親などから家や土地を相続したけれど、名義が亡くなった人のままになっている、という方に向けた記事です。相続登記をしないで置いておくと何が起きるのか、すぐに登記できないときにどうすればよいのかをまとめています。
僕は2016年から6年間、大手の不動産・建築会社で土地活用の営業をしていました。この記事には、当時、名義が古いまま残った空き家の持ち主を調べた経験も入れています。
先に結論を書いておきますね。相続登記は2024年4月1日から義務になり、正当な理由なく期限までにしないと、10万円以下の過料の対象になります。ただ、先に困るのは、売ることも担保に入れることもできないこと、相続人が亡くなるたびに話す相手が増えること、ほかの相続人の持分が差し押さえられたときに、自分が引き継ぐはずの分を主張できないおそれがあることです。さらに名義を古いまま代を重ねると、近所の方や不動産会社などの外の人が持ち主にたどり着きにくくなり、売りませんかといった話や活用の提案も、近所からの困りごとも、持ち主に届かなくなることがあります。遺産を分ける話し合いがまだで、すぐに登記できないなら、相続人申告登記で自分の分の義務を果たし、家に通う人を決めておきましょう。
なお、条文(不動産登記法・民法)はe-Gov法令検索で、期限と過料の流れは法務省の案内で確かめました。2026年11月時点の内容としてお読みください。
相続登記をしないとどうなる?罰則より先に困ること

相続登記をしないままだと、罰則の話だけではなく、売る・担保に入れるといった場面で手が止まります。まずは、何が起きるのかを順に並べておきましょう。
2024年4月から義務になり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる
不動産登記法76条の2では、相続で不動産を取得した人は、相続が始まったことと取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければならないとされています。法務省の案内によると、2024年4月1日より前に相続を知った不動産で、まだ登記していないものは、2027年3月31日までが期限です。
正当な理由が無いのに申請しないと、10万円以下の過料の対象になります(同法164条)。期限を過ぎたらすぐ科されるのではなく、登記官からの催告、裁判所への通知を経て、裁判所が決める流れです。相続人がとても多く書類の収集に時間がかかる場合や、遺言の有効性などで争いがあって誰が取得するか決まらない場合は、正当な理由と認められるとされています。期限と過料までの段階は、相続登記が未了の実家は売却できるかで詳しく書いています。相続のほかの期限もまとめて知りたい方は、不動産の相続で手続きが遅れるとどうなる?を読んでみてください。
名義が亡くなった人のままでは、売ることも担保に入れることもできない
相続人は、亡くなった時点で家の権利を引き継いでいます(民法896条)。それでも、名義が亡くなった人のままでは、買う人へ名義を移す登記ができません。売ると決めても、先に相続登記を済ませないと引き渡しまで進めないのです。
家を担保にお金を借りるときも同じで、名義が亡くなった人のままだと、金融機関は担保の登記をできません。法務省の案内でも、相続した不動産を売ったり、抵当権を設定したりするには相続登記が必要とされています。売るか、家を担保に借りるかを決めた時点で、名義を直す時間がさらに必要になります。
相続人が亡くなると、話す相手と書類が増えていく
遺産を分ける話し合いをしないまま相続人の一人が亡くなると、その人の配偶者や子が新しく話し合いに加わります。代が進むほど、遠い親戚や会ったことのない人とも話をまとめることになります。
集める戸籍も、亡くなった人の分だけ増える一方です。法務省の案内でも、遺産を分ける前の不動産は相続人全員が法定相続分で取得した状態になり、相続する気が無い人にも登記の義務がある、とされています。共有の名義人が亡くなったときに先にすることは、不動産の共有名義人が死亡したら先にすることにまとめました。
自分が引き継ぐと決めても、ほかの相続人の持分の差押えに対抗できないことがある
民法899条の2では、相続で引き継いだ権利のうち、法定相続分を超える部分は、登記をしないと第三者に主張できないとされています。話し合いで自分が家を引き継ぐと決めても、登記をしないうちは、その決めた内容を第三者に主張できないことがあるのです。
例を挙げると、その間に、ほかの相続人にお金を貸した人がその相続人の持分を差し押さえると、法定相続分を超えて引き継いだ部分を、その人に主張できないおそれがあります。話し合いで決まったら、早めに決めたとおりの登記をしておくほうが安全です。
相続登記をしないまま代を重ねると、外から持ち主にたどり着きにくくなる

