと、その家を取得したことを知った日から、3年以内に申請する義務があります。2024年4月1日より前に始まった相続なら、3年を数え始めるのは、知った日と2024年4月1日の遅いほうです。2024年4月1日より前に知っていれば、期限は2027年3月31日までとなります。なお、名義のままの家を手放す順番は、相続登記が未了の実家は売却できるかで詳しく扱いました。
相続人の間で考えが分かれて話し合いが進まないときは、弁護士への相談が必要です。個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。
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借地権を地主に返す条件は、地主の予定を聞いてから書面にする

返す側の考えがそろったら、次は地主の方の側です。地主の方が受け取る条件は、話の途中で変わることがあります。予定を先に聞き、決まった条件から順に、日付を入れて書面にしてください。
2章で書いたとおり、当時関わった件の中に、受け取る条件が変わったものがありました。地主の方の側の事情(相続税のことや、建物を建てる予定など)によるものです。
一般に、条件が口約束のままだと、事情が変わったときに困ります。なぜなら、どこまで決まっていたのかが、分からなくなるからです。
地主の方に先に聞いておく3つのこと
返す条件を出す前に、地主の方に次の3つを聞いておきましょう。
| 聞くこと | 条件のどこに響くか |
|---|---|
| 戻った土地の使い道の予定(建てる・貸す・売る・まだ決めていない) | 建物を残すか、壊すか |
| その予定の時期 | 返す日と、壊す時期 |
| 建物と、敷地の中の物(塀・庭木など)の扱いの希望 | 壊す範囲と、解体費の見積もりの中身 |
予定がまだ決まっていないと言われたら、決まりそうな時期だけでも聞いておきます。そうすれば、返す日の案が立てやすくなるはずです。また、聞いた内容と聞いた日は、メモに残しておいてください。
決まった条件から、日付を入れて書面にする
条件は、全部がそろうのを待たずに、決まったものから順に書面にしていきます。ただし、途中の書面は、決まったことと日付の記録にとどめてください。一方で、契約を終える合意書は、返す日と解体費などの条件がそろってから交わすのが安全です。書面にしておく項目を、次の表にまとめました。
| 書面にしておく項目 | 確かめること |
|---|---|
| 返す日(土地を明け渡す日) | 期間の途中で返すのか、満了で返すのか |
| 建物を残すか、壊すか | 壊すなら範囲(基礎・塀・庭木など)と、終える日 |
| 解体費の持ち方 | どちらが、いくらまで持つか |
| 地代を払う最後の月 | 最後の月を日割りにするか |
| 預けたお金の扱い | 契約のときに預けた敷金や保証金があるか |
| 建物の登記 | 壊すなら滅失登記、残すなら名義をどうするか |
預けたお金と、壊した後の登記も確かめる
民法では、名目を問わず、地代などの担保として借り手が預けたお金を敷金と呼びます。そして、貸し借りが終わって土地が返されたら、地主の方は、未払いの地代などを差し引いた残りを借り手に返す決まりです。契約のときに預けたお金があれば、何のために預けたお金かを、契約書と領収書で確かめてください。地代などの担保か、返さない約束のお金かで、扱いが変わるためです。
建物を壊したときは、壊した日から1か月以内に、建物の滅失の登記を申請しなければなりません。正当な理由が無いまま申請しないでいると、10万円以下の過料の対象です。要る書類は、滅失登記の必要書類は?相続した家を解体したときの手続きと1か月の期限にまとめました。
書面は、名前を書く前に専門家に見てもらう
返す条件の書面は、相続人と地主の方が名前を書く前に、弁護士に中身を見てもらうと安心です。また、お金を受け取って返すか、受け取らずに返すかで、税金の扱いが変わることがあります。地主の方や借地を持つ側が個人か会社かでも違うため、条件を決める前に税理士にも確かめておきましょう。なお、途中で条件を変えることになったときも、変えた中身と日付を書面に残してください。
返す前に、売った場合の値段とも比べておきたい方には、無料査定でお伝えしています。返すまでの見回りをする0円空き家管理とあわせて、お問い合わせからお気軽にどうぞ。
まとめ

借地権を地主に返す前に、返す側でそろえておくことを振り返ります。
- 期間の途中か満了時かで進め方が変わる。途中なら、借地を持つ側から解約できる取り決めが無い限り、原則として地主の方との合意で返す
- 建物は取り除いて返すのが原則。期間の満了で買い取りを求める場合を除き、残すには地主の方の同意が要る
- 借地を持つ側の相続人の考えを1つにそろえ、地主の方と話す人と任せる範囲を書面にする
- 地主の方の予定を先に聞き、決まった条件から順に、日付を入れて書面にする(受け取る条件は途中で変わることがある)
このように、返す側で決められることを先に決めておけば、地主の方とも条件を詰めやすくなります。
よくある質問

質問1|借地を返すとき、地代はいつまで払えばいいですか?
地主の方と合意して返すなら、返す日を決めて、その日までの地代を払う形が基本です。解約を申し入れて終えるなら、契約が終わる日まで地代がかかります(予告の期間の決めが無ければ、土地は申し入れから1年。1章で書いた例外の場合は3か月)。最後の月を日割りにするかどうかは、返す条件の書面に書いておきましょう。また、返す日より前に建物を壊すなら、壊した後の地代の扱いも、あわせて決めておくと揉めにくくなります。
質問2|地主の方から「今は受け取れない」と言われたら、どうすればいいですか?
期間の途中で、借地を持つ側から解約できる取り決めも無いなら、原則として地主の方の同意が無いと返せません。その場合は、地主の方の予定が決まる時期を聞いて待つか、満了が近ければ満了で終えるか、返さずに売るかを考えます。満了で終えるときは、1章で書いたとおり、更新しないことと建物の扱いを書面で伝えてください。売る道と、地主の方が承諾しないときの手続きは、借地権付き建物が売れないのは、どこで止まっているのかで整理しました。
質問3|建物の中に家財が残っています。返す前にどうすればいいですか?
建物を壊して返すなら、壊す前に家財を片付けておく必要があります。建物を残して返すなら、中の物をどこまで残してよいかを、地主の方と書面で決めておきましょう。なお、片付けの進め方は、空き家の片付けは出口を決めてから始めるで、売る・壊す・貸すに分けて書きました。
出典








当時、揉めたり手間がかかったりしたところは、返す側にも、地主の方の側にもありました。だからこそ、返す側で決められることは、地主の方に持ちかける前に決めておいてください。