ここまでは、自分たちが動くときに困ることでした。相続登記をしないまま名義を放っておくと、外の人から自分の家が見えなくなる、という困りごともあります。
当時、何代も前の名義のままで、持ち主をたどれない空き家があった
当時、営業の側から話を持っていこうとしても、持ち主にたどり着けない空き家がありました。僕は土地活用の営業をしていて、誰も住んでいない家の持ち主を登記事項証明書で調べ、建て替えや駐車場、貸す、売る、といった話をしに行く立場でした。
その中に、名義が三代以上前の世代の人のままになっている家もありました。そこまで前の世代の名前になると、隣に住む方も知らないのです。名義の人を知る人がいないので、調べは持ち主の手前で止まりました。当時は、相続登記が義務になる前のことでした。名義が古い世代のままのとき、相続人の側で名前の主をたどる手間は、名義変更していない相続した建物の解体は?で書きました。
届かなくなるおそれがあるのは、売買や活用の話と、近所の困りごと
持ち主にたどり着けないことを、持ち主の側から整理してみます。次のような話が、自分のところまで届かなくなるおそれがあるということです。
- 家や土地を売りませんか、という話
- 建て替えや駐車場、貸すといった活用の提案
- 枝が伸びてきた、虫が出るので何とかしてほしい、という近所からの困りごと
名義を直さないと困るのは、自分が売るときだけではありません。代を重ねて外の人が持ち主を見つけにくくなると、売る機会も、近所との話し合いの機会も、知らないうちに逃すことがあります。とくに、売りませんか、建て替えませんかといった話は、持ち掛ける側が持ち主を見つけられなければ、そもそも持ち込まれません。登記簿は、不動産会社などが持ち主を探すときにまず見るものです。名義を今の持ち主にしておくことは、外からの話の受け口を開けておくことでもあります。
登記をしていなくても、管理の責任は相続した人に残る
名義が亡くなった人のままでも、家を引き継いだのは相続人です(民法896条)。民法717条では、塀や建物などに欠陥があって、人にけがをさせたり物を壊したりしたとき、まず塀や建物を占有している人が、その人が必要な注意をしていたときは持ち主が、損害を償う責任を負うとされています。名義を直していないことは、責任を逃れる理由になりません。
近所の方が困っていても、持ち主にたどり着けなければ、その声は届きにくくなるのです。空き家の傷みが進んだときの責任と、届く知らせは、空き家の倒壊は誰の責任?にまとめています。
相続登記をすぐにできないときに、しておくこと

相続人の話し合いがまとまらない、相続人が多くて戸籍を集めきれない、といった事情で、相続登記をしない期間が長引くこともあります。すぐに登記できないときも、期限の義務と、外からの話の受け口は、手当てしておけるのです。
遺産を分ける前なら、相続人申告登記で自分の分の義務を果たす
不動産登記法76条の3では、相続登記の義務がある人は、登記官に、相続が始まったことと自分が相続人であることを申し出られるとされています。遺産を分ける話し合いがまだのうちに、期限内にこの申し出(相続人申告登記)をすれば、申し出た人は相続登記の義務を果たしたものとみなされます(同条2項)。相続人が一人でも申し出られますが、法務省の案内によると、義務を果たしたとみなされるのは申し出た人だけです。全員の分を済ませるには、全員がそれぞれ申し出る(連名でまとめて出すこともできる)必要があります。
一方で、すでに遺産を分けて誰が家を引き継ぐか決まったあとの登記の義務は、この申し出では果たせません(同条2項・法務省の案内)。その場合は、相続登記そのものを進めましょう。申し出があると、登記官は申し出た人の氏名と住所を登記に付け加えられるとされているため(同条3項)、外の人が相続人を探す手がかりにもなります。
ただし、これは義務を果たすための簡易な手続きです。家の名義が自分に移るわけではないので、この申し出だけでは売ることはできません。その後に遺産を分けて家を取得したら、分けた日から3年以内に、その内容の登記をする必要があります(同条4項)。相続登記の手順や費用の免税まで含めた詳しい流れは、相続登記が未了の実家は売却できるかにまとめています。
名義を直すまで、家に通う人を決めておく
相続登記をしないままの期間が長くなりそうなら、誰が家に通うかを、相続人の間で先に決めておきましょう。営業をしていた当時、持ち主を探して空き家を訪ねたときに手がかりになり得たのは、草むしりや郵便受けの片付けに出入りしている人がいるかどうかでした。出入りする人がいる家なら、張り込むように通い続ければ、いつか会える望みが残ります。名義が何代も前のままで誰も出入りしない家は、そこで手がかりが途切れました。
通う人がいれば、家の様子を見られるうえ、近所の方や外から来た人が、その人に声をかけられる可能性が残るのです。誰が通うかは相続人の間で決めることなので、通う回数や、近所の方が困ったときに連絡する先も、あわせて話し合っておきましょう。
名義を直す順番と、相談する先
名義を直すときは、次の順番で進めるのが基本です。
- 登記事項証明書で、今の名義と、対象の土地と建物を確かめる
- 亡くなった人の遺言があるかを確かめる
- 亡くなった人の戸籍を集めて、相続人を確かめる
- 遺言で決まっていなければ、相続人で話し合い、誰がその家を引き継ぐかを決める
- 決めた内容で相続登記を申請する
手続きの進め方は、法務局の登記手続案内(予約制)か、登記の専門家である司法書士に相談できます。名義が何代も前のままで相続人が多いときは、早めに司法書士へ相談すると、集める書類の見通しが早く立つでしょう。
相続人の間で考えが分かれたまま話し合いが進まない場合、個別の争いに関するご相談は、法律上、弁護士以外がお答えできない決まりがあります。その場合は、弁護士へ相談してください。
まとめ

相続登記をしないと起きることのまとめです。
- 2024年4月1日から義務。知った日から3年以内(それより前に知った分は2027年3月31日まで)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象
- 名義が亡くなった人のままでは、売ることも担保に入れることもできない
- 相続人が亡くなるたびに、話す相手と集める書類が増える
- 自分が引き継ぐと決めても、登記するまでは、ほかの相続人の持分が差し押さえられたときに、引き継ぐはずの分を主張できないおそれがある
- 登記をしていなくても、管理の責任は相続した人に残る
- 名義を古いまま代を重ねると、外の人が持ち主にたどり着きにくくなり、売買や活用の話も近所の困りごとも届かなくなることがある
- 遺産を分ける前ですぐにできないなら、相続人申告登記で自分の分の義務を果たし、家に通う人を決めておく
相続した家を今後どうするかをまだ決めていない方は、空き家をどうする?5つの道と、選ぶ前に共有者・未登記を確かめるも読んでみてください。まずは今日、相続した家の登記事項証明書を取り、名義が誰になっているかを見てみましょう。
よくある質問

質問1|祖父の名義のままの土地も、相続登記をしないといけませんか?
相続で取得したことを知った不動産なら、2024年4月1日より前の相続でも、登記の義務の対象です。法務省の案内では、2024年4月1日より前に相続を知った不動産は、2027年3月31日までに相続登記をする必要があるとされています。2024年4月1日以降に知った場合は、知った日から3年以内です。また、どの不動産を相続で取得したかを具体的に知るまでは、登記の義務は始まらないとされています。祖父から親、親から自分と相続が重なっているときは、それぞれの相続の分を確かめることになるので、早めに司法書士へ相談しましょう。
質問2|兄が相続すると決まった家でも、私に登記の義務はありますか?
遺産を分ける話し合いで兄が取得すると決まったのなら、あなたに相続登記の義務はありません。法務省の案内でも、義務があるのは不動産を相続で取得した人とされています。一方で、話し合いがまだで、全員の共有の状態なら、相続する気が無くてもあなたにも義務があります。その場合は、期限内(3年以内、2024年4月1日より前に知った分は2027年3月31日まで)にあなた一人で相続人申告登記をすれば、あなたの分の義務を果たせます。
質問3|親の家の登記簿を見たら、名義が古いままでした。まず何をすればいいですか?
まず確かめたいのは、登記事項証明書に載っている名義の人が誰か、土地と建物の名義が同じか、の2点です。名義の人から今の自分までに、相続が何回重なっているかが分かると、集める書類と話す相手の見通しが立ちます。そのうえで、法務局の登記手続案内か司法書士に相談し、遺産を分ける前ですぐに登記できないなら、相続人申告登記で自分の分の義務を果たしておくと安心です。
出典








当時、登記簿に載った名前を頼りに訪ねても、その名前を知る人が近所にいない家がありました。名義が古いまま残ると、外から見て持ち主の分からない家になってしまうんです。